いつでも元気

2004年12月1日

特集1 どうする介護保障 地域の介護保障をつくるのは私たち 介護保険「見直し」で大切な視点は

山田智さん(全日本民医連介護福祉部部長)に聞く

 介護保険の見直しに向けて厚労省の作業は急ピッチですすみ、七月に「介護保険部会の見直しに関する意見」という報告書も出ました。全日本民 医連の介護福祉部部長・山田智さん(福岡・みさき病院院長)に、見直しのポイントは何か、地域の介護保障を充実させていくために何が課題なのかを聞きまし た。聞き手は山本淑子さん(全日本民医連事務局)です。

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「ゆっくり食べてね」と声をかけながら食事介助をするケアワーカー(福岡・介護老人保健施設くろさき苑)

 ――まず、今回の見直しのポイトはどこにあるのでしょうか。

 山田 いちばん問題なのは、今回の見直しが財政の抑制という点から出発していることです。厚労省は、「介護保険はおおむね順調に推移している」ことを強調する一方で、介護サービスの利用者数などが増え、このままでは保険財政がもたなくなると説明しています。

 その点から見直しの内容として、①要支援や要介護1など軽度の利用者の介護サービスを制限するなど、保険給付全体を抑制する、②施設入所者の居住費、食費の自己負担化をはじめとして利用者負担を増やす、などを打ち出しています。

 一方で、介護の質の重視、在宅ケアの推進、介護予防や地域密着型サービスの整備などの課題が盛り込まれていることも特徴です。これらは、高齢者、国民の要求を反映したものであり、今後いっそう高齢化がすすむなかで積極的な内容を含んでいると思います。

要求に応える「介護予防」に

 ――介護予防がずいぶん話題になっていますが、どういう内容なのでしょうか。

 山田 厚労省はいまのところ新しい予防給付として、筋力向上訓練、栄養改善、口腔ケア、閉 じこもり防止、足のケアなど五つをあげています。この一〇月から市町村のモデル事業が始まり、その結果にもとづいて細かな内容を決めていくとのことです。 すでに、来年度予算の概算要求に、介護予防の拠点を三千カ所整備することが盛り込まれています。現在のデイサービスセンター、老人福祉センターなどで行な うとしていますが、制度の見直しに先行して実践がすすんでいくと考えられます。

 注目したいのは、共同組織が健康づくりやまちづくりでとりくんでいるヨガや健康体操、配食サービス、たまり場づくりなどは、まさにこの内容を先取りしているということなんです。これを広い意味での介護予防活動としてとらえ、広げていく必要があると思います。

 新予防給付が、軽度の人たちの介護サービスを制限したり打ち切ったりする形で導入されることには断固反対する、そして、新予防給付そのものが高齢者の願いに応える充実した内容になるよう要求していくということが大切ですね。

小回りのきく「地域密着型」

 ――地域密着型サービスというのはどういうものですか。

 山田 規模が小さく多機能で、利用者の生活に密着したサービスを提供するというものです。 介護保険の事業所として指定する権限は市町村がもつとされています。都道府県のような広域ではなく、身近な、地域に根づいて小回りがきくサービスといった らいいでしょうか。イメージとしては、グループホームとか小規模の入所施設、二四時間見守りの宅老所的なものがあげられると思います。

 私も七つのグループホームに往診にいっていますが、小規模であるがゆえの家庭的な雰囲気のなかで、痴呆の方たちがとても落ちついていると感じます。グループホームに入って問題行動が少なくなった事例もたくさん報告されています。

 「多機能」というのは、具体的にはまだ明らかではありませんが、「通い」の機能つまりデイサービスです ね。それから「泊まり」=ショートステイができる。そして「居住」=痴呆など見守りが必要という方たちが入所できる。こうした機能を、利用者の状態の変化 に応じて組み合わせて利用し、生活を継続させていこうと。地域密着型のサービスは、これからもっとつくっていくべきだと思います。

 ただ、この地域密着型サービスは、地域ごとに定員数をあらかじめ決め、それを超えた場合は市町村が指定を 拒否できるとされていて、市町村の姿勢で実施状況にかなり差が生じることが予想されます。施設づくりをすすめる側にとっては「早いもの勝ち」という事態に なるかもしれません。できるだけ早い時期から準備をする必要があると思います。場合によっては、介護保険の枠をこえて、小規模多機能の施設をつくるという 方向もあるかと思います。

共同組織の健康づくり・まちづくりは「介護予防」の先取り

一共同組織一介護施設づくり

 ――まちづくりとしても重要ですね。

 山田 その通りです。共同組織の人たちと一体となって、まちづくり、さらにまちおこしとし ても、「一共同組織一介護施設づくり」をぜひすすめてほしいと思います。小規模多機能サービスなどいいですよね。地域でこういう施設をつくって、そこで自 分たちの両親、あるいは地域の高齢者の方たちをみていく、ボランティアにも参加してもらう。これは、「共同の営み」としてとてもわかりやすい形だと思いま す。地域の人たちが憩える場所づくりやいろいろな暮らしの支えあい事業も、いっそう広げていきたいですね。市町村の独自事業にも積極的に関わっていくこと も必要です。

 ――市町村との関係づくりも大切になってきますね。

 山田 厚労省の側は、走りながら考えていく、よさそうなもの、効果がありそうなものは取り 入れていくという姿勢のようです。私たちも、日頃の実践のなかから、利用者や地域にとって必要なもの、介護サービスや介護予防のメニューなどを自治体にど んどん提案していく必要があると思います。一方的な突き上げ型ではなく、地域の介護をよくしていくにはどうしたらいいか、一緒に考えましょうという提言型 の働きかけを行なう。自治体との間でそういう関係をつくっていくことが大切だと思います。

ヘルパーの生活援助を制限?

 ――介護サービスの制限については利用者から、ヘルパーが来てくれなくなるのではと心配する声が出ていますね。

 山田 厚労省の言い分は、要支援、要介護1など軽度の利用者が増えて財政を圧迫していると した上で、軽度の人たちの介護度が悪化している。その原因はヘルパーの生活援助だ。ヘルパーが家事を手伝うから動かなくなって介護度を悪化させている。だ から生活援助はやめて介護予防にきりかえる、こういう説明です。

 その根拠として、島根の実態調査の結果が引用されているんですが、調査の数字をよくみると、要介護1で在 宅で過ごしている人の方が、施設にいる人よりも介護度が改善あるいは維持できていたというのが実態なのです。厚労省にとって都合の悪い調査結果は隠し、一 部分だけ見て、ヘルパーの援助が介護度を悪化させているなどというのは論外です。

 要支援や要介護1の人たちは、ヘルパーの援助によって生活を維持し、元気になっているのです。「軽度の人たちは、私たちヘルパーの支援がないと生活そのものが成り立たなくなる。施設に入るしかなくなってしまう」、これは全国のヘルパーさんの共通の声だと思います。

 しかし施設にすぐ入れるかというと、施設はまったく足りませんね。その上ヘルパーの援助が制限されたら、 自宅で食事もできないまま亡くなってしまう方たちが、たくさん出るのではないでしょうか。介護予防だけでは、生活は支えられません。いままでの介護サービ スがもっと利用できるよう求めていかなければならないと思っています。

居住費・食費を自己負担に?

 ――特養ホームなど施設の居住費や食費を、全額入所者の負担にしていく方向も検討されているようですね。

 山田 私どもの老健施設に入所されている方もぎりぎりの収入で、食費や利用料の減免を受け て何とか費用を負担できているという方が圧倒的です。仮に、居住費や食費が全額自己負担になって、これに利用料が加わると、月一○万円以上の負担になりま す。年金だけの収入の人は施設には入れなくなるでしょう。

 厚労省は、個人負担をどんどん強いてきます。そのねらいは、施設からの追い出しにあると思います。施設よりも在宅の方が安上がりだから、「在宅にしなさい」と厚労省の幹部が発言しています。

 ――介護保険がスタートしたときは、サービスを自由に選択できるといわれましたが、そういう状況ではありませんね。

 山田 在宅の介護サービスでも、必要性というよりも、利用料がどれだけ払えるかという経済 力で決まってしまう。サービスが必要であっても支給限度額(注)までは、とても利用し切れないのが実態だと思います。施設に入りたいと思っても、特養に入 るまで一年待ち、二年待ちですよね。施設も在宅サービスも、もっと充実させなければなりませんし、負担の心配なく必要なサービスが利用できる制度に変えて いかなければなりません。

 今回の見直しのなかでは、地域密着型サービスの導入とひきかえに、今後、特養などの施設の建設は抑えていくということが打ち出されています。

 施設をつくらないとか、利用者の負担を増やすとかの見直しはさせない運動を強めていく必要があると思います。

自治体の6割が減免を実施

 山田 費用負担の問題では、現在、自治体の六割が保険料や利用料の減免を実施しています。 そうしないとやっていけないことを自治体は承知しているわけです。自治体の減免制度をよりよいものにしていかねばなりませんし、厚労省にたいして、国とし ての減免制度をつくらせることも重要な課題だと思います。

 ――地域の高齢者のみなさんは、いつまでも元気で過ごしたい、介護が必要になったとしても、できるだけ住 み慣れた地域で最期まで安心して暮らしたいという願いをお持ちだと思います。そうした願いに応えていくために、どのような考え方やとりくみが求められてい るのでしょうか。

 山田 介護保険の主役は私たちであり地域の介護保障を私たち自身がつくっていくという視点 が大切だと思います。私たちの先輩たちが培ってきた経験や蓄積を、介護保障として形あるものにしていくこと、地域での多様なとりくみのなかでさまざまな困 難を抱えている人たちを決しておき去りにしないこと、そういう観点ですすめることだと思います。

写真・若橋一三

いつでも元気 2004.12 No.158

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