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2018年3月30日

特集 私たちの診療所 
ワクワク感が開く 診療所の未来

ふじぬま・やすき 1983年、新潟大医学部卒。2006年より医療福祉生協連家庭医療開発センターセンター長、15年より千葉大大学院専門職連携教育研究センター特任講師

ふじぬま・やすき
1983年、新潟大医学部卒。2006年より医療福祉生協連家庭医療開発センターセンター長、15年より千葉大大学院専門職連携教育研究センター特任講師

 各地でさまざまな活動を続ける民医連診療所。
 医療費抑制政策や医師不足など厳しい情勢の中、どう未来を切り開いていけばいいのか?  
 家庭医療、地域医療の第一人者、藤沼康樹医師(東京・生協浮間診療所)に聞きました

 まず診療所とは、どんな存在であるべきか。「ウチは○科と△科が専門です。当てはまる症状の人はどうぞ」ではダメですね。これでは単なる大病院の縮小版です。
 診療所が地域の人たちにとって「医療や介護、福祉のことで、相談すると道筋を示してくれる」存在であること。何か困り事があった時に「あそこに相談に行こう」と思ってもらえることが重要です。これは中小病院も同じです。

相談に行こうと思える場所に

 どんな診療所が「相談に行こう」と思ってもらえるのか。利用したことがない人であれば、地域にどれだけ知られているか、あるいは口コミで評価されているかが指標になります。
 地域で知られるためには、日常の医療活動にとどまらず、地域に出る活動(アウトリーチ)が重要です。
 また、一度診療所を利用した人がまた利用したくなることも重要です。リピーターを増やすのは、診療のクオリティー。一度の来院で「もういいや」と見限られるようでは話になりません。診療のクオリティーを高めるには、職員の成長が欠かせません。そして、その成長を支えるのは教育です。
 このアウトリーチと教育を進めるにあたって、民医連は他の医療機関より優位な点を数多く持っています。

懇談よりプロジェクトを

 多くの人が「アウトリーチ」と言うと、地域懇談会などを構想しますが、私は具体的な地域プロジェクトを作った方がいいと思います。地域ごとに答えは異なりますが、「この地域で医療機関が関わりながら進めるべきことって何だろう」と本気で考えてみてください。
 例えば、患者さんの中で「介護度は自立だけど、孤独な人・軽いうつの人・軽い認知症の人」ってすごく多いですよね? この人たちに診療現場でできることは、普通に考えれば話を聞いて薬を出すぐらいです。
 私が勤務する生協浮間診療所では、こうした問題を医療行為ではなく、「地域のつながり」で解決する“社会的処方”に取り組んでいます。

地域の一員として

 社会的処方の具体的な方策として、まず考えたのは既存のコミュニティーとのコラボレーション。北区の浮間地域には200以上のサークルがありましたが、ほぼ全てが内輪の集まりで見知らぬ人には入りづらいものでした。
 そこで診療所が主導する園芸と、すでに地域で活発に活動している健康麻雀の2つをテーマにしたコミュニティーを、社会的処方の中身にしようと思いました。特に園芸は“園芸療法”として心理社会的に良い影響がある、という研究結果があります。この考えを発信したところ、地域包括支援センターや自治体などから共鳴してくれる人が続々と出てきて、その人たちとプロジェクト会議を進めています。
 ここで重要なのは、きっかけは作っても、診療所や共同組織で仕切らないこと。「これは地域の問題だから、地域のみんなで解決しよう」と、地域の取り組みにしていくことです。
 もう1つ重要なのは、ボランティア活動にしないこと。それでは長続きしません。何らかの政策と結びつけたり、活動に生産性を持たせたりして、資金を生み出すことが継続していく必要条件です。ちなみに当診療所の取り組みは、「介護予防」として自治体の事業援助を受けるつもりです。

本当のチーム医療

 次は教育について。僕の定義する教育とは、職種を越えてみんなで考え学ぶこと。多職種カンファレンスがその1つです。ここでは「意見の対立」と「権利の譲渡」が必要です。
 「全てを判断する医師が頂点にいて、他職種は医師に情報提供だけをする」というカンファレンスがよくありますが、これはダメです。職種が違えば別の視点や意見、判断を持っている。それらを引き出し尊重することが重要です。特に医師は、場面によって意識して他職種に判断を任せることですね。
 「意見はあるが言わない」「判断しない」が続けば、考えることもなくなり成長もありません。医師の判断に対立する意見も気軽に言えて、協議できる対等な関係。医師中心ではなく、場面に応じて適した職種がイニシアチブを取ってこそ、本当のチーム医療であり成長の土台です。そして、民医連はその土台を持っています。

「やりたい」をマネジメントする

 最後に民医連の強みをもう1つ。それは医療方針を理解した上で、経営のマネジメントができる事務がいることです。
 医療法人は予算ありきで、「予算上これだけ利益が必要だから、それに見合う患者を集める」という思考にとらわれがち。とかく経営から医療を構想する習慣が身に付いています。
 しかし僕の経験上、地域医療に関しては「この地域で自分たちが成すべきことは何か」を真剣に構想した医療展開が赤字を生んだことはありません。何より、「やりたいこと」ありきの方がワクワクするじゃないですか。
 このワクワクする方針に経営的な整合性をつけるのは事務。民医連は全職員の経営を掲げますが、そのリーダーは間違いなく事務職員で、民医連事務にはその潜在能力があります。
 民医連は「貧困問題を解決しよう」といった使命感みたいなものが先行しがち。それも大切ですが、それだけでは長続きしない。活動そのものを楽しく、ワクワクするものに変えていくことが、何より大事なんです。

いつでも元気 2018.4 No.318

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