いつでも元気

2017年9月29日

まちのチカラ・山形県朝日町 最上川に映えるりんごとワインの里

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

最上川上流で人気のラフティング。「東北の自然に触れてほしい」と運営組織Rustica(ラスティカ)代表の阿部さん

最上川上流で人気のラフティング。「東北の自然に触れてほしい」と運営組織Rustica(ラスティカ)代表の阿部さん

 町の西部には日本百名山の朝日連峰、東部には悠々と流れる最上川。
 その間を彩るように、りんご畑が点在する朝日町。
 自然の恵みに感謝するため、世界的にも珍しい神社を建立して話題を集めました。
 町に息づく独創的でダイナミックな人々の営みを紹介します。

全身で感じる山登り&川下り

 山形県と新潟県の境にそびえる朝日連峰は、深い渓谷と稜線の美しさが登山客を魅了してやまない日本百名山の1つ。主峰の大朝日岳は標高1871m、夏でも雪が残ります。朝日町からの登山ルートもあり、山頂からは遠く佐渡ヶ島まで見渡せます。
 町の東部には、全長229kmの雄大な最上川が。日本三大急流に数えられ、日本海と内陸部を結ぶ交通路として昔から欠かせない存在でした。特に朝日町に位置する25kmの区間は五百川峡谷と呼ばれ、舟運の難所として有名だったそう。
 その特異な地形は、現在ではカヌー愛好家に親しまれています。特にフリースタイルというカヌー競技に適し、全国有数の“メッカ”として選手たちが集まるほど。
 少し上流ではラフティング体験も人気です。8人乗りのゴムボートで川を下る遊びで、中学生から年配の方まで楽しめるアウトドアスポーツ。必ずガイドが同行し、流れが緩やかな所では川遊びなども楽しめます。
 この日参加した女性に感想を聞くと、「怖くはありません。最上川は緩急の差が激しいので、その違いを楽しめてお得だと思います」。全身で大自然を味わう体験は、きっと心に深く刻まれることでしょう。

最上川の流域面積は、山形県全体の約75%にあたるという

無袋りんご発祥の地

 朝日町はりんごなしには語れません。120年続くりんご栽培と技術革新の歴史を今に受け継いでいる和合平地区を訪ねました。
 かつてのりんご栽培は、実1つ1つに袋を掛ける有袋栽培が主流でした。傷の防止に効果があるだけでなく、袋を外した時に表面がムラなく色づき、均一な果実ができるからです。しかし作業効率が悪く、味も無袋りんごに比べて劣るという難点が。
 そこで農家の人たちが独自に研究を重ね、袋掛けしなくても鮮やかに色づく方法を確立。今ではその技術が全国に広がり、初秋には赤く色づいたりんご畑が見られるようになりました。
 親子2代でりんご農園を営んでいる佐藤淳さんに栽培の難しさを尋ねると、「枝の剪定ですね。りんごの木は枝ぶりによって実の大きさや収穫量が変わるので、将来の木の形を予想しながら剪定しています」。
 無袋栽培は、陽当たりを良くするための葉摘みや玉まわし(果実の向きを変える作業)などで収穫までに最低5回は畑を回り、1つ1つのりんごを確認するとのこと。果実にかける農家さんたちの深い愛情があればこそ、甘酸っぱくてジューシーな極上のりんごが実るのです。

国産ワインをお手頃価格で

 りんごに劣らぬ名声を得ているのがワインです。「良いワインは優れたブドウから」を合言葉に、町内25戸のブドウ農家と切磋琢磨しながら美味しさを追求しているのは、創業73年の「有限会社朝日町ワイン」。敷地には全40種のワインが自由に試飲できる「ワイン城」があり、瓶詰め作業も見学できます。
 「日本食に合うワインを、お手頃価格で提供することが最も大事」と話すのは、取締役の白田重明さん。肉食がメーンの欧米と違い、野菜や魚介類のうまみにこだわる日本人は「味覚が繊細で香りにも敏感」。そこで熟成用の樽にもこだわり、樫の木を使ったフランス産高級樽を毎年輸入しているそうです。
 近年は日本ワインコンクールで相次いで金賞を受賞するなど、高い評価を得ています。しかも価格は1本1600円~3500円とリーズナブル。「まずは地元の人に愛されるワインをつくりたい。そのためには、たくさん飲んでもらえる値段じゃないとね」と白田さん。一杯いただき、なるほど、特産ワインを誇らしげに語る町の人たちの姿が想像できました。

ワイン城では40種のワインを飲み比べられる

ワイン城では40種のワインを飲み比べられる

新たな目玉はダチョウ肉

 ワイン城から車を走らせること10分。見晴らしの良い平原に、何羽ものダチョウを見つけました。19年前に南アフリカから輸入し、飼育し始めたという「オーストリッチ展示圃」です。
 ユニークなのは、地元の建設会社が新規事業として飼育し始めたということ。もともとダチョウは厳しい環境にも適応でき、食肉や皮製品にもなる新たな家畜としてひそかに注目されていました。さらに朝日町では高齢化によって遊休農地が増えており、その有効活用にもつながるのではないかと考えたのです。
 しかし、実際には「ヒナから成体に育つまでが非常にデリケートで難しいんです」と飼育担当の鈴木正浩さん。ダチョウの肉は低脂肪で臭みがないため、オーストラリアなどでは重要な食肉になっているといいます。
 早速、町内のレストランで「ダチョウのたたき」をいただきました。見た目は赤みのある牛肉のようですが、歯ごたえがずっしりしていて、牛肉と鶏肉の良いとこ取りといった感じ。健康食やアスリート食としても注目されているそうです。

ダチョウは間近で見ると迫力満点

ダチョウは間近で見ると迫力満点

町おこしの一環で神社建立

 自然の恵みあふれる朝日町には、世界的にも珍しい“空気を崇める参拝所”が。その名も「空気神社」。「あらゆるものの源である空気に感謝しよう」という趣旨で1990年に建立され、毎年6月には「空気まつり」を開催。全国から2000人以上が訪れます。
 ご神体が空気とは、一体どんな神社なのか。「空気神社建立奉賛会」の滝川清一さんに案内してもらいました。小高い丘に登る遊歩道を抜けると、5m四方の大きなステンレス製の鏡板があり、四季折々の自然を映します。滝川さんはその前で大きく手を広げて参拝しました。
 空気神社は、いわゆる神社庁に加盟する神社ではありません。「空気神社の構想はもともと町おこしの一環でしたが、空気に感謝するという発想が多くの人の共感を集めたのです」と滝川さん。資金集めのために奉賛会を立ち上げ、全国にある建築関係の大学を対象にコンペを開いて建造物のデザインを募集。集まった51の設計図を複数の専門家などに審査してもらい、現在の形になりました。
 「今では大手企業も応援してくれるほど、空気神社の趣旨は全国に広がっています。朝日町では6月5日の世界環境デーを“空気の日”に制定しているんですよ」。滝川さんの言葉に、鏡板にキラキラと映る緑が相づちを打っているかのようでした。
 ほかにも椹平の棚田や、大沼の浮島など、自然の美を感じられるスポットはあちこちに。きっと各地で手を合わせたくなるに違いありません。

周囲にりんご畑が広がる椹平の棚田(朝日町提供)

周囲にりんご畑が広がる椹平の棚田(朝日町提供)

■次回は青森県鶴田町です。


まちのデータ
人口
7142人
(2017年7月現在)
おすすめの特産品
りんご、ワイン、ダチョウ肉、あっぷるニュー豚、はちみつなど
アクセス
山形駅からJR左沢線で約40分
問い合わせ先
朝日町観光協会0237-67-2134

いつでも元気 2017.10 No.312

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