いつでも元気

2005年3月1日

特集1 いま問題の「混合診療」って? 「国民皆保険制度」の土台を壊す大改悪

 「混合診療の解禁」が大きな問題になっています。何が問題なのか、相野谷安孝中央社保協(中央社会保障推進協議会)事務局次長に聞きました。

――「混合診療」ってどういうものですか?

 同じ病気の治療のなかで、健保や国保などの公的な健康保険がきく治療と、きかない治療を混ぜてできるとい うことです。現在は、混合診療は禁止されています。たとえば、日本の保険が認めていない抗がん剤を使う場合、診察や入院料は保険でみて、薬代だけは自費に する、なんていうことはできません。

「患者にメリット」はウソ

――外国では効果が認められている抗がん剤を使いたいのに日本の保険で認めていないから使えない、という話を聞きます。混合診療なら、薬代だけ自費にすれば、あとは保険で治療が受けられる。患者さんにとっていいことなのでは?

はじまっている混合診療「部分解禁」

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2002年10月から実施。入院が180日を超えると、保険から病院に支払われる入院基本料が15%カットされ、差額を患者から徴収していいことになっている

 混合診療をすすめる人たちもしきりとそういう宣伝をしています。しかし、ここにはいくつもごまかしがあります。
 保険がきくということは、国がその治療方法や薬の効果について「安全で有効です」と保証して、全国どこでも同じ値段で治療が受けられるということです。
 何でも自由に使えるとなったら、本当に安全で効果があるかどうか、国は責任をもたないということになる。必要な医療は保険で保障するという大原則も崩れてしまう。これが大問題なのです。
 欧米で当たり前の治療技術や薬なら、「混合診療」ではなくて、早く検証して保険の適用にするべきですよね。

――でもほんとうに、保険で認めるのが遅いと聞きます。

 そうですね。国内の製薬企業の利益を守るために、欧米で使われている薬をなかなか承認しない。また、保険 の医療費が膨らむのを恐れて、新しい医療技術をなかなか保険に取り入れない。行政の問題は大きいし、メーカー側も、保険適用にならないほうが値段を高くつ けられるから申請しないということもあります。
 だから、がんの患者団体の人も「最良の治療を、保険診療でまかなってもらうことが私たちの望みだ」と語っています。
 白内障の眼内レンズの保険適用や、「保険でよい入れ歯を」運動を覚えている方も多いと思います。これらは、保険適用を認めない政府に対して、国民の運動 で適用を認めさせた例です。混合診療が認められていたら、いまでも保険が使えなかったかもしれません。
――なるほど。混合診療の解禁は、保険が使える範囲を広げないということなんですね。

「必要な医療を丸ごと」が憲法25条のこころ

「必要な治療を保険で」が原則

こんなことが起きるかも…

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 そう。逆に狭めようというのです。
 日本の医療保険制度の大原則は、病気やけがに対して、必要な治療をまるごと提供するということです。根底にあるのは生存権を保障した憲法二五条です。国 と保険者が、国民に必要十分な医療を提供する責任を負う。この具体化が「国民皆保険制度」なのです。
 国民すべてが加入して、収入に応じて保険料を納め、病気をしたときは少しの負担で治療を受けられる。世界的にみても、日本は低い医療費で長寿社会を実現 していますが、その原動力となったのが、国民皆保険制度です。
 残念ながら現状は、窓口での負担が増やされたり、保険料滞納などを理由に国保証を取り上げられたりして、医療保険制度の大原則「国民皆保険制度」の理想 から離れていっています。これをさらに崩してしまおうというのが「混合診療の全面解禁」なのです。
 だから、小泉首相が昨年九月、「年内全面解禁」という方針を示したとき、医療団体はこぞって反対し、国会で「皆保険制度は守る」という決議をあげさせた んですよ。全面解禁もストップということになりました。

――では一安心ですか。

 いや、そのかわり、「混合診療の禁止」の「例外」をどんどん膨らますといっている。これが大問題なんです。

「差額」拡大し自費を増やす

――「例外」って何ですか?

 「特定療養費」といって、いわゆる公的に認めた「差額」ですね。混合診療の部分解禁といってもいい。
 いま「特定療養費」として認められているものの一つは、「高度先進医療」といわれるものです。
 たとえば心臓や肝臓の移植は、特殊な先進医療として保険がききません。でも大学病院など、指定されている一部の病院では、保険のきくところまでは保険で 行ない、あとは患者負担か大学の研究費でまかなっています。まさに「混合診療」ですが、例外として認められています。
 高度先進医療は、いまのところ、その技術が一般的になれば保険が適用されることになっています。たとえば生体肝移植も保険適用の方向といわれています。
 「特定療養費」には、もう一つ、患者の選択で、自費との併用を認めるというものがあります。歯科の「差額」がそうですね。保険のきく材料ときかない材料 があって、きかない材料でも保険診療のなかで使っていいことになっています。

――差額ベットも特定療養費ですか。

 ええ。患者が自分で選べるからということで、個室や二床部屋などでは保険以外の自費をとってもいいことに なっています。二〇年前までは、差額ベッドは原則禁止で制限がありましたが、最近では四床部屋でもとるところが多い。東京の大病院などでは、個室は一日一 〇万円近くというのが増えています。
 さらに〇二年一〇月から、入院が一八〇日を超えると、保険から病院に支払われる入院基本料が一五%カットされた。はずされた分を特定療養費(差額)とし て徴収していいということになっています。これは大問題です。患者が自分で選択できない医療内容まで、自費負担がすでに入り込んでいるんです。
 これが「混合診療」全面解禁になると、すべての医療のサービスを、保険のきく部分(一階)ときかない部分(二階)とに分け、両方一緒に使っていいことに なる。保険のきく一階部分は狭められ、一階からはみ出る治療がどんどん増えて二階化していく可能性がある。そうなると、負担が重くなるだけではすみませ ん。
 「保険診療(一階)はここまで」という限定が強まると、自費で払えないのなら、医者はそれ以上はやれないということにもなりかねません。極端な話をすれ ば、「お値段しだいで、松竹梅の三段階の手術方法がありますが、どれを選択しますか」などという話がおきかねない。アメリカではすでにそうなっています。

民間保険や株式会社病院が

――文字通り、お金しだいの医療になってしまうわけですね。

 新しい技術、たとえば「カプセルを飲み込むだけの内視鏡」なんていうのも開発されていますが、こうした治療技術や新しい機器が保険に適用されるかどうか。二階のままという可能性もあります。
 「いくら金がかかるのか」わからない保険外の治療がどんどん増えると、株式会社が優秀な医者と高い機械を集めて病院を開き、アメリカで開発された先進医 療で、「お金はかかるけれど、治りますよ」と宣伝するということもおきるでしょう。金持ちはそこに行って治せるけど、お金がないとあきらめるしかない。

――そうなると民間保険ですか?

 民間の生命保険や損害保険会社が販売する「○○入院保険」とか「がん保険」に加入していないと、二階部分の医療は受けられないことになってきますね。
 だから「混合診療の解禁」や「株式会社の参入」を一番主張しているのが、財界、なかでも生保・損保会社関係なんです。解禁を推進している政府の規制改 革・民間開放推進会議室職員二七人のうち一四人が、オリックス、セコム、第一生命、三井住友海上など、混合診療解禁で、保険商品を売り出そうとしている企 業からの出向であることでも明らかです。

法改正を避けて「差額」拡大

 先進医療だけではない。当たり前の医療も、保険からはずすことが狙われています。たとえばコンビニエンス ストアーなどで売れるようになった薬は保険からはずすという。コンビニで買ったら薬代を全額払わなければならないのに、病院にかかったら保険が使えるとい うのは、おかしな話だと。風邪の診断は病院でやるが薬は自費ということになります。
 「生活習慣病」も、たばこを吸い続けていた人の肺がんなどは、自分の責任でかかった病気だから、と保険が使えないなんて話になるかもしれない。

――大変ですね。

 これを「混合診療の全面解禁」でやるとなったら、医師法などの「改正」が必要になります。そうなったら、いま猛反発している医師会をはじめ、大きな反対運動がおこる。いま国会に提出されている介護保険法「改正」も成立が危ない。
 そこで厚労省は、法律を変えずにやれる「特定療養費」を拡大・再編するということで一応の決着をつけたのです。
 「混合診療」の全面解禁も消えたわけではないし、株式会社に医療経営をさせろという主張も強まっている。こうした営利化の方向が患者にとって大変なこと になることを訴えて、反対の運動を広げないといけませんね。

いつでも元気 2005.3 No.161

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