いつでも元気

2005年4月1日

特集2 歯周病って怖~い病気! 狭心症や動脈硬化までひきおこす

毎日ブラッシングし定期的な点検を

genki162_03_01

 日本人の歯は、生えてからの平均寿命が約50年(1999年歯科疾患実態調査)です。人生50年…と、織 田信長が十八番の謡曲「敦盛」を歌っていた時代ならいざしらず、平均寿命が80歳をこえている現在、60歳過ぎにはもう多くの歯がなくなってしまうなんて 寂しすぎませんか。まだ20年近くもある人生、入れ歯のお世話になって、味気ない食生活を送るなんて!

 歯を失う原因のほとんどがむし歯と歯周病ですが、35歳を境に歯周病で失う率が急速に増えてきます。

 歯周病は、大切な歯を失うだけではない。放っておくと命が危ない、怖い病気だということが、最近、明らかになりつつあります。動脈硬化や、糖尿病の悪化、早産・低体重児出産、誤嚥性肺炎、がん、とくに食道がんなどを引きおこす原因になることがわかってきたのです。

 なぜこうした病気の原因になるのかというと、歯周病が、口の中にいる数十種類もの歯周病細菌群による「感染症」だからです。これらの細菌が、血行を介して全身をまわったり直接臓器についたりして繁殖し、「悪さ」をするわけです。

 この歯周病から歯や命を守る方法はあるのでしょうか? あります。

 スウェーデンで30年前からとりくんでいる研究や実践の成果をはじめ、世界各国で行なわれている「メインテナンス」つまり「歯周の継続的管理システム」が大きなカギになります。厚労省もこの重要性を認め、3年前から、メインテナンスに健康保険が使えるようになりました。

 今回は、この歯周病が進行する経過と、全身に「悪さ」をするメカニズムの最新情報、そして歯周病治療と予防法、メインテナンスについて解説します。

原因と進行
500種類をこえる細菌が

 99年歯科疾患実態調査によると、歯ぐきに異常がある人は全体で73%。15~24歳でも60%、45~54歳では88%という高さです。

 歯ぐきのはれ・出血・膿などの現象は、歯ぐきの組織に進入した歯周病細菌群と、私たちの体を守っている白血球などがたたかっている状態なのです。

 歯を支えている歯槽骨は、そのたたかいに巻き込まれたくないので、自分の骨を溶かしスタコラサッサと逃げ出します。

 2~3日歯を磨かないでいると、口の中にいる細菌が歯面や歯の根本に付着し、小さなコロニー(集団)をつくります。これが歯周病細菌群つまり「バイオフィルム(歯垢)」です。

 バイオフィルムはヌルヌルした物質=多糖体をつくり、周囲の無機質や有機質をとり込みながらキノコ状に急 成長し、まるで生き物のように振るまいます。この中には500種類をこえるさまざまな細菌がいて、うまくコミュニケーションをとりながら増殖をし、歯肉に 対して持続的に感染を続けます。

 多糖体に覆われたバイオフィルムは歯面に頑固にへばりつき、同時に、体の防御機構や抗菌薬、抗生物質にも強い抵抗を示します。

 初期には歯ブラシで簡単に落とせますが、2~3日たつと唾液成分の中のカルシウムと反応し、比較的柔らかいのにブラッシングでは決して落とせなくなります。これが歯石です。白黄色で、歯と歯肉の境を中心に形成されていきます。

 一方、歯と歯肉が接する溝=歯周ポケットの中のバイオフィルムは、血液中のカルシウムを中心とする無機質と反応して、黒褐色の非常に硬い歯石を形成します。

歯周病細菌群
全身に悪さ、命の危険も

 口腔内とくに歯周ポケットの中のバイオフィルムからは繁殖した歯周病細菌が出て、歯周組織から血行内に侵入します。一部は気道や食道の粘膜を通して体内に入り、次のような病気をひきおこすことが知られています。

 (1)心臓弁膜に付着してバイオフィルムを形成し、細菌性心膜炎をおこす。また、はがれたバイオフィルムは心冠状動脈に詰まって狭窄をおこし、狭心症の原因ともなる。

 (2)血管内壁にはりつき血管上皮細胞間に入り込んで、動脈硬化をすすめる。このことは疾患場所から、患者さんの口腔内の歯周病菌と同じ細菌がしばしば検出されたため、わかってきた。

 (3)糖尿病の患者さんで歯周病がひどいと、血糖値コントロールが4~5倍困難になる。

 (4)妊婦が歯周病の場合、早産・低体重児出産の危険性が7・5倍以上になるという報告がある。原因は、歯周病で炎症をおこしたとき生産されるプロスタグラジンという物質によるものと考えられている。

 妊娠中は「つわり」などのために歯磨きがおろそかになってしまい、ホルモンバランスの乱れとあいまって歯周病が進行しやすくなるので要注意。

 (5)高齢者に多い誤嚥性肺炎の危険性も高くなる。口腔の汚れがひどくて歯周病菌が増えてくると、寝たきりなど抵抗力の弱まった高齢者は、細菌が気管支に入り込み、肺炎をおこしやすくなる。

 (6)がんを誘発するかも? 食道がんの患者さんの細胞の中には、健康な人の2倍もの歯周病菌が検出される。がん発生に歯周病菌が深い関わりを持っているとも考えられる。

 (7)歯周病が悪化すると肥満になりやすい。肥満が歯周ポケットを深くするのかもしれないが、どちらにしても相関関係がある。

 「歯を1~2本失っても命に別状ない」どころか、歯周病を放っておくと、このように命に関わってくるのです。

genki162_03_02

治すには…
歯石を確実に取り除く

 まずは【表1】を見て、自分でチェックしてみてください。

 歯周病治療の基本は、原因であるバイオフィルムの砦となっている歯石をきれいに取り除くことです。直接、目で確認できる歯石は、歯科を受診すれば手動や超音波のスケーラーで簡単に除去できます。

 しかし歯ぐきの中、とくに深さ3~4硺をこえる歯肉溝の中にできた硬い歯石は、目で確認もできず、完全に とることはとてもむずかしくなります。ときには歯ぐきを切って歯肉溝の奥深くに付着する歯石を確実に除去したり、破壊されてでこぼこになっている歯槽骨の 整形をしたり、歯ぐきの位置を変える「歯周外科手術」が必要になったりします。

 歯周外科手術には、歯周ポケットを掻き出す、歯肉を切除するなどがあり、その後に歯を固定することが必要なこともあります。

 これらの治療が終わった時点で、歯周組織の健康がほぼ完全に回復した場合は「治癒」、一部に深い歯周ポケットがあるが、病変の進行は停止しており、大部分は健康になった状態を「病状安定」と判定します。

 しかし歯周外科処置によって歯周病を改善しても、その後の日々のブラッシングがしっかりできなければ、すぐに再発してしまいます。歯周病は、原因である細菌が口腔内に常に存在するため、きわめて再発しやすい疾患なのです。

 歯周病細菌にたいするワクチンの開発や、唾液中の自然免疫を高める研究がすすんでいますが、実用にはまだまだ時間がかかります。菌が歯面につくことを抑える戦略がもっとも合理的です。

 つまり患者さん自身が毎日きちんとブラッシングすることに加え、専門家による定期的な管理を受けることです。長期にわたるメインテナンスが大切なのです。

メインテナンス
プロの定期的な点検・管理

 歯周病治療におけるメインテナンスとは、「治癒」あるいは「病状安定」と判断されたあと、再発防止や病状 の安定を維持するために定期的にプロの点検・管理を受けることです。内容は、歯周検査、歯垢検査などの結果を見て、再度のブラッシング指導、歯石除去、歯 根面の研磨、歯周外科手術、さらにはブリッジなどの調整が必要となる場合もあります。

genki162_03_03

 受診間隔は症状や患者さんの口腔清掃状態で異なりますが、最初は1カ月ごとに行ない、自分で管理が上手にできてくれば2~3カ月間隔にのばします。最終的には6カ月~1年おきくらいになるのが理想です。

 右の写真は、20年前、抜けた歯やぐらぐらした歯があったため、全部の歯を連結して固定した患者さんです。1年に1回、定期管理を欠かさず、68歳のいまも、健康な歯肉としっかり噛む力を維持されています。

 メインテナンスの重要性を実証したのは、スウェーデンのカールスタッド市におけるアクセルソンらの 1970年代から15年かけたとりくみです。最初の2年間は年間16回のメインテナンス(歯科衛生士による機械を使った歯の清掃)、その後は1年間に 5~6回のメインテナンスを継続した結果、歯周病で歯を失う本数は1人平均1本以下になったのです。

 日本人は、40歳から平均2年に1本の割合で歯を失い、80歳では平均8本しか残っていません。「8020=80歳で20本の歯がある」は、ほど遠い目標です【表2】。

genki162_03_04

 メインテナンスの受診率を診てみると、スウェーデン約90%、アメリカ約65%、日本約2%。ただし日本人の35%は、1年以内に歯科治療を受けています。

 このことから推察すると、日本人は歯科予防=メインテナンスにはあまりいかず、歯が痛いとか歯肉がはれた というときに歯科受診していると思われます。その結果「蕫歯﨟人生50年」となってしまっているのです。いかにメインテナンスが、歯を守る上で大切か、わ かっていただけると思います。

 東京勤労者医療会歯科グループも、保険でメインテナンス診療が認められるようになった3年前から、本格的に導入し始めました。中には1~2カ月間隔で、3年間も継続している受診者もいます。

 当グループで1年以上継続しているメインテナンス患者さんに「なぜメインテナンスを長期に続けているのですか」と質問したところ、最も多かった回答は「プロに定期的に診てもらえて安心できるから」でした。

 新松戸診療所歯科、川島診療所歯科では来院患者さんの30%以上、代々木歯科で25%、東葛病院歯科、野田歯科では15%以上がメインテナンス受診者です。

 治療した歯や歯周においても、かぶせた金属がはずれたり詰めたところがとれたり、痛みがないため患者さんが気がつかないトラブルは多いものです。

 歯周病の予防と治療は、あなた自身によるブラッシングと歯科プロとの共同作業です。歯科メインテナンスは「8020」の近道切符です。

イラスト・井上ひいろ

いつでも元気 2005.4 No.162

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ