MIN-IRENトピックス

2018年3月30日

特集 私たちの診療所 
「地域で暮らす」を支援する

文・井口誠二(編集部)/写真・野田雅也

ココロンくらぶの食事のあとのティータイム

ココロンくらぶの食事のあとのティータイム

 民医連が目指すのは、無差別・平等の医療と介護と福祉の実現。
 社会保障の削減や格差と貧困の拡大が進む今、現場ではどのような実践が行われているのでしょうか? 
 埼玉県のとある診療所を訪ねました。

埼玉・大井協同診療所

 埼玉県南西部のふじみ野市(人口約11万人)にある大井協同診療所(医療生協さいたま)。
 同診療所は医療・介護・保健(健診など)の3つの事業に加えて、何でも相談やサロンなどを第4の事業「福祉事業」と位置づけて活動しています。

 大井協同診療所は午前中の外来が医師3人体制。レントゲンや胃カメラを備え、デイケアと居宅介護支援事業所を併設している2階建ての大きな診療所。毎日およそ75人の患者が外来を訪れます。
 同診療所が福祉事業としているのは(1)無料低額診療事業(無低診)、(2)無料個別送迎、(3)何でも相談、(4)サロン事業の4つ()。なぜ“取り組み”や“運動”ではなく、“事業”と位置づけているのでしょうか?
 「“取り組み”だと、仕事の二の次三の次になったり、できる人だけが頑張ったりする。それでは継続性を担保できません。個人ではなく、診療所として続けるなら事業=仕事にしなきゃ。善意の活動じゃダメなんです」と、事務長の鹿野睦子さん。
 現在、全ての事務職員が「何でも相談」を担えるよう学習し、3年目の事務職員がサロンの事務局を担当しています。

受療権を支える

 大井協同診療所の福祉事業の目的は、地域の人が医療を受ける権利(受療権)を支えること。どんなに充実した医療や介護があっても、そこに辿り着けなければ、役割を果たせません。

何でも相談

 何でも相談の窓口は、受付カウンター。患者さんから声を掛けられた事務職員が、そのまま別室で話を聞きます。内容は医療費の相談や介護相談など多種多様。相談を受けて生活保護の申請に同行したり、自立支援相談センターにつなぐこともあります。
 「専門の相談員ではないので、正直負担に感じることも多い。けれど、僕にも何かできることがある。患者さんや周りの人と相談しながら、少しでも患者さんの状況を良くできたら嬉しい」と3年目の中居映人さん。
 問題解決に取り組む中で、地域の社会保障推進協議会や外国人支援NPO「ふじみの国際交流センター」、福祉課などとつながりも深くなりました。
 「何でも相談を始めてから、どんな相談内容でもいったん受け止める覚悟ができた」と鹿野事務長。相談ごとが1回で解決することはほぼありません。数時間の相談を繰り返すこともありますが、職場全体で業務を調整して相談を続ける体制を作っています。

大井協同診療所

大井協同診療所

無料個別送迎

 大井協同診療所の個別送迎は、介護度に関わらず通院困難な人が無料で利用できるのが特徴。利用者は通院患者の1割の約140人。高齢で歩くのが困難な人やタクシーが高くて使えない人が、地域で暮らすために欠かせない“足”となっています。
 個別送迎を支えているのは3人の運転手。訪問診療やデイケアの送迎も兼ねます。運転手の1人、鈴木和也さんに話を聞きました。
 「昔、事業に失敗して金が無くなり体も壊した。とにかく安く治療したくて、インターネットで無料低額診療を調べ、昨年受診したのが始まりです」と鈴木さん。無低診で受診していた時に、診療所から「運転手をやってみませんか」と誘われました。
 50代で初めて飛び込んだ福祉の仕事。送迎した人から「玄関先まで送ってくれて助かる」「これがあるから、病院に行ける」と感謝の言葉をもらって感激したという鈴木さん。もっと関わりたいと介護の資格を取り、将来はケアマネジャーを目指しています。

利用者を車に乗せる鈴木さん

利用者を車に乗せる鈴木さん

サロン事業

 診療所では、患者さんに限らず地域の人たちがつながる場所も作っています。子どもから高齢者まで誰でも参加できる食堂「多世代コミュニティキッチンおーい、ココロンくらぶ」と、ふじみ野市登録のオレンジカフェ(認知症カフェ)「my Life」です。
 毎月第3火曜日は、ココロンくらぶの開催日。組合員ボランティアが中心となり、栄養満点の食事を一食300円で提供しています(中学生以下と75歳以上は無料)。取材した日のメニューはちらし寿司や筑前煮、茶碗蒸しなど6品。ボランティア7人で、忙しく調理していました。
 「毎月ここに来るのが張り合いになるのよ」と笑う守山寿恵さんは、2016年6月の第3回から欠かさず参加している組合員ボランティア。「ココロンくらぶみたいに、子どもも高齢者も一緒にいる場ってすごく良くありません?」と話します。
 守山さんは料理を作るだけでなく、訪れた人たちに積極的に話しかけます。「守山さんの姿を見て、ボランティアみんなが話しかけるようになった」と地区理事の濱谷純子さん。初めは心を開いてくれなかった中学生も、徐々に打ち解けるようになりました。春には、ココロンくらぶから初めての高校生が生まれます。
 「会話を通して、その人の抱える孤独や困難に気付くこともあります。そんな時は職員と相談して、そっと支えることを心掛けています」と守山さん。
 取材した日も親子連れなど27人の姿が。毎月仲良し5人組で訪れている中学生は「料理はうまいし、勉強も教えてくれるし、いろんな人と話せて楽しい」と言います。昨夏から3歳の娘を連れてきているお母さんは「受診した時、走り回っている娘を見た事務の中居さんから紹介されました。多くの皆さんと一緒に食事ができて、とても嬉しいです」と笑顔を浮かべました。

ココロンくらぶの準備をすすめる組合員ボランティア

ココロンくらぶの準備をすすめる組合員ボランティア

無差別・平等を実践する

 ココロンくらぶは、ふじみ野市社協の「子育て支援活動見学会」の会場にも選ばれています。「行政とはたたかう関係ではなく、一緒に考え行動し、制度を作っていく関係になることが大切」と鹿野事務長。「診療所は地域の貴重な社会資源。地域が求めることに、見切り発車でも挑戦していきたい」と話します。
 福祉事業は、収入には直結しません。けれど、無差別・平等の理念のもと、「どんな状況にある人でも、地域で暮らす権利を支える」ためには必要なことだと、職員も共同組織も考え、実践しています。

いつでも元気 2018.4 No.318

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