いつでも元気

2004年12月1日

元気スペシャル どうする介護保障 知恵と力あわせ高齢者施設づくり

 介護保険「見直し」(特集1参照)で厚労省は、特別養護老人ホームやグループホームなどの施設はもうつくらないという方向を出しています。しかし地域では、高齢者施設がまだまだ足りないのが実情です。知恵と力を集めた施設づくりのとりくみをレポートします。

ケアつき住宅 「こころ」 山形・庄内

 山形県の庄内医療生協は、購買生協や高齢者福祉生協など六つの法人で、庄内まちづくり協同組合「虹」をつくり、ことし六月に高齢者住宅「こころ」をオープンしました。

「何かあっても安心」

genki158_02_01
舩見冨美子さんの部屋。8畳ほどで使い勝手もいい

 「こころ」は全室個室で三〇室。身体の状態にあわせて四タイプの部屋があります。入居者の負担は室料平均五万五千円(水光熱費、食費込み)と介護保険の利用料を含めて、一カ月平均八万五千円。

 入居者の舩見冨美子さん(82)は要介護2。「夫が亡くなって、一〇年ぐらい一人暮らしでした。一昨年病気して右半身がマヒしてしまって…。ここは住んでいたところからあまり遠くないし、病院も近いし安心です。デイケアやリハビリ病室で歩く練習をするの」といいます。

 事務長の松本ひろみさんは「特別な施設ではなく、蕫住む家﨟なので、これまであえて、集団レクレーションはしませんでした。でも、みんなのやりたいことを少しずつと、先日、寿司やハンバーグなどのバイキングの食事会をしました」と。

 鶴岡市の特別養護老人ホームや老人保健施設への入所待機者は六百人以上います。「こころ」はそうした医療依存度の高い人たちが安心してくらせるようなケア付きの高齢者住宅を、非営利・協同の力で実現しようとしたものです。

 病院から直接入居した人も多く、要介護4、5の人が半数以上。

 「ある程度想定はしていましたが、思っていた以上に医療依存度の高い人が多い。透析などが必要な要介護者が入れる施設がいかに足りないかを実感しています」と松本さん。

6つの法人で 「まちづくり協同組合」立上げ

協力・協同で事業体をつくり

 鶴岡では医療生協、購買生協、高齢者福祉生協、社会福祉法人による蕫四者協議会﨟で「介護保険対応事業」を中心に非営利協同のまちづくりをすすめてきました。
genki158_02_02

 「この経験を生かして、個別の事業者だけでは実現しきれない住民の要求を、協力・協同により解決していこう、そのために四者協議会を一歩すすめて事業体をつくろうじゃないか、と。

 切実な要求のある高齢者住宅ですが、六つの法人が協同で運営しているからこそ、利用料を低く抑えてもなん とか赤字をだしていません。ヘルパー派遣や訪問看護は医療生協が、デイケアは医療生協や社会福祉法人が、福祉用具レンタルは生協が、それぞれ中心になって サービスを提供することで、協同組合全体で収支のバランスをとっています」と庄内医療生協の松本弘道専務。庄内まちづくり協同組合の専務でもあります。

地域経済の活性化にも

 「庄内地方ではこの一〇年間八六〇〇人も人口が減りました。これはリハビリ病院のある櫛引町の人口に匹敵 します。地元に就職希望の高校生の採用は昨年で三割。なんとか仕事おこし、まちおこしにつなげたいと、高齢者住宅の職員を新規に一〇人採用しました。食材 や加工品も地元のものを使っています。

 今後は農協さんや漁協さんなど、各分野の協同組合や住民組織との協同もつよめ、地域経済の活性化をはかり たいと考えています。そしていずれはこのような施設を学校区ごとに、生協でいえば、一支部一事業所めざし、作っていきたいですね」と抱負を語る松本専務。 まだまだいろいろな構想がありそうです。

文・斉藤千穂記者/写真・五味明憲


グループホーム デイサービス

「さっちゃん家」 岡山市

 高齢者が、住みなれた地域でくらし続けられるために、その人の状態に応じて「通う」「泊まる」「住 む」など多様なサービスができる小規模の施設が、各地につくられています。ことし六月に岡山市でオープンした「さっちゃん家」(岡山中央福祉会)も、デイ サービスとグループホームをあわせもった「家」です。

親しまれる「家」にしたい

 さっちゃん家は、まわりを田畑に囲まれた集落にあり、見た目は普通の農家のたたずまい。古い民家を改修し て使っています。中に入ると、太い梁が光る築七〇年の建物です。同じ法人のデイサービスに通っていた岡崎幸子さんが亡くなってから、息子さんが家屋は無償 で、土地は安く貸してくれました。

 ホーム長の三木和江さんは「民家をお借りしたのは、入居者がなじみやすいからです。それに、新築よりお金がかからないから入居者の負担を抑えることができるし、なにより地域の人も親しめる『家』にしたいということにこだわったからです」といいます。

笑顔がもどり歩けるように

 さっちゃん家のグループホームには、痴呆をもった六人の高齢者が住んでいます。グループホームの定員は一 ユニットあたり九人までですが、三木さんは「一つの家に住む家族の数は、いくら多くても最近は一〇人前後。世話をする職員を入れてもそれくらいになるよう にと考えました」といいます。

 「経営はたいへんですが、利用者が落ち着いてくらせることを優先しました。一人ひとりが、いままでと同じように普通にくらせるようにしたい」

 Kさん(79)は、さっちゃん家で「普通の生活」をとりもどしたひとりです。痴呆が重くなり、やむを得ず精神科の痴呆病棟に入院したKさん。

 「転倒防止のために拘束され、カギのかかる部屋におられて、歩けなくなるなど生活する力を失ってしまった んです。こちらに来られたときはまったく笑いませんでした。いまはみんなといっしょに笑うようになり、入院前と同じように自分で歩けるようになりました。 おむつもとれたんです」と三木さん。Kさんの生活力の回復に驚いたといいます。

慣れ親しんだ人と普通にくらせる

すっかり町内の一員になり

 さっちゃん家を、近所の人たちは「いつかは私らも世話になるんじゃから」と受け入れてくれました。道一つ隔てて住む石原千江子さん(69)はときどき近所の人を誘って、さっちゃん家の草むしりに。

 「幸子さんが生きていたころは近所のたまり場でした。この家がなくなるのはもったいないと思ってましたか ら、またにぎやかになってうれしい」と石原さん。「九月の月見の会もいっしょに楽しみました。さっちゃん家も町内のつきあいをせにゃいけん、秋祭りの当番 にもなってもらってます」と。さっちゃん家はすっかり町内の一員です。

 お向かいの岡崎健次さんのように、台風で壊れた屋根の修理から戸棚づくりまで手弁当でやってくれる人もいます。

第二の「家」を準備中

 デイサービスは一三人の利用者がいます。さっちゃん家での寄り合いという感覚で利用されているデイサービス。家を出たがらない人も、近所のあのさっちゃん家ならと通ってくるとか。

 「もともと、デイサービスで慣れてから、ショートステイで泊まることもできる家にしたいと思っていまし た。さっちゃん家はグループホームというかたちにしましたが、どういう形態でも、介護が必要な人が、慣れ親しんだ人たちと普通にくらせる地域づくりをして いきたいと思っています」と三木さん。

 岡山中央福祉会の事務局長、井場哲也さん(45)も、これからの計画について「まだまだ、その人に合った 介護サービスを受けて、安心してくらせる場所が少ないのが現状です。学区ごとにさっちゃん家のような介護事業の拠点を広げていく計画で、すでに宿泊機能も ある第二の家を準備中です」と語ります。

文・八重山薫記者/写真・吉田一法

いつでも元気 2004.12 No.158

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ