医療・看護

2018年6月5日

診察室から 患者さんからの言葉の贈り物

 私は、回復期リハビリテーション病棟(四四床)の専従医として勤務しています。約九割が脳卒中、約一割が整形外科疾患の患者さん。入院時、患者さんや家族は病前の状態復帰、最低でも経口摂取をし、自宅の中を一人で何とか移動、トイレ動作自立の希望が多いように思います。発症時、入院時の状態より歩行獲得、トイレ動作自立は困難で、見守り~軽介助が必要な状態での在宅復帰が予想される場合でも、なかなか受け入れにくいようです。しかし、三~四カ月と入院生活、リハビリを継続すると、諦めというより「一生懸命やったのだから」と、目標を叶えられなくてもある程度の達成感で、現状を受け入れることが多々あります。
 最近、印象深い患者さんを担当しました。常に笑顔をたたえる七〇代の女性(Bさん)は、脳梗塞により左片麻痺を来し、移動は車椅子で全介助要。日中はリハビリパンツを着用し、トイレで介助要、夜間はオムツ着用。娘さんは熱心で、母親の介護のため毎日一〇時頃来院し、一五時頃帰宅していました。Bさんは、移動は車椅子で介助要、トイレ動作自立は得られぬ状態で在宅復帰しました。
 回復期リハ病棟は在宅復帰をめざしており、患者さんや家族との面談は、極めて目的志向の強いものに終始する傾向があります。退院の際、私は娘さんと入院生活のことや今後の在宅生活のこと、その他の四方山(よもやま)話をしました。
 娘さんによれば、「今日、リハビリパンツのパットがずれて、下着が濡れていました。何で、トイレに行きたいと私に言ってくれなかったの」と責めたら、Bさん(母親)は、「笑おうよ」と返したとのこと。「母の気持ちを考えず、独りよがりの介護をしていたのかも」と、半ば涙目。常に娘さんや家族、医療スタッフに思いを巡らし、とっさに発した言葉かもしれませんが、Bさんの人間性が吐露されたものと思われます。
 「笑おうよ」は、Bさんからの言葉の贈り物であり、今後も大切に温めていきたいと思いました。
 (吉川正三、広島共立病院)

(民医連新聞 第1669号 2018年6月4日)

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