いつでも元気

2005年4月1日

「ヘルパーさんの手助けで食事づくりが楽しみに」 「食」の援助が自立への意欲を生む

札幌・ヘルパーステーションかりぷ

「安易な家事代行」と厚労省は一律に決めつけるが

 「軽度要介護者への調理などの安易な家事代行行為は自立を妨げる」。介護保険見直しで厚生労働省が昨年はじめに出した調査結果は、介護の現場で働くヘルパーたちにショックを与えました。

 「私たちは『安易な家事代行』をしているのか、本当に利用者の自立を妨げているのか」。事実を知りたい と、札幌市のヘルパーステーションかりぷの約五〇人のヘルパーたちは、昨年、一〇二件の在宅利用者を対象に、食生活に関わる援助について実態調査をしまし た。その結果からは、「ヘルパーがいるからこそ高齢者が自立できる。自立への意欲が生まれる」という、厚労省の言い分とはまったく逆の真実が明らかになり ました。

元気の“気”で生きたいから

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「ご飯は1食分ずつ冷凍しちゃうの」と佐々木さん。右はヘルパーの菅野さん

 調査した一〇二件の利用者のうち、軽度要介護者では約六割が八〇歳以上。独居と老々世帯をあわせると八割を超えました。一週間の利用回数は二回以下が七六%、総時間も一時間以下が約五割です。

 ヘルパーステーションかりぷの笹原裕美所長は、こう語ります。

 「八〇歳以上の方でも、米とぎ・炊飯など『一人でもできる行為』は、ほぼ実際にやっているんです。『一人 でできるが、していない行為』は火や包丁を使うこと。『一人ではできない行為』でとくに多かったのは、買い物時の荷物持ち。それに賞味期限の管理や、揚げ 物・和え物の調理などでした。こうしたことを、ヘルパーがわずかの時間入って援助することで、生活を支えているんです」

 独り暮らしの佐々木和子さん(80)は椎間板ヘルニアの手術後、ヘルパーを頼んでいます。腰痛で五分と立っていられません。つるつるに凍った道を買い物に行くなんてとても無理。でも、できることは自分でやっています。

 ヘルパーの菅野美都子さんは「きたときに何を食べたいかお聞きするんですが、材料の解凍など、準備してあることが多いんです。必要なところまで調理すれば後はまた自分でなさるんですよ」。

 「ヘルパーさんに手伝ってもらえるから食事が楽しみでね」と佐々木さん。

 「寝たきりになったら、病気の“気”になっちゃう。元気の“気”で生きるには、できることは自分でやらないと」

 部屋には、ひ孫の写真が一〇枚以上はってあります。佐々木さんは毎朝ひ孫たちに大声で「おはよう」と声をかけ、元気の“気”で暮らす努力をしています。

 「本当にあたしはヘルパーさんで助かってる。ヘルパーさんがこなけりゃ、入院するしかないですよ」

「食」を通じて張り合いが

 太田トシさん(84)は宮崎県から娘の嫁ぎ先の札幌に転居し、夫を亡くして五年ほど一人暮らしをしています。狭心症があり、ニトログリセリンが放せません。

 「ヘルパーさんには、月曜の午前中に調理の下ごしらえをしてもらっています。配食弁当もとったけど口に合わなくて」

 調理の援助に入るようになってしばらくしたころ、「白和えを食べたい」と太田さんがリクエストしました。宮崎ではよく食べていた懐かしい味です。

 「材料をそろえてもらって、作り方を聞きながら一緒につくったんです。そうしたら、分量もぴったり、おいしくできて。それから太田さんは、自分でも積極的に台所に立つようになりました」とヘルパーの畑山典子さん。

 季節の野菜を見つけ、昔を思い出して調理を手伝うようになった女性。サヤインゲンの筋むきを頼んだら、「これ昔やった」と記憶を取り戻し、元気になった男性…。「食」を通じたヘルパーの援助が、お年寄りに生きる張り合いを取り戻させるケースは珍しくありません。

 そこでは「家事代行」が先行することもあり、厚労省のいう「自立支援としての共に行なう家事援助」との区別はつけられません。常に連動しているのです。

 「生活を支えるために始めた介護保険を、財源不足を理由に変えてしまうのはおかしい。税金のムダ遣いをやめて福祉に回すべきです」(太田さんの娘さん)

老化に立ち向かう力を後押し

 厚労省の介護保険見直し案では、要支援の人の九割、要介護1の人の七割が従来の介護給付をはずされ、筋力トレーニングなどの「新予防給付」に回されます。世論を受けて、訪問介護も「予防訪問介護」として残りましたが、サービスの期間、内容を見直すといわれます。

 「すべてのヘルパーが過剰サービスをし、自立を妨げているかのような報告が、ヘルパーをイメージダウンさせている。そもそもヘルパーの家事援助については三級資格養成講座でも、単なる家事代行行為にならないよう厳しく戒めて教えられています」と笹原さんは指摘します。

 長い間、家事援助だけを仕事にしてきた槌谷法子さんは、「利用者の意欲を生かせるようたえず目配りし、努 力してきた」といいます。「たとえばジャガイモを調理するときには、腰痛の方なら楽な姿勢でできるように、いすに掛けてもらいます。皮むき器で皮をむくと か、少し力が入る人なら、お芋が転がらないよう私が半分に切ってから、好きな大きさに切ってもらうとか…。ベッドに寝ている方にも、味付けだけでもお頼み して、ご本人の味を大切にしています」

 ほんの数分でもいっしょに調理をすることで、高齢者の記憶や意欲がよみがえってくる、といいます。

 「いままでできていたことができなくなっていくのが、老化。そんな自分を受け入れて新しい生活づくりが必要になります。老化に立ち向かう力を、日常の生活から後押しするのがヘルパーです」と笹原さん。そんなヘルパーを、「人生の伴走者的援助者」と呼んでいます。

 自立して、自分の力で人生を走っていくのは、お年寄り自身なのです。

文・矢吹紀人/写真・千葉茂

いつでも元気 2005.4 No.162

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