医療・看護

2018年6月19日

相談室日誌 連載444 追い立てられる家族 立ち止まる時間を(東京)

 「家に帰れるレベル? 勝手なこと言わないで!」。面接室で声を荒らげたのはAさん(六〇代・男性)の妻。この数カ月前、Aさんは、健康問題や生活環境の変化のため抑うつ状態となり、自殺を考え線路内に立ち入りました。一命はとりとめたものの多発骨折を負いました。この日から、Aさんの妻の生活は激変しました。突然の知らせからすぐに治療方針の判断を迫られ、容態が落ち着いたかと思うと転院の話。しかし、自宅に近い病院からは、精神疾患を理由に入院を断られ、家から車で一時間かかる当院の回復期リハビリ病棟へ入院することとなりました。入院後、Aさんはリハビリを重ね、自宅での生活に大きな支障がないレベルまで回復しました。しかし、こころの問題は解決しないままでした。これに対して、妻は複雑な思いを募らせていました。身体面の回復を喜ぶ一方で、自殺再企図の可能性が頭をよぎり、Aさんの退院に強い不安を抱えていたのです。
 そんな時、退院期限が近くなり、また判断を迫られることになりました。冒頭の言葉は、自宅への退院が現実化した時、いよいよ自分だけでささえなければいけない、はたして大丈夫だろうか? と感じた妻のこころの叫びでした。
 この面接を経て、当院では多職種で話し合い、リハビリ期限後に当院精神科病棟へ転棟し、少し時間をつくることにしました。その後、Aさんは少しずつ自身や妻と向き合うようになり、約一カ月後、自宅へ退院しました(※精神科病棟は二〇一八年三月末をもって休止)。
 Aさんのケースから、在院日数の短縮など医療に関わる時間の流れ方がスピードアップする陰で、患者さんやその家族のこころが置いてきぼりになっていることを感じます。Aさん夫婦は、いずれの制度の活用も望みませんでした。それら以上に必要としていたのは、ただ立ち止まる時間だったのかもしれません。患者さんや家族にとって、悩み苦しむ時間、そしてそこから回復していく時間は、SWとしてはなくてはならない時間だと思えてならないのです。

(民医連新聞 第1670号 2018年6月18日)

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