いつでも元気

2005年2月1日

シリーズ 被爆60年 原爆症認定集団訴訟の意味するもの

核戦争の生き証人・被爆者の“最後のたたかい”を全力で

全日本民医連被ばく問題委員会委員長 聞間 元医師に聞く
 
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インタビューに答える聞間医師

民医連の患者調査が全国的データに

 ことしは被爆六〇年。四年目に入る「原爆症認定集団訴訟」も、重要な段階を迎えます。集団訴訟のもつ意味や今後の課題について、全日本民医連被ばく問題委員会委員長・聞間元医師(静岡・生協きたはま診療所所長)に聞きました。

いま12の地方裁判所で提訴

 ―「原爆症認定集団訴訟」とはどういうものでしょうか? まずそのあたりからお聞かせください。
 聞間  「原爆症認定」制度の抜本的な改善を求めて、日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)が〇一年秋に始めた運動です。被爆者の方が、全国でいっせいに原爆 症の認定申請を行ない、却下された場合は処分の取り消しを求めて集団で裁判に訴えるというものです。予想通りといいますか、次々却下され、現在、全国一二 カ所の地方裁判所に一六〇人ぐらいの方が提訴しています。

 ―これまでも、長崎の松谷訴訟とか京都原爆訴訟などがありました。これとどういう関係になるのでしょう?
 聞間  長崎の松谷英子さんは最高裁まで一二年、京都の方は大阪高裁まで一三年と、長く苦しい裁判をたたかい抜いて勝利しました。全国の被爆者は、個別の裁判では あってもこれらの判決によって、厚労省が原爆症の認定基準そのものを見直してくれることを期待したのです。しかし、国が新しく採用した「原因確率」という 基準は、松谷さんさえも認定されないほど厳しいものでした。そこで怒りが沸騰して、認定制度そのものを変えようと集団で被爆者が立ち上がったのです。

 ―現在、原爆症と認定されている方が、たった二千人余と聞いて驚きです。
 聞間  被爆者健康手帳を持っている方は全国で二七万人余りいます(〇四年三月末現在、二七万三九一八人)。しかし、その病気が原爆によると認められている方は、 その〇・七%しかいません。国は、爆心から一・七キロで線引きして、その内側で被爆した人で、しかも特定のがんや傷病の人以外は、「原爆放射線によるもの ではない」と切り捨ててきました。投下直後から市内で救助活動をしたり肉親を探して歩き回った人(入市被爆者)は、放射線の影響がない、とすべて却下され ています。
 被爆者の願いは、核兵器をなくすことです。お金の問題ではありません。「核兵器はなくさなければならない」という立場に立てば、被害をつぐなう気持ちが でてくるはずです。しかし、半世紀以上にわたる苦しみに対して国は冷たい。その政府の姿勢を正せと求めているのです。

被爆者の苦悩の人生に接し

 ―先生がこの運動に関わられたきっかけは、何だったのでしょう?
 聞間 静岡に赴任して二五年になりますが、県内にも被爆者が千人ほどおられ、幾人かの認定申請にも関わってきました。今回の集団訴訟の原告被爆者の申述書を見ると、その方の苦悩の人生が伝わってきますね。
 病弱なために仕事が続けられず何度も職場を変わった人、結婚をあきらめねばならなかった人、家族にさえ隠してこざるを得なかった人など、被爆者はいろん な思いを秘め、さまざまな苦しみに耐えて生きてきました。
 今日まで、たくさんの被爆者が亡くなりましたが、生き残っている方も平均年令が七〇歳を超えています。毎日、原爆症の不安を抱えながら生きている方も少 なくありません。被爆者はこの苦しみが、原爆によるものであることを国に認めてほしいと願っている。その思いがよくわかり、共感するものがありました。
 民医連としては、一九六七年に、第一回の「被爆者医療研究集会」を開催して以後、計八回の全国集会を開いてきました。ことしも七月に九回目の全国交流集 会を長崎で開きます。いまは、原発関係など核燃料サイクル施設の問題を視野に入れた「被ばく問題交流集会」に発展させています。

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11人の民医連医師団が出した意見書

2万人近くの記録は重要

 ―民医連として、これからの課題は?
 聞間  原爆の被害はいまも続いています。白内障、心筋梗塞、呼吸器疾患、慢性肝炎が被爆者に多いことも分かってきました。東京の東数男さんの裁判では、昨年三 月、C型肝炎を原爆症と認める地裁判決が出されました。放射線の影響がないとされる遠距離被爆や入市被爆の人にも、かなりの「急性症状」がでていたことも わかってきました。
 二七万人余の被爆者のうち、全国の民医連の病院や診療所にかかっている被爆者が二万人はいます。実は、そこに重要な意味があります。広島、長崎には原爆 後障害の研究機関がありますが、同じように、民医連での患者さんの調査は、北海道から沖縄まで被爆者の全国的なデータとなりうるんです。
 被爆者に対しては問診の段階から注意していただいて、被爆者の記録を蓄積していく。そして、「これほどの被害をもたらす核兵器はなくすしかない」という 声を世界に発信していく、それが民医連の使命ではないかと思っています。

 ―読者に、ぜひ訴えたいことは?
 聞間 集団訴訟は、核戦争の生き証人である被爆者の、日本政府と核兵器を持ち続ける国を相手にした「最後」ともいえるたたかいです。被爆者だけの力でやりきれる運動ではありません。広範な国民の力添えがなければなりません。
 現在提訴されている一六〇人のうち、民医連医師が直接関わっているのは四〇人前後ですが、医師団としての意見書を各地の裁判所に提出しました。
 各地で青年職員を中心にした支援ネットも生まれていますが、集団訴訟している被爆者が身近におられたら、ぜひ応援してあげていただきたいのです。核兵器 が拡散する危険が大きくなっていますし、劣化ウランの被害も懸念されています。世界のどこかで、再び広島・長崎をくり返させてはなりません。

聞き手・太田候一記者

いつでも元気 2005.2 No.160

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