医療・看護

2018年5月8日

相談室日誌 連載441 治療に支障あったAさん 丁寧な声かけで心ひらく(愛媛)

 六〇代後半のAさんは自宅で転倒し、救急病院を受診、大腿骨頚部骨折と診断されました。手術が必要でしたが、無保険で家族なし、友人なし、所持金もないと本人が話したため、当院へ転院となりました。
 Aさんは、点滴を自己抜去する、「いろいろ聞かれるのが嫌」と会話を拒むなど、治療に支障をきたす状態でした。毎日訪問し、不満に耳を傾け、ていねいに説明して納得してもらうことを繰り返し、少しずつ自分のことを話してくれるようになりました。
 Aさんには軽い知的障害があり、高校中退後に山奥の実家から町へ出て鉄工所に就職。事務的なことやコミュニケーションが不得意でしたが真面目に働き、社長から支援を受け定年まで勤務したそうです。その社長が亡くなり、手続きがわからず無保険に。電話は持たず、「だまされたらいけない」と訪問を全て拒み、郵便物は捨てていたそうです。贅沢はしないAさんの貯金は数百万円。読み書きができないため、年に一度銀行窓口で代筆してもらってお金を引き出し、少しずつ使って生活していました。
 Aさんの思いや生活史を病棟看護師へこまめに伝え、多職種が協働し声をかけ続けました。次第に笑顔が見られ、落ち着きのない行動も徐々になくなりました。猜疑心の固まりだったAさんから「ここの病院はええ人ばっかりやな」との言葉が聞かれるようになりました。成年後見制度を利用して住み替えを援助し、生活サポートのために介護保険を申請し、自宅へ退院しました。
 退院から一カ月後、Aさんの新しい自宅を訪問すると、退院時にたくさんの職員と撮った写真が飾ってありました。核家族化や地域のつながりの希薄化がすすみ、高齢者、障害者、単身者、健康状態や経済状態に問題のある方が社会的孤立をしやすい状況です。病院も地域といっしょに安心して暮らせる支援をしていきたいと思います。

(民医連新聞 第1667号 2018年5月7日)

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