いつでも元気

2018年6月29日

まちのチカラ 
西郷どんと本土最南端の町 南大隅町

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

エメラルドグリーンの滝壺に伏流水がしたたる「雄川の滝」(南大隅町役場提供)

エメラルドグリーンの滝壺に伏流水がしたたる「雄川の滝」(南大隅町役場提供)

 NHK大河ドラマ「西郷どん」で注目が集まる鹿児島県。
 ドラマのオープニングに登場する神秘の滝が、穴場の観光スポットとして人気を博しています。
 滝のある大隅半島先端の町を目指しました。

幻想的な秘境
雄川の滝

 南大隅町役場の近く、根占港から鹿児島湾にそそぐ雄川は、大隅南部県立自然公園に指定されている清流です。大河ドラマに登場する「雄川の滝」に行くには、駐車場から上流に向かって歩くこと約20分。1・2kmの遊歩道はコンクリートで舗装され、淡いエメラルドグリーンの川面を眺めながら、たっぷり森林浴が楽しめます。適度にアップダウンもあるので運動にも最適。
 この遊歩道は昨年整備が始まったばかり。実は雄川の滝は、5年ほど前に鹿児島銀行のカレンダーに採用されるまで、観光客はおろか地元の人にもほとんど知られていない秘境でした。
 残念ながら、西郷隆盛が滝を訪れた記録はないとのこと。しかし西郷は南大隅町を5回訪問し、雄川の河口に現存する「西郷南洲翁宿所」に滞在して狩猟などを楽しみました。西郷が使ったとされる石風呂や、猟銃の弾が誤って爆発した時の天井穴などが残されています。
 少し息が切れてきた頃、遊歩道の先に濃く光るエメラルドグリーンの水面が見えてきました。まもなく視界が開け、幅60m高さ46mの絶壁がドドンとお目見え! 中央に滝が一筋あり、岩盤の下部に幾筋もの伏流水がカーテンのようにしたたっています。そして、絵の具を垂らしたかのように色鮮やかな滝壺。誰もが見とれる絶景を前に、西郷どんが滝に打たれる姿を想像せずにはいられませんでした。
 10月には雄川の下流域でドラゴンボートフェスティバルが行われ、白熱したレースを繰り広げます。約450年前に行われた南蛮船競争の記録をもとに、南大隅町商工会青年部が30年前から催しているもの。雄川を舞台にさまざまなドラマが楽しめます。

西郷隆盛の狩猟時の定宿「西郷南洲翁宿所」

西郷隆盛の狩猟時の定宿「西郷南洲翁宿所」

佐多岬で塩づくり工房

 「雄川の滝」から南に約1時間車を走らせると、本土最南端の灯台が建つ「佐多岬」があります。こちらも新たに遊歩道が整備され、観光客が急増している注目のスポット。展望台から南を見渡すと種子島や屋久島が、北西には開聞岳がくっきり。360度の大パノラマに感動することは言うまでもありません。
 この海に魅せられ、9年前に塩づくりを始めた森大輔さん・美由紀さん夫妻を訪ねました。岬から車で5分の高台に小屋を建て、ポンプで海水を引き、薪と釜で時間をかけながら煮詰める昔ながらの方法で製塩しています。3tの海水から90kgの塩を採るのに、早ければ5日間でできるところ、釜を移し替えながら6日間かけて凝縮。
 「この辺りは黒潮が流れ込むので、塩に含まれるミネラルのバランスが丁度いい。塩むすびにして食べたら、味の違いがすぐに分かりますよ」と大輔さん。根占で生まれ育ち、いったんは建設会社に勤めたものの26歳で起業しました。
 「開聞岳に沈む夕日を眺めていた時、なぜか塩を作りたいと思ったんです。もともと独立志向があったせいかもしれません。当時すでに子どもが3人いましたが、妻も賛成してくれたので製塩の勉強を始めました」と笑います。隣で「一度決めたら絶対にやる人ですから」と美由紀さん。
 仕事が軌道に乗るまで何年もかかったそうですが、今では県内外のレストランなどから注文が相次ぎ、生産が追いつかないほどです。
 「生活の基本は食を楽しむこと」と言う大輔さんが名付けたブランド名は「楽塩」。まさにパラダイスのような南大隅の海の旨味が凝縮されています。

明治4年に完成した日本最古の灯台のひとつ「佐多岬灯台」

海水の不純物を網で丁寧にすくう森大輔さん

海水の不純物を網で丁寧にすくう森大輔さん

100g入り「楽塩」は1袋309円(税込み)

100g入り「楽塩」は1袋309円(税込み)

サンゴ礁とトサカノリ

 佐多岬の北東には、サンゴ礁の楽園も広がっています。半潜水型水中展望船「さたでい号」に乗れば、ソーダ色の透き通った海底に大小さまざまなサンゴ礁を眺めることができます。運がよければウミガメにも遭遇できるとか。
 この海域の海産物を求めて、近くにある大泊港に行きました。ちょうどトサカノリが水揚げされていたので、塩蔵処理を見せてもらうことに。トサカノリは主に九州沖から瀬戸内海にかけて採れる海藻で、塩もみすると鮮やかな紅色になります。
 「サンゴ礁の近くによく生えてますよ。北部でも採れるけど、この辺りのトサカノリは質がいいみたい」と教えてくれたのは、エビス堂濱尻海産の濱尻博幸さん。
 トサカノリは刺身のつまや海藻サラダとして広く食されていますが、採取量が少ないため、漁港で入札が開かれているのは大泊港以外あまりないとのこと。資源を守るため、酸素ボンベを担いで潜る人は月に4?5日、素潜りの人は15日程度しか採取しないそうです。
 「冬になればウツボが旨いですよ。またおいで」と濱尻さんがニヤリ。海の幸は季節を変え何度も足を運んでこそ、至福の味に到達できるのだと思いました。

「さたでい号」は乗船料2000円で、30分間の海底散策が楽しめる

「さたでい号」は乗船料2000円で、30分間の海底散策が楽しめる

塩もみすると、まさに鶏のとさかのようにあざやかになるトサカノリ

塩もみすると、まさに鶏のとさかのようにあざやかになるトサカノリ

愛される郷土料理
あくまき

 根占港に戻り、南大隅町観光交流物産館「なんたん市場」へ。地元の野菜や加工品のほか、南九州地方で愛されているさまざまな菓子類が並んでいます。
 なかでも、ひときわどっしりした存在感を放っていたのは「あくまき」。一見ちまきのようですが、竹の皮に包まれているもち米には灰汁が染み込んでいて、何とも表現しがたい苦味が癖になる保存食です。戦国時代に兵糧としてつくられたのが始まりといわれ、西郷隆盛も西南戦争で重宝したとか。今は砂糖やきなこをまぶして食べるのが一般的です。
 なんたん市場にあくまきを出荷していた下八重光子さんが、自宅で作り方を教えてくれました。「今は市販の灰汁があるけど、昔は家で木灰を水に浸け、上澄み液をとって使ったもんです。だから各家庭であくまきの味が随分違いましたね」と下八重さん。
 作り方は、洗ったもち米を灰汁に一晩浸し、翌朝、竹の皮にもち米を包んで再び灰汁へ。3時間煮込んで米粒があめ色に染まったら出来上がり。端午の節句と盆の時期には欠かせない郷土料理です。
 この他、ニッケの葉で小豆餅を包んだ「けせん団子」、自然薯でつくられた蒸菓子「かるかん」、下駄の歯のように三角形をした黒砂糖菓子「げたんは」など、薩摩ならではの庶民的銘菓は数知れず。甘党にはたまりません。
 本土最南端の地で、「うんまかぁ!」と唸る爽快感を味わってみてください。

 

あくまきを煮込む釜戸の前にて。下八重光子さんと夫の一郎さん

あくまきを煮込む釜戸の前にて。下八重光子さんと夫の一郎さん

■次回は北海道下川町です。


 まちのデータ
人口
7404人(2018年5月1日現在)
おすすめの特産品
きびなご、タンカン、ねじめびわ茶など
アクセス
鹿児島空港から根占港まで
車で約1時間50分
連絡先
南大隅町観光協会 
0994-24-3120

いつでも元気 2018.7 No.321

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