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2017年11月7日

第13回 全日本民医連 学術・運動 交流集会 茨城 テーマ別セッション 最善のケア、貧困へのアプローチ、国際連帯など 4テーマで活発に

 二日目は、四つのテーマ別セッションを実施。患者・利用者を中心にしたケアのあり方、憲法、多職種で貧困に立ち向かう、国際連帯…と多彩。セッション一、三、四の内容を紹介します。

1「その人を中心とした最善のケアとは~パーソン・センタード・ケアを学ぶ」

 認知症の母親を撮った映画「毎日がアルツハイマー」の関口祐加監督の講演と映画上映を軸に、投薬に頼らない認知症ケアの一手法であるパーソン・センタード・ケアについて学びました。参加は四七六人。
 まず基調提案を全日本民医連の認知症懇話会の代表世話人・山田智副会長が行いました。二〇一一年の学術運動交流集会以来、「無差別平等の地域包括ケア」のセッションが続けて持たれてきたことや、今回の主題であるパーソン・センタード・ケアの概念を紹介。同懇話会が今期行ったイギリス研修の内容を報告し、認知症ケアに重要な三点をあげました。
 (1)当事者を一人の「人」として尊重し、その人の視点や立場に立って理解しケアすること、(2)当事者の出来ないADLを出来るようにするために環境整備など視覚からの働きかけ、(3)「あなたはここに居ていいよ」など認知症の人にやさしい地域づくりの実現は、地域包括ケアシステムの実践。
 指定報告は、「医療型初期認知症カフェひだまりのとりくみ」(京都・あやべ協立診療所)と、「法人グループで進める『認知症』に関する課題へのとりくみ」(神奈川・社会福祉法人うしおだ)の二本でした。

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 関口監督は、お母さんの認知症をきっかけに、海外生活をやめて帰国、二人暮らしは八年になります。「老化を悪いことだとする流れがありますが、ぼけたっていい。忘れた方が幸せな記憶もあります」と切り出し、この場で上映した「毎日がアルツハイマー2~関口監督、イギリスへ行く編」の制作や母親との生活を踏まえ、医療・介護スタッフにはない視点を提供してくれました。
 たとえば、通所介護のこと。認知症を発症直後のお母さんは「閉じこもり」でしたが、イケメン職員の声かけが功を奏し、通所を開始、ところが施設を変わることに。サボれない性格のお母さんはデイが用意する企画に一所懸命とりくむあまり、興奮し、疲れて帰ってきてしまうのです。「母の状態にあわせてデイを変えるしか…。母にあわせてデイは変わりませんから」と監督。パーソン・センタード・ケアについても「その人の個性をみてすすめて」と注文しました。「目をやる、触れるなどの基本形はあっても、例えば母はマッサージなどで触れられるのが大嫌いです(!)」。
 また、問題行動には「全て理由がある。『なぜ?』と探偵の視点でその原因をみつけよう」と提案。「原因が分かれば環境を変える。工夫は楽しい」と。操作を誤りやすい電化製品は昭和の物にするなどの対応も有効だったと報告。
 映画中でとりあげている介護者の虐待問題にもふれ「介護者は介護される人に対して絶対的な存在になれる。『起きるはずがない』ではなく、そういう構造の中にいる、と介護者側は立場を客観的に捉えることが大事ではないか」と話しました。

3「社会的困難を抱える若年層の患者へのアプローチの仕方を考える~みなさんはどう考えますか~」

 一四〇人が参加。若年層の貧困や、世代を超えて貧困が連鎖する中で、多職種でどう向き合っていけばいいかを考えました。全日本民医連の近藤知己理事(小児科医・愛知)が開会あいさつ。「子どもの貧困が広がる中、その解決には小児科のみならず、産婦人科や精神科などとの連携が欠かせない。どう立ち向かうのか、多職種で考えたい」と呼びかけました。
 歯科、精神科、産婦人科、小児科の四分野から指定報告。「歯科酷書第三弾について」(山梨・榊原啓太歯科医師)、「連携の現状と課題―主に救急での精神科との連携から」(石川・松浦健伸医師、精神科)、「社会的ハイリスクの妊婦への介入~医療機関からの発信・調整会議のすすめ」(青森・平岡友良医師、産婦人科)、「外来貧困調査『子どもの貧困が社会に与える影響』」(和歌山・佐藤洋一医師、小児科)でした。
 その後、実際の事例をもとに、Aさんという架空の女性の相談ケースを設定し、幼児↓小学校期と一〇代後半の二つの時期でどのような支援ができるか、多職種で意見を出し合う公開の症例検討を実施。佐藤洋一さん(前出)、今村高暢さん(精神科医・愛媛)、平岡友良さん(前出)、岩下明夫さん(歯科医師・東京)、清田真子さん(歯科衛生士・東京)、庄司美沙さん(SW・大阪)、島袋香織さん(助産師・沖縄)、松浦ときえさん(看護師・京都)、大森香さん(事務・栃木)の九人が参加しました。
 Aさんが幼児↓小学生の「ステージ1」では、医療費の窓口負担がない就学前は定期受診していたが、就学後は中断を繰り返し、持病のぜん息が悪化した状態をどう支援するかを議論。子どもは三人、父は減収、母がダブルワークしても世帯収入は月一七万円程度。SWの庄司さんは、「つらいと感じない」という母親の発言に着目。相対的貧困ラインや収入に占める国保料の割合が高すぎる実態を紹介し、「この家庭は生活保護基準を下回る。生保基準などを知ることで、患者の生活困難の度合いをつかめる」と指摘しました。
 小児科医の佐藤さんは、和歌山で子どもの医療費無料制度が中学卒業まで拡大され、治療中断者が減ったことなどを紹介しました。
 Aさんが一〇代後半の「ステージ2」では、一九歳で出産、夫と離婚したが、家族の支援がない状態だと提示されました。
 歯科衛生士の清田さんが、母親の口腔状態が妊娠や胎児に与える影響を説明。妊娠期からの支援の必要性を語りました。宮城・坂総合病院から、社会的リスクの高い妊婦が増えている一方、そうした妊婦を受け入れる医療機関が足りない実態も出されました。
 事務や看護師からは、患者の困難に気づく日常的なアンテナの張り方や、気づいた際のアプローチの方法など、実践的なアドバイスがありました。
 参加した兵庫・番町診療所の松岡泰夫所長は、「各地からの報告を聞き、命の健康がこんなにも脅かされていることに強い憤りを感じた。全国で職員が奮闘しているが、医療・介護の現場でできることには限界がある。憲法二五条が守られるような政治を実現させましょう」と発言しました。

4「健康権を守る日韓の運動と実践を学ぶ」

格差と貧困、超高齢化社会に立ち向かう社会保障
運動と現場実践の交流から運動の主体形成を探る

 健康権を保障するための日韓の運動・実践を交流し、今後どう広げるか考えるセッション。一〇〇人が参加しました。目標を(1)日本と韓国の「人権としての社会保障制度」を確立するための今日的課題を明らかにする、(2)「人権としての社会保障制度」を実現する組織、市民の運動のあり方と目標を探る、(3)緊縮政策と政治の現状、動向を重視し、対抗する政治活動の方向性を考える―とし、韓国の「健康権実現のための保健医療団体連合」を招き議論しました。
 最初に、藤末衛会長が日本の社会保障制度の概要を報告。日本の社会保障財源は国際比較しても決して多くなく、格差と貧困が広がっていることをデータで説明()。世界的に起こっている社会保障をテーマに含めた市民運動を日本でも広げていくため、「私たちが行う患者、利用者に寄り添った実践は、社会保障改善の運動につながり、市民がたたかうエネルギーになる」と話しました。
 次に、立命館大学の松田亮三教授が「医療機構のあるべき姿を考える」として講演。目指すべき医療機構を考える上での概念として「普遍主義的医療給付」を紹介しました。この概念は、誰もが必要で十分な質の医療を受けられるべきであり、現在のように「利用して金銭的リスクにさらされる」ことがないようにすべき、というもの。この実現のために「患者や住民の状況、医療へのアクセスの保障などに着目して運動することが重要」とまとめました。
 韓国保健医療団体連合からは二人が報告しました。まず、ウ・ソッキュン政策委員長が「韓国の医療保障の歴史と保健医療運動」と題し報告しました。韓国の健康保険や医療制度の歴史については、韓国の政権の変遷や日本との比較も入れて紹介。運動面では、労働運動や市民運動、医療団体など、多くの市民が団結し新自由主義をすすめる政権を覆した経過を、たくさんの画像も示し話しました。
 続いて同連合のチェ・ギュジン企画局長は、「人道主義実践医師協議会(人医協)を通して見た韓国保健医療運動三〇年史」のテーマで報告。人医協の活動と、課題を話しました。「人医協内外で挑戦と試行錯誤をし、組織の変化を模索する時期」と話し、韓国でも民医連のような組織の発足を準備していると報告しました。

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 セッションの後半は、フロアディスカッション。韓国の医療活動や制度について、質問が多く出ました。「市民運動が盛り上がった韓国と、いまひとつの日本。何が違うと思う?」との問いには、「日本では『国民性』だと報道されていますが、それは違う」とチェ医師。このことは韓国でも分析されていますが、明確な答えは出ていないそう。「日本でも戦争法では盛り上がったでしょう。いつか必ず爆発する日が来るはず」とウ医師も答えました。

〈参加者の感想〉
奥山千佳さん(事務)、北海道・勤医協中央病院
 平和活動について演題発表しました。全国集会の参加は初めて。職種を超えて視野も広がりました。利用者さんの夢をかなえようととりくんだ介護職の人の話が印象に残りました。
菊池久美子さん、須藤千夏さん(ともに看護師)、館山友佳さん(介護福祉士)、青森保健生協
 セッション1に参加。自分たちのケアを振り返りながら映画を観て、監督の講演を聞きました。私たちも画一的なケアだったと気づき、「ケアの仕方を見直そう」と三人で話し合いました。
神尾智予さん(助産師)、北海道・菊水こども診療所
 経済的に困っている患者は、世帯全体で複数の困難を抱えている。セッション3で多職種連携の大切さを再確認しました。困っている人を放っておかない仲間が多くいることに感動しました。
福田由美子さん(言語聴覚士)、福岡・大手町リハビリテーション病院
 分科会「認知症の医療とケア(1)」に参加。生活に入り込み、工夫やあきらめない姿勢を聞けたのが良かった。一人ひとりと向きあうことの大切さを学びました。

(民医連新聞 第1655号 2017年11月6日)

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