いつでも元気

2018年6月29日

守りたい9条 
青年劇場「あの夏の絵」

文・写真 武田力(編集部)

 青年劇場「あの夏の絵」のリバイバル上演が、全国各地で予定されています。
 広島市立基町高校の生徒が、油絵で被爆体験を再現する取り組みをもとにしたストーリー。
 作・演出の福山啓子さんと主人公・浅野恵役の傍島ひとみさんに、作品の見どころを聞きました。

「あの夏の絵」の一場面(提供・青年劇場/撮影・V-WAVE)

「あの夏の絵」の一場面(提供・青年劇場/撮影・V-WAVE)

1枚1枚の絵に物語

福山啓子さん(作・演出)

 基町高校の取り組みを知って、高校生がこんなにリアルで迫力のある絵を描いたのだとは信じられませんでした。本当の被爆者が描いた絵ではないかと。
 2015年2月から基町高校へ通い始め、高校生たちが半年かけて絵を完成させていく様子を目の当たりにしました。不安を抱えていた生徒たちが、被爆者の証言に真摯に向き合い、描いては被爆者に見せ、指摘を受けて描き直し、絵が変わっていきました。
 「記憶の継承」という観点からすると、ただ単に証言を聞くだけでなく、それを表現することがポイントのような気がします。自分で何かを調べたり、どこかへ足を運んだり、何度も描き直す中で絵だけでなく描いている本人も変わっていきます。被爆体験はなくとも、被爆体験の絵を描いたという経験が彼ら彼女ら自身のものになるのです。
 被爆体験はひとりひとり違っていて、1枚1枚の絵に物語がある。被爆者のほうも絵を見て、記憶が掘り起こされるという相互作用が起こる。高校生と被爆者がともに思いを積み重ねていって、絵が完成したあとは被爆者も「記憶をつないでくれてありがとう」という気持ちになります。
 「あの夏の絵」の登場人物の被爆体験は、ある男性へのインタビューをもとにしています。モデルになった男性は、戦後70年以上経って初めて被爆体験を証言しました。「今の世界や日本の情勢に危機感を感じるから」と証言の動機を語りました。
 過去の出来事を教訓として未来に活かすためにも、私たちは実際にあったことを知らなければいけない。そして知ってしまったら、知る前の自分には戻れない。知ることがいろいろなことを考える出発点になると思います。
 作品自体は日常会話で構成されています。笑いもあるし、全体的に明るい作品です。おじいさん、おばあさんがお孫さんといらして、「どうだった」と話し合うきっかけにもなると思います。
 

未来につながる希望

傍島ひとみさん(浅野恵役)

役をいただいてから広島へ行って原爆ドームを見たり、基町高校の生徒さんと話して絵を見せてもらったりしました。広島の方々が無意識のうちに背負っている感覚が、私の中にだんだんイメージとして入ってきました。
 私が演じる恵は真面目で、人の痛みや辛さに敏感な女の子です。でもそれを人前では見せない。その落差をとても愛おしく感じます。
 原爆を題材にした作品でありながら決して暗くならないのは、未来につながる希望を描いているからだと思います。被爆は辛い体験ではあるけれども、それに向き合っていく高校生たちの真摯な姿勢が描かれています。被爆者の記憶と出会って衝撃を受け、絵を描くうちにどんどん積極的になっていく。
 昨年、この作品を基町高校で上演した際に、ある生徒さんが「なぜ被爆者の絵を描こうと思ったのか、自分が何を描いていかなければいけないのか、分かった気がする」という感想を寄せてくれました。きちんと伝わったんだなって、本当にうれしかった。
  学校に来なくなった美術部員の家を恵が訪れる場面があります。相手に一歩踏み込むことによって、心と心がぶつかり、交流が生まれる瞬間を自然に何気なく描いている。観たあとで隣の人に優しくなれる作品でもあります。作品を観た皆さんと一緒に、良い未来をつくっていければと思います。

■ 青年劇場「あの夏の絵」

【あらすじ】
被爆三世の浅野恵は、広島市内の高校1年生。美術部顧問の岡田路子が持ち込んだ「被爆証言を聞いて絵に描く」という取り組みに迷いながらも参加を決意する。東京から引っ越してきた工藤奈々、父が自衛官という飯島篤人と一緒にある男性(85)の被爆体験を聞くことに。3人は男性の証言に心を突き動かされるが、ある日、奈々が学校に来なくなり…。

【公演スケジュール】
6月25日(月)    18時半~杜のホールはしもと(神奈川県相模原市)
6月27日(水)    14時~いわきアリオス(福島県いわき市)
6月28日(木)    18時半~福島テルサ(福島市)
7月6日(金)    (1)14時~(2)18時半~仙台市福祉プラザ(宮城県仙台市)
7月7日(土)    18時~東松島市コミュニティセンター(宮城県東松島市)
7月13日(金)    18時半~練馬区生涯学習センター(東京都練馬区)
7月14日(土)    18時15分~寒川町民センター(神奈川県寒川町)
7月21日(土)    15時~やまなみホール(広島県神石高原町)
10月22日(月)    18時半~甲府市総合市民会館(山梨県甲府市)
その他、高知、広島、岡山などでも公演を予定

【問い合わせ】
青年劇場 03-3352-6990

※基町高校の生徒が描いた絵は広島平和記念資料館に寄贈され、活用されている

いつでも元気 2018.7 No.321

リング1この記事を見た人はこんな記事も見ています。


お役立コンテンツ

▲ページTOPへ