MIN-IRENトピックス

2017年8月31日

見えてきた核廃絶の道

 史上初めて核兵器を違法とする「核兵器禁止条約」が7月7日、国連で成立しました。条約の審議にかかわったNGO「ICAN」(核兵器廃絶国際キャンペーン)国際運営委員の川崎哲さんに、条約の今後や北朝鮮問題を聞きました。

聞き手・新井健治(編集部)

3月の核兵器禁止条約交渉会議で発言する川崎さん=ニューヨークの国連本部

 核兵器禁止条約は122カ国の賛成で成立しました。国連に加盟する193カ国の約3分の2が「本気で核兵器をなくそう」と決意した意義は大きい。今後は9月20日の国連総会で各国の政府代表が条約に署名し、批准した国が50カ国を超えた時点から90日後に効力を発します。
 「署名」は政府代表がサインすることですが、「批准」は国会で承認を得ることが必要です。50カ国の批准が済むには1年ほど時間がかかるため、発効するのは早くて2018年の年末でしょう。
 条約は核保有国や核が配備された国にも門戸を開いています。こうした国々は核を持ったままでも、廃棄する計画を示せば加入できます。核廃絶の過程を段階的に具体化し、それが適切に行われているかどうかを検証する国際機関は今後指定します。たとえば地球温暖化に取り組む気候変動枠組条約でも、具体的なことは後の議定書で定めており、同様の手法といえます。
 条約はできましたが、問題は今後です。条約の交渉会議には核保有9カ国とNATO加盟国(オランダを除く)、日本や韓国、オーストラリアなど“核の傘”のもとにある国は参加しませんでした。これらの国々が加入しなければ、実際に核兵器の廃棄は進みません。


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北朝鮮の脅威とは

 条約に反対する理由として、日本政府は「北朝鮮の脅威」を挙げます。しかしむしろ、北朝鮮のような核問題があるからこそ条約が必要なのです。条約は、核に頼る北朝鮮の政策が違法であることを明確にしています。そして、第2、第3の北朝鮮、つまり新たな核保有国の出現を防ぐものです。
 北朝鮮に対して「核抑止力が必要だ」という声がありますが、それはつまり「日本にはアメリカの核が必要だ」という主張です。日本が生き延びるために核が必要と主張する限り、北朝鮮に「核を手放せ」と言っても説得力がありません。北朝鮮も自らの生存のために核が必要という立場なのですから。
 「力には力で対抗する」との論理は、悪循環のいたちごっこを繰り返すだけでしょう。核を持つ国がある限り、潜在的に他の国も核を持とうとする。
 一部の国の特権を認めず、全ての核を廃棄して世界を安全にするのが核兵器禁止条約。核の完全な廃絶こそ、核が再び使用されない唯一の方法であると断言しています。理想主義でも何でもなく、抑止力論より遥かにリアリティーがある。

市民社会の力

 条約の交渉会議では、被爆者や市民団体のさまざまな意見が条文に反映されました。
 たとえば第4条「核兵器の不可逆的な廃棄」の条文に、核兵器そのものだけでなく関連施設も含めた核兵器「計画」が全て廃棄されなければならないとの言葉が挿入されたのは、私たちNGO関係者の提案も踏まえたもの。核兵器の製造能力が残されていれば危険は続くからです。
 国連はなぜ、市民社会の力を重視したのか。それは、核保有国や核の傘のもとにある国が加入するには、その国の世論がかぎを握るからです。
 世論を高めるうえで、ヒバクシャ国際署名が決定的な役割を果たします。国内では15人の県知事と731人の市町村長が署名しました(7月24日現在)。自治体首長の声は、国政における与野党の枠組みを超える幅広い力となって日本政府を包囲します。

日本政府を変えるには?

 日本政府の姿勢を変えるには、まずは政府がなぜ、この条約を拒否しているのか明らかにする必要があります。政府が第何条のどの条文に反対なのか、具体的に説明するよう国会で追及すべきです。
 日本には非核三原則(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)があります。三原則を貫くなら、条約のほとんどに賛成できるはず。唯一、反対の根拠があるとすれば、第1条で禁止されている核の「使用」とその「援助」。日本はアメリカと軍事同盟を結び、同国の核戦略を援助しています。
 ここまで便宜上、“核の傘”との言葉を使いましたが、もう、この言葉を使うのはやめにしませんか? 傘というとまるで防御のように聞こえますが、実際は「核を使用するぞ」と言って相手を“威嚇”している。今回の条約は威嚇も禁止しました。
 日本と同様にアメリカの核戦略を援助するNATO加盟国の中からも、近い将来、条約に署名する国が出てくる可能性があります。その第一候補はノルウェーです。9月の選挙で野党の労働党が政権に返り咲けば署名する可能性は十分にあります。オーストラリアでも労働党は条約支持を表明しており、政権をとれば署名するかもしれません。アメリカの同盟国が1国でも批准すれば、世界は大きく動く。

世界中の英知を集めて

 核兵器禁止条約を今後履行していくためにも、市民社会のパワーが必要です。条約の第6条には「核兵器の使用または実験により影響を受けた者について、医療、リハビリテーション、心理的な支援をする」とあります。
 民医連は長年、被爆者医療に力を入れてきました。ビキニ環礁の水爆実験被害者も支援しています。その経験を国連で発表してはいかがでしょうか?
 締約国会議(2年に1度)には、市民団体の参加が義務付けられています。条約はできたばかり。中身を充実させて本当に核のない世界を実現するために、世界中の英知を集めることが求められています。

いつでも元気 2017.9 No.311

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