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2018年5月8日

「総がかり」で守ろう いのちくらし 日本精神保健福祉士協会会長 柏木一惠さん 生活保護の基準引き下げは 精神障害者の“生きる場”奪う

 総がかりで社会保障を守ろう―。今回は、日本精神保健福祉士協会の会長・柏木一惠さんです。政府は、今年一〇月から三年かけて生活保護費を引き下げる計画です。同会は昨年一二月、生活保護の引き下げに反対する声明を発表しています。(丸山聡子記者)

 生活保護の基準はじめ住宅扶助や各種加算が削減され、生活保護を利用する人や精神障害の人たちに不利益が生じています。ソーシャルワークの専門職集団として、この問題にとりくまなければとの思いです。

■社会参加を阻む

 精神保健分野の政策は、長期入院の精神疾患患者を地域へ帰そうと転換しました。地域に戻った患者さんが生活するには障害年金だけでは足りません。障害一級でも月八万円ほど。不足分は生活保護で補います。
 精神障害者の大半は経済的に困窮しているのが現場での実感です。生育歴を見ると貧困な家庭で育った人も多く、家族にもささえる力はありません。
 長期の入院で普通の暮らしから遠ざかっていたため、体調コントロールができない、調理や金銭管理など基本的な生活習慣が身についていない人も少なくありません。生活習慣病などの合併も多く、食費を削らざるを得ないような保護費の引き下げを行えばどうなるでしょうか?
 地域で暮らすにはさまざまな活動や冠婚葬祭もあります。きちんとした洋服も必要ですし、通院のための交通費もかさみ、参加費や香典代も発生します。保護費が引き下げられれば、社会参加は制限されます。
 五年前には、生活保護費が平均六%も削減されました。「社会的な活動に参加できなくなった」「食費や被服費を削っている」と悲鳴が挙がっています。保護費がさらに引き下げられれば、精神障害者は地域で生きていけなくなります。

■捕捉率の低さは意図的

 朝日訴訟から半世紀以上経つのに、いまだに日本の生活保護の捕捉率()は二割程度。とてもセーフティーネットとは言えません。偏見や拒否感、バッシングは単なる風評ではなく、国策として誘導されているのではと疑心暗鬼になります。
 今度の削減額は一六〇億円程度。国家予算の中では大きな額ではありません。生活保護基準は介護保険料・利用料の減免や就学援助など医療・福祉・年金や最低賃金などに連動します。厚労省は四七の施策に影響するとしています。生活保護引き下げは国民生活全体の引き下げに直結します。それが狙いでしょう。
 「国の財政が大変だから」という理屈で社会保障が削減され、代替策として地域包括ケアシステムが導入されることに、私はきな臭さを感じます。「輝け」「働け」との国の号令で国民を一つの方向に向かわせようとする動きは、戦前の国家総動員法のようというのは考え過ぎでしょうか。

■改善に向け連携を

 最近、精神障害者を家族が監禁していた事件が相次ぎました。支援が届かずに埋もれている人が地域にはまだいるはずです。背景は複合的かつ複雑ですが、貧困が要因の一つであると想定されます。
 生活保護拡充に向け声をあげ、貧困や障害の問題にとりくむソーシャルワーカーの集団があることを知ってもらい、「あそこに相談すれば何とかなる」とアピールしていきたいです。
 民医連は無料低額診療事業にも熱心にとりくみ、貧困に苦しむ人たちの味方だと感じます。力を合わせていきたいと思っています。

捕捉率
 生活保護の利用要件を満たす人のうち、実際に生保を利用する人の割合。捕捉率二割は他の先進国と比べて極めて低く、必要なのに利用できない人が八割いることになる。

(民医連新聞 第1667号 2018年5月7日)

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