MIN-IRENトピックス

2017年12月29日

守りたい9条 
“誰か”でなく“私たち”が声をあげる

川崎哲(かわさき・あきら)
ICAN国際運営委員。ピースボート共同代表。昨年12月10日、
ノルウェー・オスロで開かれたノーベル平和賞授賞式に出席。

 昨年10月、国際NGO「ICAN」(核兵器廃絶国際キャンペーン)がノーベル平和賞を受賞しました。
 世界が核廃絶へと大きく動き出すなか、日本政府は122カ国が賛成した「核兵器禁止条約」に背を向け、あろうことか9条改憲に乗り出そうとしています。
 戦争か平和か―。大きな岐路に立つ2018年の年頭に、ICAN国際運営委員の川崎哲さんに、初期研修医の光武鮎さん、医学生の春日みわさんが聞きました。

春日 ICANがノーベル平和賞を受賞したことで「世界の流れが変わってきた」という感覚があります。昨年11月に行われた反核医師のつどいでも、例年以上に次の時代に向けてどう動くかが具体的に話し合われ、運動に勢いがついた感じがするね、と2人で話していました。
川崎 お2人とも雰囲気が変わったと感じているとは…、とても嬉しいことです。私も日本にいるときに、これまでテレビでなんてほとんど取り上げられることのなかったICANが報じられているのを見て、「時代は大きく変わったな」と感じ入るものがあります。
光武 受賞をきっかけに、核兵器に対する市民の意識が大きく変わったのではないでしょうか。これまではなんとなく「核廃絶は核保有国だけが考えればいいこと」という風潮があった。日本では2011年に原発事故が起こり、未だに収束していない。そのような現実のなかで、核の問題や、もっと広く地球環境についても「考えて行動するのは政府だけじゃなく、私たち一人ひとりだ」と、多くの人が気付き始めたのではないかと思います。
川崎 核廃絶を訴えてノーベル平和賞を受賞したのは、前回はアメリカのオバマ大統領で、個人の受賞でした。今回はICANという101カ国468団体で構成する市民団体です。日本からは私が所属する「ピースボート」や「反核医師の会」など5団体がICANの正式な参加団体です。ですから、反核医師の会で活動しているお2人も、受賞者の1人ということになるんですよ。
光武 そうなんですね! ノーベル委員会はそれぞれの国の「核兵器をなくしていこう」という運動を、きちんと評価してくれたのですね。
川崎 そうです。「私もノーベル平和賞を受賞した1人なんだよ」ということをきっかけに、どんどん核兵器廃絶のことを話題にして、周りの人と話してくださいね。

反核医師の会…正式名称は「核戦争に反対する医師の会」。核戦争に反対し核兵器廃絶の実現を目指して、医師・医学者・医学生らが集い、さまざまな活動にとりくんでいる。

北朝鮮に対して核兵器禁止条約を

川崎 社会の変化も感じますが、まだまだ大変なこともあります。国連の核兵器禁止条約には122カ国が賛成しましたが、署名したのは53カ国、批准(承認)したのは、まだ3カ国です(2017年12月7日現在)。核保有国からは「署名するな」という強い圧力がかけられており、それに負けずに増やしていく必要があります。 
光武 核兵器禁止条約では「核兵器を使った威嚇」を禁止することで核抑止力を否定しています。日本政府はこの条約に署名していませんし、条約の交渉にも不参加でしたね。このような姿勢に対し、「核抑止力を軸とした安全保障では核廃絶は進まない」という指摘もありますが、日本政府の対応をどう考えますか。
川崎 日本政府はよく「自衛権」と言います。これまで自衛権を拡大することばかりやってきたわけですよ。でもこの「自衛」って、一体どこまでが「自衛」なのか。その際限が見えなくて、どの国も怖がっている。
 核兵器禁止条約の趣旨は「自衛の権利はある。けれども自衛のためでも、核兵器はダメ」ということです。自衛のためでも超えてはいけない一線があって、それが核兵器だということ。これは、北朝鮮に対しての重要なメッセージでもあるわけです。
光武 なるほど、そうですね。私は、日本政府は自衛の持ち札がとても少ないんだなと感じます。たとえば、私が夜道を1人で歩いているときに身の危険を感じたとします。私だったら、そういう場に遭遇したときのことを考えて、1人で歩かないとか何かあったら大声を出すとか、いろんな防御方法を考えて、「相手に危害を加える」という手段は最後の方法だと考えますね。
 きっと今の日本政府は、その場で銃で撃つ、つまり「銃には銃で」という手段しか考えていないと思うんです。とても発想が貧困だと感じます。
川崎 本当にそうなんですよ。北朝鮮に対してこれだけ「問題だ」と言っておきながら、じゃあどうやって問題を解決するのか、というプランがあるわけじゃない。ただ単に圧力をかけるとか、「戦争も辞さないぞ」「力には力で対抗するんだ」と。言葉だけは勇ましいけれど荒唐無稽ですよ。
 北朝鮮の核問題が深刻ならば、核兵器禁止条約を持って出向き「この条約に日本も入るから、あなたの国も入りなさい」といって話し合えばいい。もし北朝鮮が「ここに不備がある」と言えば、不備を直す協議をすればいい。そういう交渉をするなかで、「夜道で身の危険を感じることがない」世界を作っていけばいいんですよ。
春日 日本政府としてそういう外交に力を発揮してほしいです。平和憲法を生かすとか、もっと対話力をつけるとか、他国の文化や歴史を尊重するとか。そういう方向にエネルギーを使えばいいのに。
川崎 日本政府は「アメリカの核の傘にいることが日本の平和の担保だ」という考えに凝り固まっています。しかし今回の条約ができたことで、核の傘に頼る時代はもう終わりました。これからは人間の尊厳を保護する国際人道法という考え方が主流になっていきます。国際人道法のような規範が平和で安定的な世界秩序の土台になります。
 日本国憲法の平和主義も、「武力に依らずに平和をつくる」という規範であり、世界秩序の土台になるものです。もっと国際的に認知度を高めればいい。残念なことに政府はあまり宣伝しない。だったら日本の市民運動や平和運動がどんどんこのことを世界に広げていってほしいと思います。「平和の源は何だろう」という、大きな価値観を転換する時が来たと思います。

■核兵器禁止条約

史上初めて「核兵器」を違法とした条約。2017年7月7日、国連に加盟する193カ国のうち122カ国が賛成して成立。50カ国以上の批准(国会で決議すること)で発効する。2017年12月7日現在、批准している3カ国はタイ、南米のガイアナ、バチカン。

核廃絶と憲法9条は“車の両輪”

春日 何度か広島と長崎に行き、被爆体験をお聞きしたり、フィールドワークを体験しました。被爆者の方々は「二度と被爆者を生み出してはいけない」だけでなく「二度とあの戦争は繰り返してはいけない」と話される。核廃絶のさらに先に行かないと、被爆者の方の願いは達成されないと感じています。
川崎 私も被爆者の方々と一緒に運動をすすめてきて、改めて思うのは、あの本当に辛い戦争から引き継いできた大きな教訓が、核兵器廃絶と憲法9条だということです。核兵器が使われるようなことが二度とあってはならないということ。それを担保するために憲法9条がつくられた。さまざまな議論はありますが、基本的に多くの国民が支持してきたから、いま9条がある。
 憲法9条は、まだ道半ばです。立派な憲法はあるけれども、本当に戦後、日本が歩んできた道は平和的だったか。基地を提供することでアメリカの戦争に協力してきたのではないか。しかも今、安倍政権はこの9条を変えてしまおうと言い、不戦の誓いがぐらついている。あの戦争から学び取った大きな教訓を、後ろに引き戻そうとしているのです。
 憲法9条を守るだけじゃなく、完全に履行して本当に二度と戦争を繰り返さない状態を作り出すことと、核兵器禁止条約を批准して核兵器廃絶の道を進むということは、“車の両輪”だと思います。

身近なことからはじめよう

光武 改憲しないで憲法9条を守ることも、核兵器廃絶の世界をつくることも、誰かが何かしてくれるのではなく、私たちが主体者になって世論をつくっていくことがとても大事ですね。
 先日、ある新聞社の記者に聞いたのですが、政府見解と異なるような記事は、社内でたたかいながら書いていると。だから、そういう記事を読んだら、「良かったよ」「もっと書いて」などの応援メッセージを送ってほしいと言われました。
川崎 大事なことですね。SNSの世界ではさらに地の世論が出せるので、フェイスブックなどでどんどん9条や核廃絶に関する記事を拡散するというのも、きっと効果がありますよ。
春日 広島や長崎に行ったり被爆体験を聞くことで得られるものは本当に大きい。でもお金や時間の制約があって気軽に誰もが行ける訳じゃないので悩んでいました。そのときに地元に目を向けたら、地元にも戦争を体験された方がいらっしゃったり戦争遺跡があったりと、平和を考えるフィールドがあることに気付きました。地元で身近な方々とつながって、活動を広げていくこともできるんだと思います。
川崎 そうそう。1人ひとりが地元で声を上げることが大事ですよ。国民が有権者の1人として、地元議員や候補者に「憲法9条や核兵器に対してどう考えているのか」を聞くことも、世論を高める効果があるでしょう。
 多くの議員は核廃絶の問題を深く考えていません。聞かれると考えるし、分からなければ同僚の議員に聞いたり、党本部に問い合わせたりするなかで議論が活性化していく。それが国会で議論が活性化することにつながって、政府が「国民の関心が高いから議論しなければ」と動き出すきっかけになると思うんですよね。
 国会議員だけでなく、市議会や県議会、首長にも声を届けて、市民が世論を動かす活動を広げていきましょう。
春日 ヒバクシャ国際署名や3000万署名など、署名をきっかけに対話を広げられることもあると思うので、署名も大切に使っていきたいです。核廃絶という大きな問題でも、できることは身近にいろいろありそうですね。
川崎 一緒に頑張りましょう。
光武・春日 はい! 今日はありがとうございました。

いつでも元気 2018.1 No.315

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