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2018年3月6日

Borders 時々透明 多民族国家で生まれて (22)トランプのアメリカ

 去年、極右団体がバージニア大学構内で夜中にデモを行った。建前は、南北戦争で敗北した南部連合軍を記念する銅像の撤去への反対。奴隷制度の継続を求め戦った南部連合を称えること自体は非人道なのだ。
 実は裏にもう一つの目的があった。インターネットのデモ映像を見ればすぐ分かる。白人男性たちがタイマツを手に、暗闇で「お前たちに追い出されはしない」、「ユダヤ人に追い出されはしない」と叫ぶ。ナチのスローガンの「血と土」が加わったり、ナチス式敬礼をしたりする。ナチと南部連合の旗が、揺れる炎の光を浴びてなびく。彼らの本音は、白人至上主義だ。
 その翌日、極右集会があった。プラカードと演説で、「敵」はいわゆる「白人」以外の、全ての人々だと主張していた。特にユダヤ人は、ヘイトの的で、陰謀妄想に夢中の彼らは、経済不況、移民問題、国が危険になったのはユダヤ人の仕業だという。キリスト教に基づいた白人社会が終わる、という歪んだ悲鳴を上げる。
 このヘイト集会を許さない団体も同時にデモを行った。警察が静観した結果、2つのデモが激しくぶつかり、暴動が起きた。白人至上主義者の男性が反対派の隊列に車で突っ込み、反対派の若い女性が死亡した。
 これがトランプのアメリカだ。まるで古い井戸からぬるぬるしたモノが這い上がって来るように、潜伏していたヘイトがあらわになった。
 以前のアメリカは大統領が国民をまとめ、ヘイトを追い出す役割を担った。ところが現大統領トランプの言動は正反対で、白人至上主義の極右団体にも反対派にも「いい人はいる」、「暴力は両側に責任がある」と述べた。その上、同政権は、「ユダヤ人による犯罪」報告を定期的に出したナチを真似て、「違法移民による犯罪」報告を毎週行うと発表した。そしてイスラム教徒の多い国からの移民の極端な制限を命じた。こういった差別的な発言や政策が社会に影響を与え、ヘイト犯罪は増加していく一方だ。過去にたがわず被害者は圧倒的にユダヤ人だが、イスラム教徒へのヘイト行為も急増した。
 アメリカは、「正義を目指していく国であるべき」と語られてきた。しかし、最近の数年間は逆行も可能であると痛感させられている。油断すると今のアメリカで起こっているひどい現実が、どこでも起こりうる。ヨーロッパでも同様の問題が生じているのだ。差別を十分に潰した、平等の国ができたと思いこむのは、まったくもって警戒が足りないだろう。


文 ヘイムス・アーロン 東京在住のユダヤ系アメリカ人。セントルイス・ワシントン大学院生、専門は人類学。1977年生まれ、ネブラスカ州育ち

(民医連新聞 第1663号 2018年3月5日)

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