いつでも元気

2017年12月29日

まちのチカラ・山口県周防大島町 
みかん色に染まる 瀬戸内のハワイ

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

子どもにも大人気のみかん狩り。川元みかん園にて

子どもにも大人気のみかん狩り。川元みかん園にて

 山口県の東の端に位置する周防大島は、淡路島と小豆島に次いで瀬戸内海で3番目に大きな島。
 周辺は潮の流れが速く、昔からイワシ漁が盛んです。
 秋には島のあちこちに鮮やかな温州みかんが。
 「一度食べたら他のものは食べられない」と、多くの観光客がみかん狩りに訪れます。
 戦前は遠くハワイまで出稼ぎに出た人も多く、現在の国際交流の土台を築きました。
 多様な文化と歴史が織りなす島の魅力を訪ねました。

生でも鍋でみかん丸ごと

 瀬戸内海に架かる周防大島の玄関口「大島大橋」を渡り、右手に折れてほどなく「みかん狩り」ののぼり旗が見えてきました。
 最初に訪れた「川元みかん園」は、川元文雄さん・香代さん夫婦が経営している観光農園。小高い丘の上を見上げると、どの木も鮮やかなオレンジ色の果実を枝いっぱいにぶら下げて、いかにも重そう。親子3代で観光に来ていたお客さんに話を聞くと、「特に山口県内では、みかんといえば周防大島。ここのみかんは味が濃くて、これぞ本当のみかん! という感じです」。
 川元さんの話では、1960年代には広島から「みかん列車」で最寄りの大畠駅(山口県柳井市)まで来る人も多かったそう。当時はまだ橋がなかったため、大畠駅から先は船で海を渡りました。「今は当時ほどの活況はないですが、こうして毎年来てくれるお客さんがいることが何より嬉しいね」と微笑む川元さん夫婦。視線の先では、孫世代の男の子が口いっぱいにみかんを頬張っていました。
 日が暮れたら、ちょっと不思議な食体験も楽しめます。周防大島の名物料理、小玉みかんを丸ごと鍋に入れて煮込む「みかん鍋」。
 減農薬で衛生的にも安全である証拠として、全てのみかんに「鍋奉行御用達」の焼き印が。瀬戸内海で獲れた鮮魚のほか、柑橘の香りを練り込んだつみれが入っているのも特徴です。薬味としてみかん胡椒をかけ、最後にメレンゲで仕立てたふわふわの雑炊でしめれば完璧!
 観光協会の江良正和さんに食べ方を尋ねると「みかんは雑炊の前に食べていただくことをオススメします。果肉のサッパリ感と、皮の程よい苦味がお口直しにぴったりですよ」。早速味わい、サッパリしつつも柔らかいみかんの果肉が、それまでの満腹感をリセットしてくれるようで食が進みます。これは体験した人にしか分からないかもしれません。

町内12店舗で提供している。写真は「お侍茶屋彦右衛門」のみかん鍋

町内12店舗で提供している。写真は「お侍茶屋彦右衛門」のみかん鍋

出稼ぎ文化とハワイ移民

 島のあちこちに広がるみかん畑は、江戸時代後期までは水田や畑でした。しかし、もともと急峻な地形のため耕作面積が少なく、農閑期には大工や石工、船乗りとして出稼ぎをする人が多かったといいます。特に大工は長州大工と呼ばれ各地で重宝されたほか、棚田の隧道や港湾づくりに長けた石工の技術は関西地方でも高く評価されていました。
 1885年、出稼ぎ文化は遠くハワイにまで及びます。当時、サトウキビ産業が盛んだったハワイ王国が出稼ぎ労働者を求め、明治政府に協定を呼びかけて締結。3年間の契約労働で募集したところ、600人の想定に対して約2万8千人の応募がありました。
 そのうち944人が選ばれましたが、時の外務大臣が山口県出身だったこともあり、3分の1は周防大島の出身者が占めたそうです。
 町役場から車で5分の高台にある「日本ハワイ移民資料館」には、当時の人々の様子やハワイでの生活が詳しく展示されています。          木元眞琴館長に話を伺うと、「移民労働は大変なものでしたが、少しずつ貯金して故郷に送金し、立派な家を建てる人もいました。ハワイでの月収は地元大工に比べ5倍以上高かったようです」。次第にハワイに定住する人も増え、日系社会を築いていきました。
 現在はカウアイ島と姉妹提携を結び、町をあげてハワイと交流しています。資料館にも、毎年数百人の日系ハワイ人が自分たちのルーツを学びに訪れるとのこと。「顔は日本人と同じでも、今は言葉が通じない人が多いので寂しいですけどね」と木元館長。歴史を土台に、まさに新しい絆が築かれています。

山口県一のいりこの島

 島の北側の海岸を車で走ること約30分、日前港からフェリーに乗り、浮島を目指しました。山口県のイワシ水揚げ量の3割以上を占める周防大島町の中で、カタクチイワシ漁が最も盛んな離島です。人口約220人のうち、ほとんどの世帯が漁業に携わっているとか。特にいりこ(煮干し)の出荷量は、山口県産の8割以上。
 島を案内してくれたのは、山口県漁協浮島支店の桑原一吉組合長。「イワシは群れによって大きさが違うんですよ。脂ののり方も群れごとに違う。網を引くまで分からないけれど、いったん揚がったら一目で分かります」と漁師の眼がきらり。
 イワシ漁は港から約20分圏内の沖合で、4隻の船が役割分担しながら行います。1隻がレーダーで群れを探し、2隻が網を引き、残り1隻が獲れたイワシを港に運搬。水揚げされたらすぐにトレイに並べられ、熱湯で一気に茹でて乾燥機へ。丸1日干したイワシが、加工品のいりことして出荷されるのです。
 「浮島には網元が5軒あり、それぞれ約20人が一緒にイワシ漁をしています。野球チームみたいなもんですね。普段は家族のように仲がいいけれど、たまにトレードでもめる時もありますよ(笑い)」と桑原さん。
 漁師の中には10代や20代の若者も多く、親子で船に乗っている姿も珍しくありません。「いっぺん都会で働いて、お嫁さん連れて帰ってくるのが一番いいな」と笑い合う桑原さん達の姿に、島のあたたかさを感じました。

釜茹でしたカタクチイワシは、乾燥機で干されていりこになる

釜茹でしたカタクチイワシは、乾燥機で干されていりこになる

カルシウムたっぷりじんだみそ

 周防大島に戻り、港から車で西へ約30分。大島大橋から最も遠い油宇地区に栄本環さんを訪ねました。この島に伝わる「じんだみそ」を3年前から販売している女性です。
 「もともと売るつもりはなかったんですが、近くの介護施設に持って行ったらすごく喜ばれましてね。食欲がなかった人でもご飯がすすむようになって、売ってくれないかと頼まれたんです」。
 じんだみそとは、麦味噌に魚粉を混ぜて味付けしたおかず味噌。栄本さんの家庭ではいりこを乾煎りして粉砕し、ハチミツや柚子を加えています。「レシピがあるわけじゃないので、母や姑さんの味を思い出しながら工夫しています」と栄本さん。
 家庭によって魚の種類は違うそうですが、カルシウムたっぷりなのはどれも共通。島のお年寄りの元気の源です。
 栄本さんがもう1品「茶がゆ」を作ってくれました。ケツメイシ(エビスグサの種子)を炒って煮出し、米とサツマイモを加えて粥状にします。
 「この島は農地が少なくて、昔は“イモ食い島”と呼ばれていたほど貧しかったんです。でも山も海も近くて天然の食材は豊富だし、人々は働き者だから“長寿の島”でもあるんですよ」とにっこり。素朴な味がいりこの香りを引き立てて、何杯でも食べられそうでした。
 近年は自然体験や民泊体験のために島を訪れる子どもたちも多いとのこと。瀬戸内海に沈む夕焼けを眺めながら、ゆったり流れる島時間の記憶がいつまでも、子どもたちの心に残ってほしいと願いました。

周防大島の展望台から大島大橋を望む

周防大島の展望台から大島大橋を望む

■次回は和歌山県みなべ町です。


まちのデータ
人口
1万7030人
(2017年4月現在)
おすすめの特産品
山口大島みかん、いりこ、タチウオ、
岩牡蠣など
アクセス
岩国錦帯橋空港から車で40分
JR大畠駅からバス
問い合わせ先
周防大島観光協会 0820-72-2134

いつでも元気 2018.1 No.315

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