いつでも元気

2017年9月29日

医療と介護の倫理 「人工栄養をめぐって(2)」

堀口信(全日本民医連 医療介護倫理委員会 委員長)

 前回に続き、胃瘻をはじめとした人工栄養法を取り上げます。認知症高齢者がなんらかの原因で口から食べられなくなったときに、人工栄養法を行うのかどうか。判断に迷うことは、医療や介護の現場でよく起きています。

胃瘻を希望する人は6%

 認知症患者1027人に対する調査報告(2012年)によれば、胃瘻をつくってから2年4カ月の時点でも約半数が存命しています。軽度の認知症であれば、胃瘻をつくったあと35%の方に口から食べる機能の改善が、25%の方に日常生活自立度の改善がみられます。
 では、人工栄養について国民の意識はどうでしょうか。厚生労働省の「終末期医療に関する意識調査等検討会報告」(14年)に、末期がんや進行した認知症になった場合に、過ごしたい場所や希望する治療についての調査結果が出ています。
 調査によると認知症が進行して身の回りの動作に介助が必要になった場合、59%は介護施設、27%は病院、12%は自宅で最期を過ごしたいと答えています。
 同じく認知症が進行して身の回りの動作に介助が必要になり、さらに口から食べられなくなった時、47%は点滴を希望していますが、中心静脈栄養を希望する人は14%、経鼻栄養を希望する人は10%、胃瘻を希望する人は6%でした。
 こうした国民の意識も踏まえ、日本老年医学会は「人工栄養のガイドライン」を発表しています。ガイドラインは(1)高齢者も差別せず最善の医療とケアを提供すること(2)高齢者の生きがい(QOL)を重視すること(3)そのためにチームで医療とケアにあたることを強調しています。また「胃瘻を含めた経管(人工)栄養については慎重に判断すべき」とも書かれています。

実施のガイドライン

 ここまでみてきたように、胃瘻を含めた人工栄養法を決めるに当たっては、患者にとって最善の医療とケアを選択することを念頭に、慎重かつ倫理的に判断すべきといえます。
 冒頭で述べたように、比較的軽度の認知症であれば、胃瘻を実施することで栄養状態が改善し口から食べられるようになることもあります。一律に胃瘻を「生命を延ばすだけの延命治療」と言い切るのは正しくありません。
 一方で、重度の認知症で身の回りの動作に介助が必要な場合、胃瘻をつくることをためらう国民の意識が強くあることも事実です。
 私の病院では「胃瘻実施のガイドライン」をつくっています。口から食べられなくなり、胃瘻が必要と医師が判断して本人や家族に説明する場合、何よりも本人の意思を尊重するようお話ししています。
 重度の認知症で本人の意思が分からない場合は、「家族が本人の意思を推定して判断してほしい」と伝えます。それでも判断に迷う人は大勢います。
 判断に迷う理由のひとつに、「食べられなくなったら、それでおしまい」と、食と命を直接的に結びつける考え方があります。一方で胃瘻で栄養状態を改善し、家族と過ごす時間を大切にするなど、食に代わる生きがいについて考えて判断する方もいます。
 本人に代わって胃瘻をつくると家族が判断した場合、「本当にそれで良かったのか」と後で悩むこともあります。身近な家族だけが判断するのではなく、友人や知人、医療関係者と相談することも大切です。
 胃瘻も含めた人工栄養法の選択は、いざ自分のこととなると判断に迷います。口から食べられなくなったときに人工栄養法を希望するのか、あらかじめ家族や知人と意見を交換しておくと、いざというときに役立つでしょう。

いつでも元気 2017.10 No.312

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