MIN-IRENトピックス

2017年8月22日

これでばっちり ニュースな言葉 北朝鮮のミサイルはどのくらい「怖い」のか?

 今回のテーマは、北朝鮮のミサイル問題をどう考えるか、です。政府は、ミサイル落下時の避難行動を国民に呼びかけるなどしていますが、この問題の解決に本当に必要なこととは? 元陸上自衛隊レンジャー隊員の井筒高雄さんが解説します。

元陸上自衛隊レンジャー

こたえる人 井筒 高雄さん

 五~六月にかけて四週連続で北朝鮮はミサイルを発射しました。七月には、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)は米国本土の大半に到達可能」と米政府が発表。安倍首相はトランプ大統領と緊急電話会談し、「さらなる圧力を」と発言。確かに日本の排他的経済水域などにミサイルを落としたことは許しがたい。しかし、冷静に捉える必要があります。

失敗の安倍防衛戦略

 安倍政権は、五月のミサイル発射では首相以下一一閣僚が外遊し、外務大臣も副大臣も不在。七月末には、稲田防衛大臣・岡部陸上幕僚長(当時)などが南スーダンPKOの日報隠蔽問題で辞任という「防衛の空白」ができたタイミングで北朝鮮のミサイル発射がありました。朝鮮戦争の休戦協定が結ばれた北朝鮮の「戦勝記念日」でミサイル発射の可能性が高いと指摘されていたのに、です。おぼつかない防衛戦略です。
 金正恩朝鮮労働党委員長は金一族体制の維持を望んでおり、米国からの攻撃や暗殺を避けたいはずです。
 安倍首相は北朝鮮脅威論を利用し、二〇一五年に安保法制を強行しましたが、抑止力は発揮されず、関係悪化を招きました。すでに、米国一辺倒の外交、「圧力」のみで北朝鮮の事態の打開を図ることは失敗しているのです。首相はそれを認識してほしい。

「迎撃」? 実態は

 一三年の米国防総省の報告では、北朝鮮は弾道ミサイルを二五〇基以上保有しています。米軍は沖縄県の在日米軍基地を防衛するため、嘉手納基地にPAC3を二四基配備。一方、自衛隊は日本全体を三二基で防衛しなければならない脆弱さ。加えて原発五四基の防衛対策は企業任せです。
 また、米国は、弾道ミサイルを迎撃するイージス艦を八四隻保有し、米国本土と世界に睨みをきかせています。しかし、日本が保有するイージス艦は六隻で、しかも迎撃装備を備えているのは四隻。残りの二隻に迎撃できる装備を急ピッチですすめ、同時に新たな二隻のイージス艦造船に着手しているのが実態です。日本のミサイル防衛に国民を守る能力はありません。
 こうした都合の悪い真実を安倍首相は語ろうとしません。新たに就任した小野寺防衛大臣に至っては、「敵基地攻撃能力」保有を前向きに検討すると言ってのける始末。憲法九条に反する先制攻撃は許されません。慌てて安倍首相が火消し役に回るお粗末さです。

圧力ではなく対話を

 政府が四億円の税金を投入した「ミサイル避難CM」は、全国の民放四三局で放映されました。効果について検証が必要です。新幹線や地下鉄を止めた意図はなんだったのでしょう。
 山形県酒田市での政府と県主催による「ミサイル避難訓練」は、情報伝達や避難手順の確認が狙いでした。適切な避難先を自分で選ぶのですが、実際には畑にうずくまる人もいたといいます。国民を守る本気度が感じられません。
 国民に対しては、北朝鮮だけが悪者と印象操作し、差別を助長するような悪意すら感じられます。日本のミサイル防衛で国民を守ることはできません。現実を踏まえた安全保障政策を再考することに尽きます。
 安倍首相は圧力から「対話」に外交戦略を見直し、北朝鮮の望むトランプ大統領との会談の実現に尽力する必要があります。それこそが東アジアと米国の安定につながるはずです。


いづつ・たかお 元陸上自衛隊レンジャー隊員。九三年に依願退職。安保法制に反対し、今年六月に設立したベテランズ・フォー・ピース・ジャパン(平和を求める元自衛官と市民の会)の代表

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(民医連新聞 第1650号 2017年8月21日)

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