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2017年11月21日

Borders 時々透明 多民族国家で生まれて (16)ユダヤ人とお金

 角がある。ケチ。悪賢い。背が低い。陰謀をしかける。働かずにお金を盗る。詐欺師。尻尾がある。キリスト教の女性を犯す。イエスを殺した。キリスト教の子どもを誘拐し生贄(いけにえ)にする。宝石をこっそりと集める。大きな鼻。共産主義者。メディアや金融機関を操る。世界を支配したい…。
 反ユダヤ主義の人々はユダヤ人をこう表現する。他にもきりがないぐらいある。僕もこのうちのいくつかを言われたことがあるし、歴史の上のみに存在する表現もある。大学では哲学の授業で、カントの著作でユダヤ人への憎みを読んだし、現在のアメリカ大統領は反ユダヤ主義のシンボルを選挙に使った。
 こんな差別的な発想はどこからくるのか? 歴史に絡むものもあるが、それは実に複雑だ。例えば典型的なのが、ユダヤ人とお金の関係だ。
 遡ること、中世のヨーロッパ。「ユダヤ人はお金を異常に求める」という固定観念が植えつけられた。ヨーロッパの王国の大部分がキリスト教をささえながら、その教えを基にして法律や職業の規制をし、社会を作った時代だった。その中でユダヤ人は生きていた。例えば、イングランド王国ではユダヤ人が土地を持つことを禁じていたため、農業ができないユダヤ人はもっぱら労働を売った。一方ユダヤ人にもう一つ許された職業があった。当時のキリスト教の教えでは、貸したお金に利子をかけるのは罪だった。従って王政の下でも、キリスト教徒が利子をかけることは違法であり、貸金業は禁止の対象とされないユダヤ人の仕事となった。つまり、貸金業はユダヤ人が自ら選んだ職業というより、キリスト教社会の中でユダヤ人ができる数少ない、合法の職業だったのだ。ちなみに、イングランド王国においてユダヤ人に対する相続税は100%であったばかりか、1290年にユダヤ人は追放されることとなる。しかし、「ユダヤ人とお金」の歪んだ考え方は今でも残っている。
 僕には反ユダヤ主義の表現がまるで硫黄の煙であるかのように覚える。見えずに潜んでいる危険物が漏れてくる。その度にその歴史について話したくなる。話したところで極端な反ユダヤ主義者の心を変えるのは難しいとは思うが、少なくとも偏見や噂を鵜呑みした人に考えてもらうことはできるだろう。無視すると反ユダヤ主義はさらに膨らんでいくだろうから。


文 ヘイムス・アーロン 東京在住のユダヤ系アメリカ人。セントルイス・ワシントン大学院生、専門は人類学。1977年生まれ、ネブラスカ州育ち

(民医連新聞 第1656号 2017年11月20日)

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