いつでも元気

2017年6月8日

医療と介護の倫理 「自宅で最期まで暮らしたい(2)」

堀口信(全日本民医連 医療介護倫理委員会 委員長)

 昨年5月、落語家の桂歌丸さんが司会を務めた「人生の終い方」(NHKスペシャル)が放映されました。
 「誰だってあっちへ行くことは分かっていますが、こと切れるまでの限られた時間に、人生の総決算として何をしたらいいのか。考え出したら、これはきりがなくて止まらなくなりますよね。あなたも私と一緒に考えていきましょう」。そう歌丸さんが切り出して、亡くなられた方たちが紹介されました。

幼い子どもに伝えたいこと

 番組の中からお一人を紹介します。若くして末期がんで余命数カ月と告げられた30代の男性と看護師の妻、9歳と6歳の2人の子どもの4人家族のケースです。男性は容体が悪化していくなか、子どもたちの成長をいつまで見届けられるのか、そればかり考えていました。
 自分はもうすぐ、子どもたちのそばにいて何かを教えたり、励ましたりできなくなってしまう。残された時間の中でどうしても伝えたいことがありました。この先、どんな困難に直面しても「立ち向かうこと、あきらめないこと」です。しかし何と言えば幼い子どもたちに伝わるのか、言葉が見つかりません。
 この方はある決断をします。残された力を振り絞って家族旅行に出かけることにしました。言葉では伝えられなくても、最期まで前向きに生きる自分の姿を覚えておいてほしい。子どもが何か不安になったとき、行き詰まったとき、そのときには自分のことを思い出して「おやじも頑張っていたな」と思えれば、あきらめないのではないか。
 向かったのは家族でよく出かけた温泉です。家にいたときは、体に負担が大きくて入れなかった風呂にも、あえて子どもたちと入りました。旅行の4日後、家族一人ひとりの顔を見つめた後、眠るように息を引き取りました。「立ち向かい、あきらめない」。命をかけて子どもたちに伝え、人生を終えました。

人生の終い方

 人生の終い方、それは「どこで最期を迎えるか」だけでなく、「誰と」「どうやって(何を行いながら)」最期を迎えるかにつながります。
 「自宅で最期まで暮らしたい」という願いには、こうした人生の終い方に対するさまざまな思いが詰まっています。
 自宅での最期を希望しても、病状や経済的な問題、介護できる家族の有無、在宅医療を提供する医療機関の有無など、心配なことは多々あります。
 厚労省がまとめた「終末期医療に関する意識調査」(2014年)によれば、末期がんでも痛みがなく食事が摂れる状態なら、72%の人が「居宅で過ごしながら医療を受けたい」と考えています。同じく74%が「自分のやりたいこと、生活を優先した医療」を希望しています。
 しかし、同じ末期がんで痛みがない状態でも、病状が進んで食事や呼吸が不自由になった場合、居宅を希望する人は37%に減ります。
 最期を迎えつつある人に向き合うとき、自宅か病院かそれとも介護施設か、揺れ動くご本人の気持ちをていねいにくみ取る倫理的な関わりが、医療と介護に関わる人たちには求められています。
 同じ意識調査で「自身の死が近い場合に、受けたい医療や受けたくない医療について、家族と全く話したことがない」という人は、56%と半数以上にのぼりました。
 最期が近づくと、ご本人の意思を確認することは難しくなります。家族や近しい人が、ご本人の気持ちを医療者に伝えられるよう、事前に話し合いをしておくことも大切です。

いつでも元気 2017.6 No.308

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