医療・看護

2017年11月7日

相談室日誌 連載435 当事者の人生を肯定的にとらえなおして(熊本)

 「窃盗で逮捕されたアルコール依存症者」と聞くと、どんな人を想像しますか。自分勝手、自堕落…そう思う人は少なくないでしょう。
 Aさんは、アルコール依存症の四〇代男性です。窃盗で逮捕、二カ月の拘留から釈放後は行くあてもなく、自立準備ホームを経由して当院の三カ月間アルコールリハビリテーションプログラムを受けるために入院しました。
 家も頼れる家族もいません。SWは退院後のアパート探しを手伝う中で、Aさんの人生を聞きました。家が貧しく、勉強についていけず成績下位だった子ども時代。二一歳の時に両親が離婚し、母と妹の消息が途絶えました。父と建築業をしていましたが、不況も影響し、親子は絶縁状態です。父は再婚して子どももおり、それを考えるともう会えないと言います。
 本人も離婚し、それ以降「ひとりで過ごすのが好き」と自分に言い聞かせるように生きてきました。仕事中の飲酒衝動が次第に抑えられなくなり、転職を繰り返すうち、うつ状態を呈し、働けなくなってホームレスに。どうしようもなくなって、盗んだ自転車にロープを載せ死に場所を探していたところ、警察に声を掛けられ、盗難自転車とばれて逮捕されました。
 頼る人もなく孤独を紛らわせるように飲んでいた酒。「僕はこれまで酒で生き延びてこられたと思う」とAさんは話しました。もちろん犯罪は肯定しません。しかし、Aさんの身の上を「身勝手で自堕落」と断定できるでしょうか?私たちSWは困難や生きづらさを抱えた生活歴を振り返り、当事者の語りに寄り添い、共にその人生を肯定的に捉えなおしていきます。
 「つらい体験をして考える時間があったからこそ、これからがんばろうと思える。変な言い方かもしれないが逮捕されて良かったかもしれない」と語るAさんは、つながった自助グループで、断酒を続けています。依存症は人が関わることで回復すると感じています。SWだけではなく、一人でも多くの人が、当事者の想いに耳を傾けていってほしいと切に願います。

(民医連新聞 第1655号 2017年11月6日)

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