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2018年8月21日

ICTを利用した死亡診断 終末期医療変質の危険 学習・討議を

 全日本民医連看護委員会は六月二八日、厚労省が昨年発表した「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」について、厚労省医政局職員から説明を受けました。民医連としてどう考え対応していくか、理事会でも議論をすすめています。全日本民医連の牛渡君江副会長の寄稿です。

 昨年九月、厚労省が「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」を出しました。このガイドラインの背景には、医療や介護の規制緩和をすすめ、医師を増やすことなく、看護師の診療の補助行為(医療行為)の拡大によって超高齢多死社会に対応していくという政府の意向があり、注意が必要です。

ICTを利用した死亡診断を行う際の要件と実際

 ICTを利用した死亡診断を行う際の要件は五つで、すべてを満たす必要があるとされています。
(a) 医師による直接対面での診療の経過から早晩死亡することが予測されていること
(b) 終末期の対応について事前の取り決めがあるなど、医師と看護師と十分な連携が取れており、患者や家族の同意があること
(c) 医師間や医療機関・介護施設間の連携に努めたとしても、医師による速やかな対面での死後診察が困難な状況にあること
(d) 法医学等に関する一定の教育を受けた看護師が、死の三兆候の確認を含め医師とあらかじめ決めた事項など、医師の判断に必要な情報を速やかに報告できること
(e) 看護師からの報告を受けた医師が、テレビ電話装置等のICTを活用した通信手段を組み合わせて患者の状況を把握することなどにより、死亡の事実の確認や異状がないと判断できること
 遠隔での死亡診断の流れは、事前に本人と家族の同意を得た上で、医師の指示のもとで看護師が死の三兆候の確認や、遺体の観察・写真撮影などを行います。それらの情報はリアルタイムに電子メール等で医師に報告します。それをもとに医師が死亡診断し、看護師が死亡診断書を代筆し、家族に手渡します。

死亡診断等ガイドラインの問題点

①死後診察は対面が基本
 死後診察は、「人が受ける最後の医療」で、遺族にとっても医師からこれまでの経過の説明を受ける重要な場であり、医師の対面診察が基本と考えます。看護師には、本人の生前の意思にもとづく終末期ケアや、家族へのグリーフケアが求められていますが、ガイドラインは看護師に検死に近い業務を求めており、在宅医療の質の低下につながることが懸念されます。
 ガイドラインでは要件の一つとして「正当な理由のために、医師が直接対面での死亡診断等を行うまでに一二時間以上を要すること」とされています。しかし、「一二時間以上」には明確な根拠がなく、安易に拡大解釈される余地を残しています。
②個人情報の流出は死者の尊厳を脅かす
 ICTを用いた死亡診断については、適用と限界について検討の余地も多いと指摘されています。遺体の写真などの機微な情報をICTでやり取りすることは個人情報の流出などセキュリティー上の問題があります。死者の尊厳が守られるのか、疑問です。
③死因の正確性
 事故・自殺・殺人など、元々の疾病以外で死亡することもあります。異状の判断を遠隔で行うのは難しいことが法医学会などから指摘されています。正確な死亡診断は死因統計上も重要です。看護師に死亡診断書の代筆や医師の印鑑の使用(あらかじめ預かっておく)が認められており、文書の不正な作成の危険性があります。
 在宅医療は密室性が強く医療事故等が隠蔽(いんぺい)される可能性もあります。さらに単身世帯や認知症の増加などを背景に、在宅医療における安全性・倫理性がいっそう求められる中で看護師の過重労働と不安やストレスの増加が心配されます。

超高齢多死社会における在宅医療のあり方の議論を

 在宅で看取ることを死亡診断の手続きに矮小化してしまうことが、私たちがこれまで大切にして来た〝共同のいとなみ〟としての終末期医療を変質させてしまうのではないか、と危惧します。ガイドラインは、住み慣れた自宅での穏やかな看取りとは程遠いと思われます。
 医師の増員、地域で在宅医療をささえる医師間のネットワークの構築や、在宅における対面診察(死後診察)の診療報酬上の適正な評価など、在宅医療にとりくむ医師を安定的に確保するための政策こそ優先課題です。
 超高齢多死社会にふさわしい在宅医療のあり方の追求、それを担う医師養成のあり方について議論をすすめることが必要ではないでしょうか。
 全日本民医連はガイドラインについて理解を深めるための学習討議資料を発信しています。各県連、法人、事業所、職場で討議し、理解を深めていきましょう。

(民医連新聞 第1674号 2018年8月20日)

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