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2017年7月18日

渡辺治さん緊急インタビュー 安倍「改憲」提案が意味すること “加憲”“2020年施行” 戦後最大の憲法の危機だ

 安倍首相は「二〇二〇年を自衛隊を明記した新しい憲法の施行の年にしたい」と表明しました。九条に自衛隊を認める「第三項」を加える提案です。自民党はこれまでも改憲を試み、そのつど国民が阻止してきました。今回の改憲提案はこれまでと違います。渡辺治さん(一橋大学名誉教授)に六月二三日、緊急インタビューしました。聞き手は岸本啓介事務局長。『民医連医療』九月号(八月中旬発行)で完全版を掲載予定です。(文責・木下直子記者)

―安倍首相の今回の改憲提案を、渡辺先生は「最大の危機」と断定されましたね。

 「オオカミが来た!」と脅すのは嫌いなのですが、今回ばかりは「私たちの憲法が大きな危機を迎えた」と言わねばなりません。
 日本国憲法は誕生して以来、改憲の「波」に三度さらされ、そのつど国民が阻止してきました。いまは二〇一二年の第二次安倍内閣発足で起きた三度目の波の中にあるのですが、一五年の戦争法反対の運動が、改憲派の前に立ちはだかりました。強行採決後も運動は続き、翌年の参議院選挙にも結びついて三二ある全一人区で野党統一候補を擁立。一たす一が三にも四にもなる善戦をしました。
 安倍首相はこの共同の壁を乗り越えるために、失敗すれば後がない、捨て身の勝負に出たのです。

―改憲提案の特徴は?

 重大な特徴が四点あります。ひとつは、「二〇二〇年には新しい憲法を施行する」と掲げたこと。改憲の期日を示した首相は今までいません。実現しなければ責任が問われるので年限を出さないのが普通です。ですが、国民には改憲を求める機運がありませんから、二〇二〇年の東京五輪や二〇一九年に予定される天皇の交代に便乗し「新しい時代に新しい憲法を」と、改憲ムードを作るべく、あえて目標を設定したのです。
 二つ目は、改憲の対象は九条だと表明したこと。自民党は改憲を目指していますが、国民の反感を避け、憲法改正手続きを定めた九六条改正や緊急事態条項の新設などを入り口に、次に本命の九条にとりかかる段階的な改憲を検討していました。ですが改憲派には余裕はない。改憲の国民投票で負ければ次はありませんから、正面突破をはかる決意をしたのです。
 「加憲」を提案したのが三つめの特徴。憲法九条の一、二項は残して、「自衛隊」を記した第三項を加える、としました。いままでの改憲論の定番は「戦力の保持」を禁止した九条二項の削除をするというものでした。二項があるため、政府は自衛隊を「戦力」とみなされぬよう、海外での武力行使や集団的自衛権の行使、国連軍への参加ができなかった。このしばりを外し、自衛軍を持つことを目指しました。「加憲」はそこからは明らかな後退ですが、二項の削除には国民の支持が得られそうにない。この現状打破の奥の手として加憲を出してきたのです。
 四つめは、九条とセットで教育無償化規定と緊急事態条項の創設を出したこと。九条一本で国民投票に臨むのは厳しい。毒薬を甘いオブラートで包んだ形です。

―本命の九条改正を「加憲」という形にし、何としてもすすめる構えですね。この加憲だと「自衛隊はすでにあるのだから」と賛成する国民も出そうです。加憲の危険性を、もう少し知りたいところです。

 この加憲は重大なことです。「自衛隊保持」と書き加えられた憲法九条は、今とは一八〇度違う意味に変わってしまうのです。
 先ほども触れましたが、憲法九条が戦力を禁じているため、自衛隊は緊張の中で存在してきました。海外で武力行使をしないことや災害時の救助活動なども国民に認められねばならないことの反映で、普通の軍隊ならやりません。
 しかし、憲法に「自衛隊」が書かれれば、自衛隊はその緊張から解放され、事実上の軍隊に変身します。戦争法ができて、すでに自衛隊の活動の制約には穴が空けられた状態ですから、九条二項(戦力保持の禁止)は空洞化し、日本は「戦争する国」へとさらに歩みをすすめることになります。

―危険性を広く知らせねば。「二〇二〇年施行」のタイムリミットまで安倍首相はどんな日程ですすめる気でしょう?

 改憲を困難にする要素は三点あり、そのひとつが衆院議員選挙です。参院選のような野党の選挙協力ができると、改憲派議員が減り、憲法改正の発議に必要な「衆参各院の議員の三分の二以上」に届かなくなる可能性が高い。衆院選は来年一二月までに必ずあります。国民投票はそれより前に行いたいはずです。
 ですからシナリオは、改憲案を今年年末までに作り二〇一八年一月の通常国会へ、六月に通して国民投票。「改憲手続き法」が定める国民投票の運動期間は六〇~一八〇日、半年間も運動すると改憲派に不利だから、六~八月を運動期間、九月に国民投票、一二月までに総選挙。国民投票で改憲派が勝てば民進党はガタガタだろうから、総選挙は自民党や改憲政党が勝利、「二〇二〇年に施行」実現―。こういうものでしょう。

―阻止する私たちの側も急ぐ必要がありますね

安倍改憲の「困難」―
―今後2年の運動問われる

―安倍首相の並々ならぬ決意の改憲提案を、 私たちが阻止する条件はありますか?

 安倍首相の改憲の障害は三つあります。昨年の参院選で衆・参両院の改憲派議員が三分の二になり、改憲発議が可能になりました。しかしギリギリの三分の二なのです。スムーズに通らなければメディアが騒ぎ、国民投票で改憲派が勝てません。民主党時代から改憲には積極的だった民進党の議員も取りこんで改憲の多数派連合を作ろうにも、戦争法のたたかいを経て同党は安倍政権の憲法改正に反対に変わり、がっちり「反改憲」のスクラムに入っています。また公明や維新から一人の脱落者も出せない状態です。
 二つめに、野党の共同がある限り衆院選ができないこと。二九五の小選挙区で参院選の時のような野党統一候補が立てば六〇選挙区で与野党の力関係が逆転するという予測をマスコミが発表しています。しかもこれは過小評価で、参院選で野党候補が勝った一人区には、従来なら野党の票が自公に届かないのに逆転したところもあるのです。衆院で六〇を野党に取られただけで改憲派は「三分の二」をとれず、過半数も危ない。それ以上の共同の力が出れば政権は終わりです。だが衆院の任期は来年一二月までです。
 三つめは、自民党の日本国憲法改正草案(二〇一二年発表)が出せないこと。安倍氏は、この草案では通らないと判断し「加憲」を提案したものの、身内の自民党からは、不満が出ています。「これまでの草案でダメなのか?」と。
 国民の運動が、ここまで改憲派を押してきたということです。

―民医連も安倍改憲阻止の運動をします。 私たちはどんなことを念頭にたたかえば良いでしょう?

 いまも政府は憲法を尊重しているとはいえません。たとえば沖縄の辺野古、強行された共謀罪法。憲法を改悪するさきがけとなっているような数々の事態―。
 (1)国民の過半数に、安倍改憲は戦争する国をつくるものだと急いで知らせねばなりません。「加憲は戦争への道」という話は分かりにくい。来年一月の通常国会は改憲国会。運動のカギは今年中。自衛隊を認めることと、憲法に書き込むことは違う。(2)発議させない運動をする。しかし万万が一、国民投票になる場合も負けない準備をしましょう。(3)いまの憲法を「実現しよう」という運動も大事です。そして、(4)野党の共同を豊かに強くすること。参院選で善戦したが安倍の勝利を食い止められていません。大都市圏での共闘や、受け皿の魅力が足りなかった。平和は訴えたが、医療・介護や年金、雇用などくらしの問題に悩んでいる人にも「変えよう」と届けることです。国民は安倍首相が好きなのではなく、それに代わる政治が見えていなかったのです。
 憲法は戦争法で大きく穴を開けられましたが死んではいません。今年、来年は日本の針路を決する二年になります。

―ありがとうございました。

(民医連新聞 第1648号 2017年7月17日)

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