いつでも元気

2017年11月2日

まちのチカラ・青森県鶴田町 
津軽富士の麓に鶴が舞う

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

朝焼けに浮かぶ鶴の舞橋

朝焼けに浮かぶ鶴の舞橋

 湖面に映る長いアーチ型の橋、優雅に飛び交う水鳥、奥にそびえ立つ津軽富士。
 四季折々、朝昼夕と表情を変えながら、町のシンボル「鶴の舞橋」は凛とたたずんでいます。
 昨年、JR東日本のコマーシャルで紹介されてから、特に人気を博している観光名所。
 ほかにも、ニューヨーク生まれの冬ぶどう「スチューベン」や、ツルっとした頭を活かして町を元気にしている「ツル多はげます会」など、魅力いっぱいの鶴田町を訪ねました。

日本一長い木造の三連太鼓橋

 「津軽富士見湖」の愛称で親しまれている廻堰大溜池は、ため池の堤防の長さが日本一長い約4・2km。1660年に弘前藩の藩主が、農業用水用に築いたと伝えられる人造湖です。
 南西約10km先には、標高1625mの岩木山が。青森県の最高峰で、新日本百名山の1つ。昔から山岳信仰の対象とされ、「津軽富士」「奥の日光」「お岩木様」などと呼ばれ親しまれています。
 湖の西側に架けられた「鶴の舞橋」は、樹齢150年以上の青森ヒバ700本が使用され、木造の日本一長い全長300mの三連太鼓橋です。途中にある2つの休憩所をオスとメスの頭に見立てると、まさに鶴のつがいが飛翔する姿そのもの。実際に橋を渡ると長生きできるのだとか。
 橋を渡った先には「丹頂鶴自然公園」があり、本物の鶴9羽を鑑賞することができます。中国やロシアから譲り受け繁殖させているそうですが、江戸時代にはこの地一帯に野生の鶴が飛来していたとのこと。その風景はどれほど優美だったことでしょう。

甘くてジューシースチューベン

 青森といえばりんごですが、鶴田町では「スチューベン」という冬ぶどうも多く栽培されています。もともとニューヨークで生まれた品種で、同緯度にある津軽地方の気候風土にぴったり。そこで水田の転作作物として50年ほど前から栽培が推進されてきました。
 スチューベンを作って30年という奈良農園を訪ねました。「果物が甘くなるには寒さが大事。ぶどう栽培は、実全体の色づきから収穫のタイミングを見極めるのが難しい。特に今年は色づきが早いです」と奈良正治さん。通常10月いっぱいが収穫時期ですが、専用の冷蔵庫で上手に保存すれば、長くて3月下旬まで出荷できるそうです。
 「一つ一つ収穫しながら、お客様がどういう気持ちで食べるのか想像しています」と話すのは、妻の順子さん。作業を手伝いに来ていた2人のお孫さんたちも、「りんごよりぶどうの収穫の方が楽しい!」。毎年10月になると町内6~8つの農園に黄色いのぼり旗が立ち、収穫体験に訪れる人でにぎわいます。もぎたての味が格別なのは言うまでもありません。

写真

つるつる頭で町を元気に

 鶴田町には、誰もがアッと驚くユニークさで笑いと拍手喝さいを浴びている人たちがいます。ツルっとした頭が特徴の「ツル多はげます会」の皆さん。2月22日を「ツルツルの日」と名付け、「新春の有多毛(宴)」を開いて頭を披露し合うなど、お笑い芸人も顔負けの活躍ぶりです。しかも約30年間活動を続けているというからビックリ。
 一体なぜ、そのような会を結成したのか。幹事長を務める成田晃生さんを訪ねると、「私も昔は薄毛コンプレックスが強くて、人前に出るのが嫌だったんですよ」と照れくさそうに話してくれました。会の発端は居酒屋での冗談だったそうですが、発起人の男性が「つるつる頭のマイナスイメージを笑い飛ばして社会を明るく照らそう!」と呼びかけたところ、何人も集まり会になったのだとか。
 「最初は家族に反対されましたが、実は学生の頃は目立ちたがり屋だったんです。会に入ったらすぐに脚光を浴びて、やめられなくなりました(笑)」と成田さん。
 会の名物行事「吸盤綱引き」は、町内の祭りや老人ホームからも引っ張りだこです。4年前からは川柳大会も始め、頭に関するユニークな句が全国から寄せられ出版にまで発展。さらに小学校での交通安全啓発にも力を入れています。「わざと子どもに頭を触らせて、『ほら、毛がない。けがしない』と教えるんですよ」と成田さんは満面の笑み。まさしく、名実ともに子どもたちの未来を明るく照らす活動です。頭に吸盤付きの旗を立てるという茶目っ気いっぱいの姿は、きっと子どもたちの記憶にいつまでも残ることでしょう。

吸盤綱引きは、1対1で頭のひもを引き合った後、最後に優勝者が複数人と対戦する(鶴田町提供)

吸盤綱引きは、1対1で頭のひもを引き合った後、最後に優勝者が複数人と対戦する(鶴田町提供)

神社の鳥居に鬼コ

 津軽地方、とりわけ岩木川流域には、30以上の神社に鬼がいるといいます。鶴田町内では3つの神社に。一目拝もうと、胡桃舘地区にある八幡宮に向かいました。
 集落の中にある立派な鳥居の右上に、黄色い鬼が一体。拝殿の扉にも、赤と青の鬼が張り付いていました。その他の神社でも、鬼の形相は実にさまざま。それらを巡るバスツアーも昨年開催され、人気上々だといいます。ツアーの事務局を務める鶴田町商工会の菩提寺圭一さんに話を伺うと、「津軽地方には確かに鬼を神様と崇める信仰がありますが、なぜ神社に鬼の像があるのか、はっきり分かっていません」。
 文献によると、津軽地方では古代の製鉄遺跡が多数見つかっており、鉄製の農機具を祀っている神社もあるそうです。東北に伝わる民話などでは、鬼が人間に利益をもたらす存在として表現されており、必ずしも忌み嫌う対象ではなかったよう。東北に製鉄の技術をもたらした人々が鬼として崇められ、土着神として広がったのかもしれません。

八幡宮の鳥居に鎮座している黄鬼

八幡宮の鳥居に鎮座している黄鬼

穀物アート一粒一粒に願い込め

 藩政時代から伝わる信仰がもう1つ。五穀豊穣を願って穀物の種を一粒ずつ並べ、巨大画を完成させる「弥生画」です。全国で唯一、200年以上前から継承されています。
 発端は江戸時代に発生した天明の大飢饉。8年連続の不作により津軽領内では人口の3?5割もの人が餓死。思い余った村人たちは、残り少ない穀物の種子を持ち寄って板に張り付け、雨乞いをしました。その種を土に植えたところ、翌年は大豊作に。以降、毎年秋になると弥生画を制作し、神社に奉納する習わしが続いています。
 町内に2つある制作グループのうち、「山道弥生画保存会」の渋谷信一さんに話を伺いました。11月下旬から下絵を描き始め、毎日3?4人体制で15?20種類の種を張り付けるそう。「一番小さい種は緑肥用の大豆で、2?3mmしかありません。肌色の部分はメロンの種を使いますが、並べ方次第で表情が変わるので、結構難しいんですよ」。
 作品は1カ月間の神社奉納後、道の駅「鶴の里あるじゃ」に展示されます。昨年の作品を拝見し、その端正な美しさから、町の人たちが脈々と受け継いできた自然への畏敬の念がひしひしと伝わってきました。

 

 

■次回は富山県立山町です。


まちのデータ
人口
1万3322人
(2017年4月現在)
おすすめの特産品
鶴田りんご、スチューベンぶどう、さくらんぼ、ワイン、日本酒など
アクセス
青森空港から車で約40分
JR青森駅から車で約50分
問い合わせ先
鶴田町観光協会:0173-22-3414

いつでも元気 2017.11 No.313

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ