いつでも元気

2005年2月1日

特集2 脳卒中のリハビリ 入院直後から適切な機能訓練を

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言語聴覚士(ST)
石川理子(さとこ)
作業療法士(OT)
佐藤吏恵(りえ)
医師
茂木紹良(もてぎあきら)
理学療法士(PT)
石栗外希子(ときこ)
山形・協立リハビリテーション病院

「寝たきり」や「痴ほう」を防ぐ

 高齢化におけるさまざまな社会問題の一つが、これからも増加が確実な「寝たきり」や「痴ほう」などの問題です。この「寝たきり」や「痴ほう」の原因疾患として最も多いものが脳卒中です。

リハビリが不適切だと

 脳卒中は発症そのものを防止することが大切ですが、年とともにすすむ動脈硬化症がもとになるため、残念ながらその発症をゼロにすることは困難です。したがって、脳卒中になってしまった場合には、そのリハビリテーション医療が、ますます重要になってきます。
 とくに高齢者は、脳卒中そのものによるというよりも、リハビリが不適切だったり不足したりしておきる「廃用症候群」が心配されます。
 廃用症候群とは、寝たまま安静を続けていると使わない機能が衰えてしまっておきる症状(図1)のこと。心臓や肺の機能が落ちると動悸や息切れがおきます し、骨や筋肉が弱くなって、関節が硬直して動かせなくなったりします。
 このことだけでも「寝たきり」や「痴ほう」の原因となります。
 脳卒中が発症したら早期からの、そして十分なリハビリが、今後ますます大切になります。

リハビリの流れ

 脳卒中のリハビリの流れを紹介しましょう。リハビリは、発症し、入院してすぐから始まります。
●急性期リハビリテーション
 リハビリで急性期(早期)とは、発症から病状が安定するまでの期間をいい、入院翌日から開始します。
 ▽座位を保つ訓練、▽段階的に行なう飲み込み(嚥下)の訓練、▽排尿援助などで、医師の指示・監督のもとで、おもに看護師が行ないます。
 これは、安静にしていることで体の機能が衰える(廃用症候群)のを最小限にくいとめるためです。

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注1 嚥下障害がある方の食事の介助

 介助する人は、介助される人のマヒのない側に座る。「食事ですよ」など声をかけ、食べることに注意を集中させる。1回の量は、ティースプーン1杯程度の 少量とし、ゆっくり行なう。食べものが見えるように、また、香りがわかるような高さから口に入れる。一口飲み込むごとに、口の中を見て、食べものが残って いないことを確かめる。残っていたら、もう一度飲み込んでもらうか外に出してしまってから、次を入れる。
 はじめは大丈夫でも、何回も飲み込んでいる間に、のどでゴロゴロ音がすることがある。見えないところに食べものがたまっている場合があるので、一口ごと に2回ずつ飲み込むようにすると、うまくいくことがある。必要に応じて吸引して取り除くこともある。食事の後は、口腔内をきれいにする。
注意点
 誤って食べものが気道に入ってしまったときは、むせて咳き込むことが多いが、気道の反射が低下していると、むせないことがあるので要注意。
 顔つきが変わる、あえぐ、声がかすれる、胸でゴロゴロまたはブツブツなど音がする、食後に咳や痰が多くなる、などは誤嚥の徴候。摂取量や、摂取時間、介 助などを観察する。

注2 失語症の方とのやりとり

良い例
(1)短い文で要点を繰り返し、「ハイ」「イイエ」で答えられる問いかけにする。
(2)絵や文字(漢字中心がよく要点程度に)、実物、身振りなどをいっしょに示して話しかける。
(3)ゆっくりと会話をすすめ、急に話題を変えない。
(4)言いたい言葉が出てこないときや間違ったときには、「~のことですか」など、こちらから選択肢や手がかりを示す。
(5)表情、身振り、描画、文字の一部からでも、伝えたいことをこちらから汲み取っていく。
やってはいけないこと
(1)耳元で大声を張り上げる(難聴ではない)。
(2)50音の文字盤などを指さしさせる(たくさんの文字の中から探すことは、逆にむずかしい)。
(3)幼児言葉で話しかける(人格は保たれている)など。
 失語症の方の伝えたいことがわからないときは、わかったふりをせず、次の機会に、また工夫しましょう。ひとつでも通じ合える場面を増やし、信頼関係を築 くことで、コミュニケーションが取りやすくなります。

作業療法って?

 作業療法は、生きがい作りや主体的な生活ができるような援助を行なうことが目的で、その手段としてさまざまな活動手段を行なっています。
 たとえば手の外傷や手足のマヒに対して、作業(木工・陶芸・藤細工・手工芸など)をして筋力をつけたり手先の細かな動きの練習をしたりします。作業をし ていること自体が、全身の持久力の改善にもつながります。
 日常生活において大切な食事・更衣・整容・排泄・入浴などの訓練も行ないます。必要に応じ炊事・掃除・洗濯など家事の動作訓練もします。
 また在宅の障害者やその家族の方々が生活しやすいように、指導・援助をしています。利き手に障害をもつ患者さんには、はしを持ったり字を書くときの利き 手を交換する訓練をすることもあります。
 どうしても残された能力だけでは行なえない場合には、その動作ができるようにするための道具(自助具)を考えたり作ったりもします。
 いろいろなレクリエーションを通して心身機能を維持すること、人と交流する機会をもち社会性を促すことも行ないます。このように、さまざまな作業を用い て治療・訓練を行ないます。

●回復期リハビリテーション
 回復期とは、病態が安定し、マヒなどの回復、基本的な身の回り動作の改善をめざす時期をいいます。
 基本的な身の回り動作は、▽食事をする、▽服を着替える、▽身支度、▽排尿・排便、▽入浴などです。
 この時期、リハビリの専門職が集中的に関わるため「集中的リハビリ」ということもあります。

●維持期リハビリテーション
 維持期とは、家庭や施設で、生活・人生の「質」の向上や、社会参加を目的とする時期です。リハビリの専門職との関わりで、「断続的リハビリ」ということ もあります。
 外来や訪問によるリハビリのほかデイケアやデイサービスを利用したり、職業復帰などを行なうこともあります。
 それぞれの時期に合ったリハビリが提供されるようになってきましたが、これらは発症からの時期・日数によって明確に分けられるものではありません。

Kさんのケースでは

 具体例を紹介しましょう。脳卒中を発症し、リハビリをしている65歳の女性Kさんのケースです。

急性期
入院翌日からリハビリ開始

 04年1月15日午前10時、Kさんは右手のだるさを感じ、トイレに行こうと立ち上がると右足に力が入りません(右片マヒ)。夫を呼ぼうとしても声になりません(失語症・構音障害)。
 異変に気づいた夫が救急車を呼び、救急病院に。頭部CTとMRIの結果、脳梗塞と診断され、入院・治療となりました。
 入院3日目には、上下肢はマヒのためまったく動かなくなりました。
 意識ははっきりしているので、食事を始めるための水のみテストを行ないました。安全に食べられる食事の硬さや流動性などが決まり、食事が開始されました。
 嚥下障害がある場合は、食事介助に注意が必要です(注1)。
 5日目に片マヒなどの症状の進行がおさまってきたので、徐々に座わる訓練を開始。尿意の感覚は不十分ですが、寝返りは7日目に1人でできるようになりま した。11日目には、座わったり車いすに移動したりは介助があればできるようになりました。
 13日目には全がゆを全量とることができ、栄養状態も安定。回復期リハビリ病棟のある病院へ転院が決まりました。

回復期
身の回り動作ができるよう

 Kさんに残っている障害は、右片マヒと失語症です。
 失語症になると、これまでふつうに使っていた言語が突然使えなくなり、不安や孤独、疎外感で苦しみます。周囲の人が「失語症」を理解し、言語だけにこだ わらず、コミュニケーションをはかり、失語症の方を支えていく必要があります。失語症の方とのやりとりで心がける点は注2のとおりです。
 食事は左手を使って一人でできます。衣服の着脱・身支度、排泄と入浴には手助けが必要です。
 排尿はタイミングが合わずオムツを使っていますが、入院と同時に排泄自立にむけた訓練をしています。
 小便の排泄時間を決めて、トイレに座ること。400回を目標に、立ち上がる訓練をすること。立ち上がりを容易にし、転倒予防のためベッドの回りをかたづ け、「らくらく手すり」を使用しました。
 退院時の目標は、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカーで構成するカンファレンス(検討会)を開いて話し合い、次のことを確認しました。
 ▽装具とつえを使って屋外歩行ができる状態で退院すること。
 ▽手すりの設置やトイレの改修などが必要なこと。
 ▽家の周囲に坂が多いこと。
 ▽家事も一部やれるように利き手交換(利き手である右手がマヒしているため)すること。
 カンファレンスの結果をKさんと夫に伝え、退院予定は、4月中旬ごろに決まりました。Kさんは、右手がよくならないと家事は無理だと思っていたので、当 初は家事訓練をイメージできなかったようです。でも片手で意外とやれたことに自信をつけ、徐々に積極的になりました。
 3月下旬、少しずつ歩けるようになりました。骨粗鬆症が重度なため、転んだとき骨折しないようヒッププロテクターを着用。夫の見守りにより1日5千歩を目標に歩きました。
 要介護認定を申請し要介護Ⅰの判定。4月25日、退院しました。

維持期
外出などが楽しめるよう

 外来で、通院リハビリが行なわれました。目標は、身の回り動作や家事、一人で入浴などができているか確認することと、つえなしでもっと歩けるようにすること、坂道歩行の安定などです。
 しかし退院後、Kさんはデイケアは気が進まず、また、歩くのを見られたくなくて、屋外での散歩が日課とならず、閉じこもりとなってしまいました。そこ で、市町村の機能訓練事業への参加を勧め、「脳卒中友の会」と「失語症友の会」を紹介。徐々に外出するようになり、散歩が日課になりました。

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予防的活動
老年症候群を予防する

 高齢者は、うつ、栄養障害、脳卒中、心疾患などの要因によって、運動不足になり、体力や筋力が低下しやすく、知的障害、失禁(尿漏れ)、転倒などをおこしがちです。これを老年症候群といい、寝たきりの原因になります。
 脳卒中は、障害が軽度であっても、老年症候群をおこしやすく、予防が必要です。脳卒中のリハビリと、予防的リハビリとは、図2のように関連しています。 維持期リハビリは、予防に重なる部分も多いのです。

自主的な訓練が大切

 リハビリの供給体制は、かなり地域差があり、まだまだ発展途上の分野です。入院していても、十分な個別訓練を受けられない場合もあります。家庭での訪問リハビリにいたっては、提供目標の10%程度です。
 現状ではリハビリ専門職の指導によって集団で行なうことが多いのですが、各自に示されたプログラムに従って、立ち上がり訓練などに自主的にとりくむことが大切です。

いつでも元気 2005.2 No.160

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