いつでも元気

2017年7月31日

けんこう教室 熱中症にご用心

千葉・東葛病院
HPH推進委員会/外科
大野義一朗

 今年も熱中症の季節になりました。
 昨年は5~9月の5カ月間で、救急搬送された人は全国で5万人を超え、うち59人が亡くなりました。
 熱中症が増加している原因には、ヒートアイランド現象(都市部の気温がその周辺部に比べて高温になる)や地球規模の気候変動なども関係しています。東京の平均気温は100年で3度も上昇しました。パリ協定に基づく温室効果ガス規制に世界各国が本気で取り組むことが、地球温暖化の解決には必要です。
 しかし、まずは今年の熱中症から身を守らなくてはなりません。

原因と症状

 人間は身体を動かすと熱がうまれ、体温があがります。あがり過ぎたときには、自律神経のはたらきによって皮膚に多くの血液が流れこみ、熱を放出します。また、体温があがると汗をかき、その汗が蒸発するときに身体の表面から熱をうばうことで、あがった体温を下げようとするはたらきもあります。
■ 熱中症になるのは
 体温調節機能が乱れて熱の放出ができなくなると、熱がこもって体温が上昇します。また、急激に大量の汗をかくと体内の水分と塩分がうしなわれ、バランスがくずれてしまいます。
 さらに気温や湿度が高く風がふかない環境だと、汗が蒸発しにくく熱もにげにくくなります。これらの原因によって熱中症が発症します。
■ 熱中症になったら
 熱中症は重症度によって軽度、中等度、重度の3段階にわけられ(資料1)、中等度以上は医療機関への受診が必要とされています。
 初期症状としては、頭も身体も動作がにぶくなります。頭のほうは、ぼーっとして反応が悪くなる、しゃべらなくなる、ついには意識がなくなります。身体のほうは、動かなくなり、座り込んで、ついにはけいれんを起こすようになります。
 反応がおかしいとき、動けなくなったときは、判断能力がにぶり自分では電話もできない状態なので、気がついたまわりの人がすぐに救急車を呼んでください。

春・秋も油断禁物

 東葛病院のある千葉県N市(人口18万人)では昨年、熱中症での救急搬送が68件ありました。
 搬送事例を見てみると、搬送数は7~8月の真夏が多いのですが、4月や9月にもみられるので、春や秋も油断できません(資料2)。発生時刻は1日の中で一番暑い午後1~3時台がピークですが、午前中や夕方、さらに朝7時、日没後の午後9時にも搬送されていました(資料3)。
 年歴は、最高齢は99歳、最年少は0歳です。0歳の子は親の不注意から車の中に閉じ込められたことが原因でした。すべての世代で発症していますが、10代に小さなピーク、70~80代に大きなピークがあります(資料4)。また、男性47人、女性21人と男性は女性の2倍でした。

年代で原因に違いが

 では次に、昨年同市で救急搬送された人のうち、東葛病院に運ばれてきた人をくわしくみてみましょう。
 昨年東葛病院に救急搬送されてきた人は29人でした。搬送時の状態は6割が中等度、4割が軽度、重度はありませんでしたが、ほぼ全員に意識障害がありました。28人に点滴の処置がおこなわれ、19人はすみやかに症状が改善し、その日のうちに帰宅できました。しかし、9人は2~15日間の入院となりました。
 年代と搬送時間の内訳は資料5になります。熱中症になった原因は、世代ごとに異なります。
■10代の場合
 10代の6人(男性4人、女性2人)は全員が部活動中でした。4人は午後1~3時の最も暑い時間帯、2人は午前中でした。そのうち1人は、まだ涼しい朝の8時にランニングをしていて発症しました。
■20~50代の場合
 20~59歳までの9人は男性が8人で、そのうち1人は外国人でした。女性は1人でした。男性は全員が仕事中に発症。作業の場所は屋外6人、倉庫内1人でした。このうち3人は以前にも熱中症にかかったことがあり、「このままではまた熱中症になる」と分かっていながら働き、実際に熱中症になってしまいました。
 40代の男性は関西から来た長距離トラック運転手でした。睡眠不足に加え、食事は朝におにぎり、昼はジュースを飲んだだけでした。荷下ろしをして朝までに関西へ帰る予定でしたが、荷下ろし中に脱水と高血糖を起こし、救急搬送となりました。
 このように、10~50代では日中、運動や仕事など、いかにも熱中症になりそうな状況でおきていました。

高齢者は自宅でも発症

 ところが高齢者の熱中症は、これまでお話ししたほかの世代とはちがう特徴があります。60歳以上の救急搬送は13人(男性7人、女性6人)で、熱中症になった場所は半数が自宅。その他も、買い物に行く途中に路上で倒れたり、家の畑仕事や草野球観戦、ウオーキング中など、特別なことをしていたわけではありません。このように高齢者はごく普通の日常生活をしているだけで熱中症になってしまうのです。
 また、11人は糖尿病や心疾患など治療中の病気がありました。これらが熱中症を起こしやすくしていたと考えられます。
 75歳の女性は認知症で、2日前から行方不明になっていたところを警察が保護し、脱水で救急搬送となりました。その日は点滴をして帰宅となりましたが、10日後に再び出歩いていたところを警察に保護され、熱中症で救急搬送されました。本人の認知症に加え、夫はけがで外出できず、同居の娘さんは精神疾患を抱えていました。周囲の人も危ないと思いながら何もできずにいたケースでした。
 自宅で熱中症になったケースでは、冷房があっても使っていない人もいました。「電気代がもったいない」「冷房は体にわるい」「節電に協力」と冷房をつけないのです。室内での熱中症予防には、冷房を使って適切な室温を保つことが大切です。
 高齢になると暑さやのどの渇きを感じにくくなります。夏でも冷房をつけずに厚着をしたり、水分をとらずに過ごすことで、熱中症になりやすい状況を作ってしまっています。

熱中症を予防するには

 では、熱中症を予防するためには、どのようなことに気をつけたらいいのでしょうか。
(1)過ごしやすい環境作り 室温はエアコンを使って27度以下に
(2)水分の補給 食事は3食しっかり食べること。水分は時間を決めて、2時間に1回はコップ1杯の水分を補給する
(3)服装 ゆったりした風通しの良い服を選ぶ。外出時は直射日光を避けるために日傘や帽子を
  しかし、誰でも分かっているこれらのことをきちんと守るのは、なかなか難しいことです。守るためには本人だけでなく、周囲の声掛けも重要です。
 家庭では家族や周囲の人がお互いに、水の飲み具合や意識状態、身体の動き、反応の良しあしをチェックしてください。自分のことは分からなくても、相手については正確に判断できるものです。部活動や職場では個人に任せるのではなく、監督者が規則正しく休憩時間を取らせ、水分を補充させてください。

熱中症対策をHPH活動に

 当病院ではHPH()の活動として、地域の熱中症対策に取り組んでいます。
 病院の機関紙「東葛の健康」では毎年熱中症の特集を組み、家庭でできる対策をとりあげています。紙面は班会や街角相談会でも使えるようにしています。
■ 宣伝カーで巡回
 7月に入ると、熱中症予防を呼びかける宣伝カーを走らせています。職員と友の会員が協力して運転手、マイク係など担当を決め、一番暑い時間帯に出発します。車の中はエアコンをかけても汗びっしょり。ひと夏の延べ走行距離は900km、市内をくまなく3巡する距離です。市内を回っていると「市の広報カーですか?」とよく聞かれます。
■ 患者宅を訪問
 2年前からは戸別訪問も始めました。退院した患者や外来に通院している患者の中から気になる人をリストアップし、自宅を訪問します。2年間で看護師たちが選び出した患者43人を訪問しました。年齢は45~95歳で平均は81歳。一人暮らしの人が23人、高齢者夫婦の2人暮らしが9人、生活保護を受けている人が7人でした。
 訪問チームは医師や看護師、事務など多職種で構成し、一番暑い時間帯に2~3人1組で回ります。訪問すると「よく来てくれた」と中に入れてくれますが、むっとする部屋の暑さにスタッフはどっと汗が出る思いでした。
 「身体の具合はどうですか」と声を掛けて、飲水量や冷房の効き具合をチェックします。訪問したお宅の室温は26~39度、湿度は32~70%。温度と湿度で熱中症の危険度を測定する「熱中症メーター」の判定では、危険1軒、やや危険16軒でした。
 エアコンがあるのに電源を切っている人には、上手な使い方を指導します。しかしエアコンのある家は84%、生活保護家庭では28・6%しか設置されておらず、使いたくても使えない深刻な状況がありました。
 これらの活動を通じてわかったのは、夏の暑さは自然現象でも、熱中症を起こすのは社会的要因が関係しているということ。日常生活の中でも熱中症になってしまう高齢者には「水を飲んで」「冷房入ってる?」「元気ですか」と一声かける地域作りがなにより大切なのだということでした。当病院では今年も地域の熱中症対策に取り組みます。

ヘルス・プロモーティング・ホスピタル&ヘルスサービスの略。WHOが推奨する国際的なネットワーク。「患者・職員・地域の健康水準の向上と幸福・公平・公正な社会の実現に貢献」することを目指す病院や施設のこと

いつでも元気 2017.8 No.310

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