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2018年1月2日

地域住民と事業所共同で認知症訓練 “安心して迷えるまち”めざし 神奈川・汐田総合病院

 認知症の人をどうささえるかは、地域の大きな課題です。神奈川・汐田総合病院では、近隣の医療・介護・福祉の事業所と「川のまちエリア」を立ち上げ、住民とともに地域の課題を考えています。昨年一一月には、初めての「認知症SOSネットワーク模擬訓練」にとりくみました。(丸山聡子記者)

 「認知症 模擬訓練」のノボリに、オレンジのビブスを着たグループ。川の土手で空の釣り具入れを持って立ち尽くしている男性に声をかけました。
 「お出かけですか?」「釣りに来たんだけど、釣り竿がなくて…」「お困りですね」「大丈夫、大丈夫…」離れた場所では、別のメンバーが「道に迷った男性がいます。認知症のようで…」と電話で通報しています。

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 一一月二日、訓練が行われたのは横浜市鶴見区。「川のまちエリア会議」が企画しました。「川のまち」とは同区を三分割したうち一つの地域のこと。同会議は二〇一四年に二つの地域包括支援センターのエリア内の医療や介護、福祉のネットワークとして一三事業所で結成。汐田総合病院総合ケアセンター室の松尾ゆかり室長らが、日頃からの連携を元に、エリア限定で住民とともに地域の課題を考え、「安心して住み続けられる地域」をテーマに学習会やシンポジウムを開いてきました。
 今年は「迷っても安心できるまちづくり」をテーマに訓練を計画。地域で迷っている“認知症”役の人に声をかけ、保護し、通報するまでを行います。同会議メンバーはサポート役で、認知症役や捜索隊は町内会や民生委員たち。消防や警察、区役所からの参加もあり、総勢約一〇〇人での訓練です。
 五つのグループが川の土手と公園の二カ所に分かれ、認知症と思われる人を探します。
 あるグループは、一人でいる高齢男性に気づきながら、「外見は普通だし、おかしな言動もないし」と素通り。しばらくして戻っても同じ場所にまだ男性がいたので、声をかけました。
 ベンチに一人で座る男性に声をかけて話し込んだものの、たまたま公園にいた一般の人だった…というハプニングも。

■認知症の人の気持ち

 病院に戻り、訓練の振り返り。訓練の様子を撮った動画の一部を視聴した後、グループごとに意見を出し合いました。
 「本人の隣で通報の電話をしていた。不安をあおってしまうので配慮が必要」「大人数で囲んで怖がらせてしまった」などの声が出た一方、「通報の電話をしている時に、別の人が『少し座ってお話ししませんか』と声をかけるなど協力できて良かった」との感想も出ました。
 実際にやってみたことで具体的な心配も出てきました。「一人でいる時、認知症の人を見守りながら通報するのは現実的に無理」「訓練で通報したら、『一〇分ほどで現場に向かいます』と言われたけれど、見知らぬ認知症の方を相手に、その時間を乗り切れるか」などです。
 “認知症”役は町内会の男性役員さんらが引き受けました。訓練でも大勢に囲まれると恐怖感がある、目の前で通報されると悪いことをしたようでいたたまれなかった―などの意見が出された一方、「優しく声をかけてもらえると安心できた。経験を重ねれば自然な声かけができるのでは」との声も。
 認知症サポート医でもある同院の宮澤由美医師は、「訓練時の気持ちや日常での経験の共有が大事。認知症の人が安心できるまちは、誰もが安心できるまち。どんなまちにしたいか考えていきたい」とまとめました。

■補い合い、ささえ合う

 後日、「川のまちエリア会議」メンバーで振り返りを行いました。地域の人たちが楽しそうに参加していたことや、「やって良かった」にとどまらずに反省点や提案が積極的に出されたことに、「訓練を重ねれば、“安心して迷えるまち”づくりにつながるのではと希望を持った」などの意見も。また、地域包括支援センターが行う認知症サポーター養成講座で「訓練のDVDを上映してほしい」と、次につながる報告もありました。
 宮澤医師は、「認知症は大きな課題ですが、それを入口に、何かあった時に声をかけあい、駆け込める場所があるまちにつなげられたら。顔の見える関係ができてきて、『困った時は汐田病院に相談してみよう』と思ってもらえるようになってきた」と言います。仕掛け人の一人である松尾さんは「エリア会議」の役割を強調。「以前は病院と各施設の一対一の関係でしたが、最近は施設同士の横のつながりもでき、日常的に情報交換したり、事例検討をしたり、互いに補い合って患者・利用者をささえられるようになってきた。地域の支援者同士の信頼関係が強化され、支援の力も強まる。そこに住民も入り、貧困や若い世代の問題にも目を向けていけるまちをめざしたい」。

(民医連新聞 第1659号 2018年1月1日)

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