MIN-IRENトピックス

2017年10月17日

どうなっている?北朝鮮の核・ミサイル問題 慶応大学・礒﨑敦仁准教授に聞く

 ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮。安倍政権がとってきた「圧力」路線で解決するのか―。「戦争だけにはしたくない」と考える読者も多い。北朝鮮政治が専門の慶應大学准教授・礒﨑敦仁さんに聞きました。(丸山聡子記者)

 北朝鮮は七月に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射、九月には核実験を行いました。二つの成功には大きな意味があり、セットで考える必要があります。

■北朝鮮の目的は

 北朝鮮が、核・ミサイル開発をすすめる目的の第一は「抑止力」の確保です。超大国であるアメリカは、言うことを聞かないイラクやリビア、シリアなどに攻撃を行ってきました。北朝鮮と韓国がたたかった朝鮮戦争(一九五〇~五三年)はいまだ休戦状態で、韓国には強大な在韓米軍もいます。貧しい小国である北朝鮮がアメリカと対等に渡り合うには、アメリカにも届く長距離ミサイルと核兵器という「抑止力」が必要と考えているのです。
 第二に、国内政治の問題です。金正恩国務委員長は三三歳と若く、祖父、父と比べて実績も少ない。金正日時代には途上だった核・ミサイル開発を完成に近い状態にまですることで、国内での支持を確固たるものにしようとしています。
 第三に外交面です。北朝鮮の核・ミサイル開発はほぼ完成段階に近づいています。昨年一月以降、北朝鮮は実験のペースを上げてきましたが、一方で経済制裁はじわじわと効いているはずですから、このまま続けるのは難しい。“使える”段階に到達した核・ミサイルの力をカードに、外交交渉へ舵を切ってくることも考えられます。

■軍事衝突は?

 軍事衝突の危険性は完全には否定できません。米朝とも軍事衝突を望んではいませんが、交渉がなければ、偶発的、突発的な衝突が起きる可能性はゼロではありません。
 日本のメディアはミサイル発射や核実験を大きく取り上げますが、北朝鮮が外交モードや自制モードになってもほとんど報道しません。本当に日本政府が「国家の危機」として捉えているなら、北朝鮮のニュースの直後にバラエティーやドラマが放送できるでしょうか? 北朝鮮の“危険度”が上がれば上がるほど得をする政治家もいるのではないか。こうした背景をよく考える必要があります。
 安倍首相はトランプ米大統領と「太いパイプがある」と親密ぶりをアピールしています。ならばトランプ大統領に「軍事的オプションだけは使ってはならない」と求めるべきです。それが唯一の被爆国の首相として取るべき態度でしょう。その上で、「万全の対策をとっているから大丈夫」と国民を安心させるべきです。

■「圧力」では解決しない

 「朝日新聞」が九月一一日に発表した世論調査では、北朝鮮の核・ミサイル問題の解決について、「対話の努力」と答えた人は四五%で、「圧力の強化」四〇%を上回りました。
 一五年前の二〇〇二年一〇月に拉致被害者五人が帰国して以降、拉致問題は一つも前進していません。「圧力だけでは解決しない」「その結果が、今の緊張状態を招いたのではないか」と多くの人が感じ始めた結果だと思います。北朝鮮問題を率直に議論する土壌ができたと感じています。
 拉致被害者の帰国は、当時の小泉首相が北朝鮮を訪問し、金正日国防委員長と首脳会談をして、日朝平壌宣言に署名したことで実現しました。批判や反発がある中でも、「人命が第一」と、過去の植民地支配の謝罪も含めて日本政府が歩み寄り、北朝鮮も拉致を認めて謝罪したのです。このことからも、解決には対話しかないことは明らかです。
 戦闘状態になれば、朝鮮半島と日本に多大な犠牲が出ます。アメリカ追従ではなく、「圧力」以外の外交手段を日本政府が持つこと。政治的決断が緊急に求められています。


いそざき・あつひと
 ソウル大学大学院留学を経て在中国日本大使館専門調査員、ジョージワシントン大学客員研究員を歴任。著書に『新版 北朝鮮入門』など

(民医連新聞 第1654号 2017年10月16日)

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