民医連新聞

2018年1月23日

社会と健康 その関係に目をこらす どう動くか(17) 患者の“SVS(ソーシャル・バイタル・サイン)”をキャッチせよ ―北海道・勤医協苫小牧病院

 北海道・勤医協苫小牧病院(八〇床)では、高齢の外来患者を対象に“ソーシャルバイタルサイン(SVS)”調査を行っています。「ソーシャルバイタルサイン」とは、体温・呼吸・脈拍・血圧などを指す「バイタルサイン」に対し、生活背景、家族関係、緊急時の連絡先、地域とのつながりなど、患者をとりまく社会的な側面のこと。専門書にも載っていないこの言葉は、法人の堀毛清史理事長の造語です。とりくみは、地域で安心して住み続けられる支援の体制づくりの一つで、他県からも注目が集まっています。患者を捉えるスタッフの視点も変化、外来から病院全体に良い影響が広がっています。(土屋結記者)

 同院では、二〇一三年八月から、外来で管理している六五歳以上の患者を中心にSVSの調査を始めました。家族歴、緊急時の自宅以外の連絡先、医療・介護保険、住宅、経済状況を聞き取り、四年間で七五〇件超の情報が集まりました。

■孤独死をきっかけに

 とりくみのきっかけは、患者の孤独死でした。八〇代の女性で、物忘れがすすんでいることに看護師は気づいていたのですが、家族に伝えたり、介護保険の利用を検討するなどの手立てはとっていませんでした。予約外来に来なかったため、入院歴をたどり家族に連絡したところ、転倒して自宅療養中と判明。認知症の可能性があると家族に伝え、介護保険も申請することに。ところが、地域包括支援センターが自宅を訪問すると、亡くなった姿で発見されました。
 この事例を機に、他の患者のカルテを見てみると、本人宅以外の連絡先や、家族背景が分からない人が多いと分かりました。外来看護師が患者の変化に気づいた時、連絡調整がスムーズにできるよう、こうした情報を把握しておく必要性が浮上しました。

■暮らし知るのは看護に必須

 当初「連絡先調査」として始めたSVSの聞きとりは、順調にすすんだわけではありません。家族の連絡先を聞いてもその場で答えられない患者も多く、後日、問い合わせても、「病院が電話で子どもの連絡先を聞くわけがない。詐欺だろ!」と怒鳴られることも。なぜこの調査が大切か、スタッフの理解を深めるため、健康の社会的決定要因(SDH)や健康権の学習、無料低額診療制度につながった事例の共有なども並行して行いました。
 「外来では、患者さんの生活の場が療養環境です。療養環境を整えることは看護師の仕事ですから、暮らしを知ることは必須」と、外来師長の幌沙小里さん。調査と学習で、「患者の療養をささえるためには細かな変化に気づくことも重要」とスタッフが捉えるように。患者と対面する際、それまでは服薬や病態に意識が向きがちでしたが、積極的にSVSを聞き取るようになりました。

■つかんだ情報を行動に

 調査で聞き取った情報から、受診患者の全体像も見えてきました。高齢者のみの世帯は約六割、病院周辺に住む患者が多いものの東西に広い苫小牧市全域に患者がいることなど、数値で捉えられるようになりました。
 データはどの部署でも活用できるよう病院全体で共有しています。医療福祉課では「独居の高齢女性で特に貧困率が高い」とのデータを見たSWが、該当する患者をピックアップし、数人を無料低額診療の利用につなげました。
 また「地域担当看護師」を新設し、患者の生活面の相談に応じる体制づくりも進行中。担当看護師の役割は、担当地域の患者さんからの相談を受けることと、患者宅を訪問し関係をつくること。訪問対象は、(1)介護保険を利用していない高齢者のみの世帯で支援者が市外にいる、(2)支援者は市内にいるが単身の患者、です。
 「訪問すると、本人は大丈夫でもパートナーが問題を抱えている患者さんも。外来だけでは見えづらいことにアンテナが向くようになってきました」と幌さんは話しました。

 二〇一六年度から、SVS調査で必要と判断した事例は「SVSカンファレンス」を行うように。さらに、一七年度からは「SVSアクションシート」()を導入しました。
 カンファレンスで取りあげるのは、服薬指導の効果が薄い、指導しても病態が改善しないなどの患者です。「『なぜできないか、改善しないのか?』を意識して、自宅訪問したり、生活を聞き取ると、患者さんも必死で暮らしていることが分かります。看護師は早い解決策を求めがちですが、生活を支援しつつ病気も改善するよう、腰を据えた対応を考えられるようになりました」と幌さん。

■病院全体への広がり

 外来が独自に始めたSVS調査でしたが、病院全体に広がり始めています。入院時は外来よりも詳しく患者情報を聞き取るため、退院後も連携が必要な患者のSVSを病棟で聞き取ってくれたり、外来では埋められなかった情報を埋めるようになりました。
 受付や会計を担当する事務も地域訪問に同行しています。予約を担当する事務も「『お金が無い』と検査を渋っている」「いつも清潔だった服装が変わった」など報告するようになり、そこから無低診の利用につなげることができた患者もいました。いつもきちんと会計していた患者が払えなくなった、受診日を忘れるようになった、など変化を気にするようにもなってきました。
 「窓口にいるだけでは分からないことがたくさんあった、と訪問した職員から報告が。少しずつでも地域に出かけて、患者さんを見る目を養っていきたい」と、医事課の佐々木太一係長は話しました。

(民医連新聞 第1660号 2018年1月22日)

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