医療・看護

2018年9月4日

ひめは今日も旅に出る(11)「ありがとう ♥ おきなわ」

 ベルリンから帰国後、歩行困難が顕著になった。通院から近所の神経内科クリニックの訪問診療に切り替える。その新しい主治医になかばあきれられながら、2017年3月末、沖縄に飛び立った。というのも、3月はじめに風邪をこじらせ、激しい呼吸困難に陥り、以降24時間人工呼吸器装着となったばかり。予想より早く生命の危機に直面し、驚いた。痰がからみ、想像を絶する呼吸苦を経験。気が遠くなるほどの苦しさに、生きる気力を失いかけた。
 この苦しい体験が、私を旅に駆り立てた。
 少し回復しはじめると、じっとしていられなかった。予定していた沖縄旅を短縮したものの、美しい沖縄の海をもう一度眺めたいという思いは変わらず、夫、友人とともに〝決行〟した。不測の事態に備え、主治医からの紹介状を握りしめて。
 沖縄に到着すると、咳も痰も鼻水もしだいに治まった。ブーゲンビリアに囲まれ、青く輝く美ら海や夕焼け空を眺めながら心地よい風に吹かれていたら、食欲も湧いてきて。お気に入りの食堂を訪ね、おばぁの料理にほっと和んだ。ホテルのバーで久しぶりにノンアルコールカクテルもたしなんだ。
 翌日、辺野古の海を訪ね、強引な埋め立てがすすめられている大浦湾をこの目に焼きつけた。海に沈められたのは、沖縄の自由と民主主義のように思えた。キャンプシュワブ前であらがう一人になりたかった。またここに戻ってくると心に誓い、車内から手を振って声援を送った。
 ほんとに不思議。沖縄では、あんなに苦しかったことが嘘のように体調が安定し、生きる喜びをかみしめた。病気のことを忘れて、身も心も解放された。暖かい気候やリラックス効果の影響もあるが、身体は正直に反応し、元気になって帰ってきた。
 呼吸器をつけていても、旅も人生も楽しむことをあきらめなくていいよ! と自分の身体から教えられた。
 これを境に、そのときの身体の状態にあわせ、工夫や準備をしながら旅をプランニング。やめられないとまらない旅三昧がはじまった。


文●そねともこ。1974年生まれ、岡山県在住。夫・長久啓太、猫2匹と暮らす。2016年、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断をうける。

(民医連新聞 第1675号 2018年9月3日)

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