いつでも元気

2005年9月1日

特集2 元気で高齢化社会を迎えるために 筋肉きたえリラックスする運動を

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川西徹郎
石川・金沢リハビリテーション病院院長

 2004年10月の統計では、65歳以上の高齢者は2488万人で、全人口の19・5%を占めています。このまま推移すると、2015年には26%、2050年には35・7%に達するそうです。
 一方、1963年(昭和38)には100歳以上の人は全国で153人でしたが、約40年後となる04年には何と2万3038人となり、150倍にまで増 えました。平均寿命は女性で85・3歳、男性で78・4歳と、世界の最高水準をきわめています。
 一方、介護保険で要介護認定された人の数を見ると、65歳から75歳までの前期高齢者では4・3%、75歳以上の後期高齢者では28・9%が要介護で す。全体では15・8%で、介護保険が始まってからの5年間に、5・7%増加しているそうです。
 また、最近では「健康寿命」という指標も示されています。介護をまったく必要としない期間のことで、女性では75・8歳、男性では71・4歳。平均寿命 より6~9年ほど短かいのが現状です。介護保険制度の充実とともに、元気で高齢化社会を迎えるための積極的なとりくみも必要になっているといえます。

数万年前と同じ遺伝子

 私たちが住んでいるこの文明社会と健康の関係について、今一度考えてみる必要があります。
 文明とは、人間という動物だけが成した「豊かさ」「快適さ」「便利さ」のこよなき追求であったといえます。その結果、管理社会の生み出すストレス、グル メブームやスナック菓子の氾濫などによる肥満、車社会による運動不足、産業の発展による生活環境破壊など、健康に対する負の遺産が山積みになっている時代 ともいえます。
 遺伝子の解明が進み、私たち人間はいまも数万年前の非文明の時代の人間と遺伝子は同じだということが分かっています。生物学者によれば、ある種の生命体 が新しい遺伝子のパターンを取り入れるためには1万回の世代交代が必要だといいます。
 細菌は数時間で世代交代し、約2~3年で新しい種になる可能性があるのにくらべ、人間は仮に20年で世代交代しても数10万年が必要になるわけです。文 明は進んだが、遺伝子は非文明の時代と同じだというズレが、私たちの身体にひずみを及ぼしているのです。

文明社会の健康への影響

 解決の方向を明らかにするためにも幾つかの問題点を少し詳しく見てみましょう。
 ●便利な車社会で早まる足の老化
 高齢者がいわゆる「寝たきり」になってしまうのは、多くは転倒による下肢大腿骨(頚部)骨折が原因といわれています。実際、江戸時代は東京から京都まで 「東海道53次」でしたが、今は「のぞみで2時間半」であることにも象徴されるように、足はほとんど使いません。
 また、足は「第2の心臓」といわれています。歩くことで下肢筋肉を緊張させ静脈を圧迫し、心臓へと静脈血を還流させているからです。
 人間の体重の7%は血液です。たとえば60キロの人は、約4リットルの血液があり、その3分の1は動脈側に、3分の2は静脈側にあります。
 ところが静脈圧は、私たちがふつう「血圧」といっている動脈圧の、5分の1から6分の1しかありません。その証拠に、検査で採血するときに血液が勢いよ く吹き出てくることはありませんね。採血は静脈から行なうからです。
 ですから静脈の血液を心臓におし戻すには、筋肉の役割が重要なのです。歩かず座っているだけで筋肉を使わないでいると、血液の流れも悪くなるわけです。
 ●肥満は諸悪の根源
 血糖を下げるホルモンは、すい臓から分泌されるインシュリンひとつしかありません。しかし、血糖を上げるホルモンは多数あります。すい臓からでるグルカ ゴンや、甲状腺や副腎から出るホルモンなどです。
 血糖を上げるホルモンが多いのはなぜでしょうか。それは、人間の歴史が、飢餓との長いたたかいの歴史だったからです。
 脳はその機能のために酸素と糖分だけを要求します。人間は水さえあれば、たとえ何日も食べなくても、血糖を上げるホルモンのおかげで簡単には意識がなくならないようになっているのです。
 現在はどうでしょう。食材があふれ糖分を取りすぎるために、血糖を下げるインシュリンが対応しきれなくなり、高血糖状態が続いて糖尿病になる人が増えています。
 余分にとってしまった栄養は、すべて脂肪になって体内に蓄積されます。脂肪は1グラムで9キロカロリーの熱量を供給できるのに、糖分とタンパク質は1グ ラムで4キロカロリーしか供給できないからです。
 もしタンパク質で体内保存をしたら重量が脂肪の倍になるため、大幅な体重増加になってしまいますね。
 アメリカの長年の研究の結果、肥満のがんにたいする寄与率は14%から19%におよぶとされ、「肥満はがんの育ての親」と指摘されています。
 やせることは簡単です。間食を断てばすみます。何もなかった非文明の時代に少し戻ればよいのです。
 ●管理社会のストレス
 ストレスにさらされ緊張状態が続くと、呼吸が浅くなります。体の筋肉を堅くした防御姿勢をとりがちになり、楽な呼吸ができなくなるからです。ときどきた め息が出るようであれば、酸素不足の状態だということです。
 話をする、笑う、大声で泣く、歌を歌うなどはすべて息を吐きながらの行為で、呼吸を促進します。
 ストレスやうつ気分になるとこれらの行為が弱まるため、酸素不足の状態を自ら招くことになります。体の緊張をほぐすためにもやはり適当な体操がすすめら れるゆえんです。友だちと話をし、笑い、歌をともに歌う大切さがここにもあります。
 笑いが血液のリンパ球に働きかけ、免疫能力を高めたという報告は、枚挙にいとまがありません。

その場でできる運動

 文明が発達して長寿にはなったとはいえ、人間も動物です。人体機能の歴史的な特質と、自分で動くという運動を忘れると「寝たきりの長寿」になる危険があります。しかし、対策は難しくはありません。
 まず肥満に対しては、腹が減っていないのに食べる習慣をやめ、標準体重に近づける、タバコはやめる、運動をする、ということにつきると思います。
 運動をするときは、
 (1)その運動が無理かどうかは、自分の体に聞くこと。
 (2)無理であれば半分の量に減らして試みること。
 (3)運動の効果は「毎日の継続」によってのみもたらされる。
 この三つが原則です。広い場所でなくても、その場でできるいくつかの効果的な運動をご紹介します。

立禅:気功

 腕を伸ばし、足を軽く曲げる姿勢をとり、日ごろ使わない身体前面の筋肉と腹筋を鍛えます。すぐにはできないかもしれませんが、あせらず続ければ大丈夫です。
 足のかかとをあわせ、90度に開きます(写真(1))。つま先を軸にかかとを開き足が平行になると(写真(2))、両足は理想的な幅=肩幅に開くことになります。
 身体はまっすぐにして、少し後ろに腰掛けるような気持ちで股関節を緩め、体を沈めます(写真(3)、立身中正)。最初は壁に背中とお尻(腰)と後ろ頭を キチンとくっつけて、沈み込む練習をすればよいでしょう。背中をまっすぐにし、上半身を緊張させないことが大事です。
 この時、肩はたれ両腕は前に出ています。この姿勢を5分間保ちます。ポイントは身体の重心がかかとに落ちていることです。重心がつま先側にあれば、前傾姿勢になっています。
 脳卒中になると、腕は曲がり足は伸びます。乳幼児のころの4つばい歩行に帰ろうとするからです。立禅は、この反対です。

白鶴飛翔

 鶴が海の上を飛んで行くようなイメージでゆったりと行ないます。羽を広げて息を吸い、羽を閉じて息を吐きます。
 両足は肩幅に開き、両手を身体前面で交差させます(写真(4))。両腕を開き、横斜め下ぐらいまで広がった(写真(5))時点から、股関節と膝を緩め上 半身を沈め、それによって両腕が上がるような感じで横斜め前方に指先を伸ばします。鶴が羽を広げたイメージです(写真(6))。
 次に両肩を沈め、それにつれて両肘が落ちてきます(写真(7))。腕が横斜め下にきたところで(写真(5))上半身を上にのばし、両腕も写真(4)の前面交差に戻ります。
 ポイントは、上半身の上下運動によって両腕を動かすことで、肩の力で上げるのではありません。5分間できれば十分です。身体前面の筋肉を鍛え、精神的に 鶴になったことでリラックスします。

転身座盤

 転身座盤は太極拳の技法で少し難しいと思います。片足で全体重を支える訓練をし、体動時のぐらつきをなく し、かつ身体前面の筋肉を強化する効果があります。最初は左足は180度も開かないと思います。110度から145度の範囲内で結構です。危ないと思えば 最初は何かにつかまってやればよいでしょう。
 まず、目は正面を向き(二目平視)、身体を起こします(立身中正、写真(8))。この姿勢で、右足に9割の体重をかけます。この時、右足のつま先ではな くかかとに重心が落ちていることが大切です。そして左足はかかとを中心につま先を左へ180度回します(写真(9))。
 次に左足に体重の9割をかけます。この時も左足のかかとに重心が落ちていることが大切です。そして右足のつま先を立て(写真(10))、右膝を左脚の後 方につけます(写真(11))。そのままの姿勢で前傾せずに身体を沈めます(写真(12))。右膝は床につけません。
 そのまま立ち上がり、右足先を元に戻して重心を移し、左のかかとも元に戻すと写真珣の立身中正に戻ります。今度は反対側を同じように行ないます。
 転倒する理由のひとつは「立ち方」にあります。立った時に片足が体重の半分しか責任を持っていないような場合、体を動かした時にぐらついて転倒しやすく なります。片足で体重の9割は支えられるようにしなければなりません。その訓練にいい運動です。

 「継続は力なり」です。「3日坊主」は経験しただけ、「願掛け100日」は習慣化へのきっかけになります。効果が出るには「石の上にも3年」が必要です。

 

いつでも元気 2005.9 No.167

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