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2018年4月17日

これでばっちり ニュースな言葉 安くて便利? ちょっと怖い? 話題の「民泊」の背景は―

 最近、よく耳にする「民泊」。安く泊まれて地元の人と交流できると人気です。一方で、違法な施設や業者も多く、衛生面や防犯の不備、金銭トラブル、暴行・殺人などの犯罪まで起きています。何が問題? 国際ツーリストビューローの富田秀信さんが解説します。

国際ツーリストビューロー

 こたえる人 富田 秀信さん

 私はJR京都駅南に見える五重塔の東寺の目の前に住んで四〇年近くになりますが、ここ二~三年で、近隣の住宅事情は急変しています。住宅がアッと言う間に取り壊されて更地になり、建設開始。看板には「旅館」「ホテル」「ゲストハウス」などの建設予定地とあります。
 地域の急変で、タクシードライバーや消防分団さえ地域のことがよくわからないなど、困惑が広がっています。町内会で把握できていない建物が増えると近所付き合いがなくなります。隣人の無関心は、「安全安心の地域コミュニティー」の喪失につながります。狙われるのは、独居老人宅と不況下の店舗。長くその地域を知る人たちが追い出され、短期間のうちに見知らぬ人ばかりが行き交うだけの地域になると、ゴミ出しのルールを守らない、騒音もお構いなしなど、無秩序、無法がまかり通るようになります。

■違法な「民泊」とは

 「民泊」は、二〇〇〇年代後半からネット上で民家の空き室、空き家を貸したい人と旅行者をつなぐサービスとして登場しました。
 旅行者を宿泊させて対価を得る行為は、旅館業法上の「許可」が必要で、無許可で行うことは禁止されています。「民泊」も、現行では旅館業法か特区民泊に基づく許可を受けることが必要で、これを受けていないものは「違法民泊」です(一六年の厚労省の調査で合法と認められた施設は一六%のみ)。摘発がすすまないのは、「民泊」仲介サイトには、旅行者を宿泊させる「ホスト」の情報や宿泊物件を載せておらず、ゲスト(旅行者)だけに直接知らせるしくみだからです。
 致命的欠陥は、「常駐管理者がいない」こと。習慣の違う外国人だけで施設の電気、水道、ガスが使われるうえ、火災報知器、避難通路の整備も不十分な建物で事故が起こるのは当然です。関西の旅館組合は「事は命の問題だ」と警鐘を鳴らしています。
 さらに、投資を目的とした居住者不在の建物さえあります。周辺地価は高騰し、住宅だけでなく老舗旅館(店舗)まで立ち退きを迫られるなど、本末転倒の事例も発生しています。

■背景に国の戦略が

 「民泊」が広がる背景には、国の成長戦略によるインバウンド(訪日観光客)中心の観光立国と、地方創生総合戦略があります。自治体同士を競争させ、富裕層観光を推進しています。
 六月には、「住宅宿泊事業法」(「民泊」新法)が施行されます。自治体の許可が必要だった宿泊営業を規制緩和し、「届出」だけで営業が可能となります。いま起きている問題の焦点である「違法民泊」を合法化し、拡大するものです。
 「住宅宿泊事業法」の本質は、空き家、空きマンション・アパートに目をつけた賃貸・不動産業界や海外資本のために、投機対象として大規模な規制緩和を行うことにあります。
 国や自治体は、二〇二〇年の東京オリンピックに向け、四〇〇〇万人の訪日観光客の宿舎を確保すると説明しますが、国民の住環境まで悪化させてとりくむ必要があるのでしょうか?
 一方で、関西のある知事が、「ホテル建設が無理な地区で、なぜ民泊がOKなのか?」と発言するなど、国と自治体の間に微妙な温度差も生まれています。それでも国は、自治体が独自に作った「民泊禁止条例」を不適切とするなど強硬な姿勢を貫いています。
 「外需頼みの観光政策」でなく、国民ひとりひとりが旅行を楽しめるように、賃金や休暇のあり方などの整備こそ、いま必要です。

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(民医連新聞 第1666号 2018年4月16日)

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