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2017年12月29日

離島で育つ若手医師

 鹿児島市から南へ480km。
 サトウキビと闘牛で有名な徳之島(人口約2万4000人)から、民医連の若手医師が育っています。
 「地理的離島はあっても、人のいのちに離島があってはならない」―。
 民医連の“無差別・平等”の理念を体感できる徳之島診療所を訪ねました。

文・新井健治(編集部) 写真・野田雅也

島民支え半世紀

 “とくしん”の愛称で親しまれる徳之島診療所。1965年の開設当初から慢性的な医師不足が続き、20年ほど前から、卒後4~5年目の若手医師が2年サイクルの任期で赴任し支えてきました。
 2014~15年に赴任し、現在は国分生協病院(鹿児島県霧島市)に勤める前村良弘医師(33)。15年には診療所の所長も務めました。「病院勤務では得られない貴重な経験ができた。飛び込むには勇気もいるが、人間的に大きく成長できる」と振り返ります。
 徳之島診療所の外来患者数は1日平均80人、在宅患者は130人。19床の入院施設もあり、CT、胃カメラ、大腸カメラなどを備え一通りの検査もできます。
 前村医師は「小児から高齢者まで、さまざまな疾患に遭遇し、必要とあれば島内外の医療機関と連携して対応します。外来から入院、訪問診療、在宅での看取りまで、医療機関の責任者として行政とのやり取りも経験。幅広い業務を2人の医師でこなすので必然的に力がつきます」と言います。
 法人は徳之島から約90km離れた奄美大島に本部がある奄美医療生協。所長は医療生協の理事も兼務するため、共同組織との関わりも自然と深くなります。
 「組合員の理事さんと一緒に飛行機に乗り、奄美大島で行われた法人の会議に出席したことも。同じ理事の立場で診療所の今後を話し合い、経営など新たな視点も身についた。診療所を支えてくれる組合員の存在を大きく意識した2年間でした」と前村医師。
 診療所の永田高雄事務長は「小さな事業所だけに、赴任した医師は組合員への思いが強くなる。また、若手医師が来ると、医療生協の班会も活性化します」と指摘します。

家族ぐるみの付き合い

 「前村先生は、別の病院に入院した患者さんの様子まで見に来た。『あんないい先生はいない』と、近所の人もほめていたよ」と話すのは、奄美医療生協徳南支部の永田トシ子支部長(80)。取材した日は、診療所を開設当初から支える3人の組合員が集まってくれました。
 伊仙支部元支部長の池田登志子さん(82)は元職員。「昔は銀行もお金を貸してくれなくて。赤字続きで診療所を閉めようという話もあった」と振り返ります。以前赴任した医師から今もはがきが届いたり、子どもを連れて訪ねて来てくれたりと、家族ぐるみの付き合いが続いています。
 伊仙支部組合員の徳島ムツ枝さん(83)は、新しい医師が赴任すると自宅に招いて郷土料理でもてなし、夫の博敏さんは三線で島唄を歌います。「子や孫が帰ってきたみたいなもの」と徳島さん。若手医師の歓送迎会には、職員だけでなく60~70人の組合員が集まるのも特徴です。
 診療所の建物は築38年で、建て替えの話も出ています。「ここで天国に行くけれど、新しい診療所ができるまでは死ねない。泉重千代さんに負けじと121歳まで生きるよ」と永田さん。自宅でパパイヤ、ドラゴンフルーツ、島バナナを栽培しており、自家製のジュースをごちそうしてくれました。

徳之島出身の男性。120歳まで生きたと言われ、
  一時はギネスブックで長寿世界一になった

家庭医育成の場

 鹿児島民医連の医師不足が影響し、2016年10月以降、若手医師は県連から派遣されていません。2年前から所長を務める徳田潔医師(52)は「徳之島診療所は患者の生活背景を見る視点が自然と鍛えられる。かかりつけ医(家庭医)として大きく成長できる場です」と言います。
 徳田所長自身、医学生時代に鹿児島民医連の第1回離島フィールドで加計呂麻島を訪れ、本土から遠く離れた場でも、平等に医療を提供する姿勢に共感したことが民医連に入職するきっかけになりました。
 「開業医は1人の医師が継続してかかりつけ医になりますが、当院は組織として患者さんと一生のお付き合いをする。半世紀続いたバトンを受け継ぎ、地域になくてはならない健康の砦としての役割を果たしていきたい」。

変わる島の暮らし

 徳之島にも変化が訪れています。島には3町があり、出生率は伊仙町が2・81%と全国一位。徳之島町、天城町もトップ10に入る“子宝の島”ですが、高齢化も進んでいます。
 島の基幹産業は農業しかありません。子どもは大勢いても、高校を卒業すると島外に出て行きそのまま帰って来ないため、高齢者のみの世帯が増えています。「社会福祉協議会など他団体と地域の見守り機能を発揮していくことが大切」と法人組織担当職員の山田末美さん。
 まだまだ人と人のつながりが強い徳之島。奄美地方独特の“結”の精神こそ残っていますが、今後は高齢者の孤立化も懸念されます。「行政とも連携し、島内で地域包括ケアを実現するネットワークをつくることが必要です」と徳田所長。
 また、島には公立病院がありません。民医連と医師会などが協力し、民間主導で高齢化に対応した島全体の医療体制を構築することも今後の課題です。そのための医療機関同士の話し合いも始まっています。
 徳田所長は「医療生協の特徴を生かし、医療機関と住民が一緒に健康づくりに取り組んでいきたい」と話しました。

いつでも元気 2018.1 No.315

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