MIN-IRENトピックス

2017年7月4日

認知症Q&A 大牟田市の先駆的な取り組み

 福岡県大牟田市は、認知症に関する先駆的な取り組みで知られています。
 介護老人保健施設「くろさき苑」(医療法人親仁会)苑長の宮田真由美さんに、同市の「認知症SOSネットワーク模擬訓練」について解説してもらいました。

 大牟田市では2001年11月、市内の認知症にかかわる施設や医療機関の専門職が手を携えた「認知症ライフサポート研究会」が発足。市の長寿社会推進課が事務局を担い、官民共同で02年から「認知症ケアコミュニティ推進事業」を始めました。
 事業目的は「地域全体で認知症の理解を深め、認知症になっても誰もが安心して暮らし続けられるまちをつくろう」です。02年に市内全世帯で認知症に関する大規模な実態調査を行い、調査結果をもとにさまざまな先駆的な取り組みを進めてきました。
 その一つが市南部の駛馬南小学校の校区で始まった模擬訓練です。同校区には「はやめ南人情ネットワーク」という住民組織があります。ネットワークの活動の柱は(1)子どもも大人も認知症の人も、みんなが集まる場を作ろう(2)認知症の人や家族を支え、行方不明にならないように日頃から見守りや声掛けができるようにSOSネットワークを作ろう、の2点です。
 このSOSネットワークをモデルケースに、認知症の人が行方不明になったという設定のもと、04年に第1回「認知症SOSネットワーク模擬訓練」を実施。地域で認知症の人を支えるためには、小学校区の身近な単位でネットワークを作り、自治会や民生委員など地域資源を活用しようという狙いです。
 模擬訓練は07年から市が主催して7校区に広がり、10年には市内全校区へ広がりました。14年以降は3000人を超える市民が参加。各校区の実情や課題に応じた訓練を、地域住民や商店、小中学校、高校と協力して毎年実施しています。

模擬訓練の様子(宮田さん提供)

模擬訓練の様子(宮田さん提供)

“徘徊”を使わない訓練

 模擬訓練は行方不明になった認知症の人の情報を市民へ伝達し、警察と行政、地域住民や介護サービス事業者などが協働し、発見、保護します。
 目的は市民の理解と日頃から見守り合うという意識の向上、そしてセーフティーネットワークの構築です。訓練前には市内全域で100回以上の「認知症サポーター養成講座」を実施。年々、地域住民の主体性や独自性が育まれ、住民が認知症を身近な暮らしの課題として議論し、学び合い助け合う関係をつくっています。
 訓練は14年まで「徘徊SOSネットワーク模擬訓練」との名称でした。15年から当事者参加型とし、人権への配慮、認知症に対する正しい理解の普及のために、名称に“徘徊”という言葉を使わないようにしました。
 以前より徘徊という言葉には違和感がありました。14年に国内初の認知症当事者団体「日本認知症ワーキンググループ」が発足、大牟田市でも当事者から「なぜ徘徊というのだろう」「自分たちは当てもなく、さまよい歩いているのではない」という声が上がりました。
 “徘徊”は多くの場合、本人にとって目的や意味のある行動です。こうした声も受けて、地域住民と意見交換を行いました。一部で「徘徊は偏見で言っているつもりはない」「徘徊訓練との名称が地域で浸透しているので戸惑う」との声もありましたが、おおむね理解が進みました。訓練中も「徘徊役」の人の呼び名は「外出役」に変更しました。
 次回は大牟田市のまちづくりと医療法人親仁会(民医連)や友の会の関わりについて、説明したいと思います。

いつでも元気 2017.7 No.309

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