いつでも元気

2018年10月31日

まちのチカラ・東京都奥多摩町 
紅葉燃ゆる 東京の秘境

多摩川に沿って紅葉がしたたる奥多摩の秋(奥多摩観光協会提供)

多摩川に沿って紅葉がしたたる奥多摩の秋(奥多摩観光協会提供)

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

 都心から約1時間半の距離にもかかわらず、ワイルドな大自然が広がる東京都西部の奥多摩町。
 ハイキングはもちろん、食文化や伝統芸能も多種多彩で観光資源には事欠きません。
 この秋おすすめの観光スポットと人々の暮らしをお伝えします。

都民の水がめ奥多摩湖

 まずは奥多摩観光案内所の大澤新次さんに、登山初心者でも紅葉が楽しめるおすすめの場所を案内してもらいました。町内に17以上もあるハイキングコースの中から、大澤さんが選んでくれたのは「見はらしの丘」。JR奥多摩駅から車で12分、「水と緑のふれあい館」の裏手にある小高い丘です。
 10月中下旬になると、中腹にある展望台一帯が真っ赤に色づくのだとか。見下ろす先にはエメラルドグリーンの奥多摩湖。湖面には周辺の山々が映り込み、巨大な鏡のようです。
 奥多摩湖は1957年に完成した水道専用の貯水池で、最大水深142m、東京ドーム約150杯分の貯水量を誇ります。北に標高2017mの雲取山、南にブナ林が美しい三頭山、東に山岳信仰でも有名な御岳山を眺めることができ、登山をするにも、ドライブやツーリングを楽しむにも最高の景勝地。
 湖畔にたたずむ「山のふるさと村」に行けば、陶芸や石細工など様々な体験プログラムも楽しめます。また通称「ドラム缶橋」で、時間を忘れてのんびりと湖面を眺めるのもいいかもしれません。十人十色の奥多摩遊びを是非、堪能してください。

「見はらしの丘」で奥多摩について語る大澤新次さん

「見はらしの丘」で奥多摩について語る大澤新次さん

旧青梅街道むかし道

 気軽に紅葉が楽しめるおすすめコースをもう1つ。奥多摩駅から奥多摩湖まで約9㎞の山道を4時間かけて散策できる旧青梅街道の「むかし道」です。途中の吊り橋から渓谷を眺めたり、江戸時代の信仰を伝える道祖神を拝みながらウォーキングを楽しめます。
 むかし道のほぼ真ん中に、昨年新しいカフェがオープンしたと聞き訪ねました。神奈川県出身の井田直子さんが切り盛りする「茶屋榊」です。
 井田さんが家族5人で移住したのは4年前。関東周辺の自然豊かなところに居を構えたいと思い、さまざまな地域をドライブした中で、一目惚れしたのが奥多摩町でした。
  「一帯が国立公園に指定されているので、観光地化されていないところが気に入りました」と井田さん。夫婦ともに介護の資格を持っており、転職先の心配はなかったそう。今はカフェの経営に専念し、5歳の天君も〝看板息子〟として活躍しています。
 店の一角には、地元の人や移住したアーティストが丹精込めてつくった商品も。「自然の中にいると、いろいろなアイデアが浮かんでくるのだと思います」と井田さんが言う通り、羊毛アートや陶芸、写真、絵画など各種ジャンルの作家が町内で創作活動をしています。夫の孝之さんも、自らデザインしたオリジナルTシャツを販売。自然の力によって五感が研ぎ澄まされ、新しい自分と出会えるのも奥多摩暮らしの醍醐味かもしれません。

「むかし道」の途中には民家があり、旧街道ならではのノスタルジックな雰囲気も楽しめる

「むかし道」の途中には民家があり、旧街道ならではのノスタルジックな雰囲気も楽しめる

シカ肉に舌鼓

 奥多摩グルメの中で是非おすすめしたいのは、シカ肉を使ったジビエ(狩猟した獣肉)料理です。週3回は猟に出るという猟友会の大久保雄二会長に話を伺いました。
 「シカの猟期は11月15日から約3カ月間ですが、獣害対策のための駆除はほぼ年中やっています。時には20㎞の山道を1泊2日かけて行くこともありますよ」と大久保さん。
 猟は10人前後で、シカを見つけて犬を放す役の人と、逃げてきたシカを迎え撃つ役の人が無線機で連絡を取りながら行います。50年ほど前は猟師が約250人いたそうですが、現在は約30人にまで減少。しかし、5年ほど前から関西を中心に若い女性の間で狩猟がブームとなり、「狩りガール」という言葉まで生まれました。奥多摩町の猟友会にも2人の女性が登録しているとのこと。
 「確かに猟は、一度成功したら病みつきになりますよ。でも最近のブームで猟を始める女性は、たまに来て撃つだけだから当てにできないこともある」と苦笑します。
 シカ肉の美味しい食べ方を聞くと「刺しで食べるのが一番。特にレバ刺しは、ぷりんぷりんの食感ですよ」と大久保さん。細切りにした白髪葱と生姜を肉で巻き、醤油につけて食べるのがベストだそうですが、シカ肉は鮮度が落ちやすいため食堂などでの提供はしていないそうです。代わりに、味噌漬けにしたシカ肉の鉄板焼きを提供している「丹下堂」で、その旨味を確かめました。
 臭みはほとんどなく、特にロースは鶏肉より柔らかくていくらでも食べられそうな軽さ。部位ごとに食感が違うのも魅力です。ジビエ料理にハマった人たちが、猟にも興味を持つ気持ちが少し分かった気がしました。

伝統芸能を受け継ぐ

 伝統芸能が多いことでも知られる奥多摩町の中で、とりわけ「民俗芸能の宝庫」と呼ばれているのは小河内地区です。国指定の無形民俗文化財「鹿島踊り」をはじめ、「ささら獅子舞」「車人形」など数々の芸能が受け継がれています。
 小河内地区は、奥多摩湖のダム建設のために水没した集落が多く、ほとんどの世帯が周辺地域にバラバラに移転しました。その中で伝統文化を継承するには、人々の並々ならぬ熱意と努力があったはずです。
 取材期間中にちょうど祭りがあると聞き、見学に行きました。「鹿島踊り」は男性が女装して踊る独特の伝統芸能で、江戸時代初期以前の歌舞伎踊を伝える貴重なものとして評価されています。6人の踊り子が淡々と踊る様相は、質素でもあり華やかでもあり、動きのユニークさに見入ってしまいました。
 「ささら獅子舞」は秩父地方から奥多摩地方に多く見られる芸能で、奥多摩町では14地区で継承されています。この日披露されたのは原地区と川野地区の獅子舞。3頭の獅子が胴に付けた太鼓を叩きながら舞い、周りで四角い花笠をかぶった“ささらすり”が竹製の鳴り物を奏でます。
 ささら獅子舞の起源は定かではありませんが、町内に現存している書物には、古いもので1532年という記述があるそう。各地区で獅子の顔が異なり、中には長いツノがあるものや、イノシシのような顔があることも特徴です。
 原地区の「原獅子舞保存会」の松島敏明会長に現状を尋ねると、「今は舞手が少なくなったので、獅子をやりたい人なら女性や地区外の人でも受け入れます。いろいろな人の力で、末長く続けていきたいですからね」。
 芸能を受け継ぐ人は変わっても、地域に対する人々の愛着は変わることなく後世に伝わっていくことを願いながら、演目を終えた獅子たちに拍手を送りました。

3頭の獅子が舞う原地区の「ささら獅子舞」

3頭の獅子が舞う原地区の「ささら獅子舞」

奥多摩の観光地として日原鍾乳洞も人気

奥多摩の観光地として日原鍾乳洞も人気

■次回は香川県多度津町です。


まちのデータ

人口
5203人(2018年9月1日現在)
おすすめの特産品
わさび、そば、ジビエ料理など
アクセス
JR立川駅から奥多摩駅まで電車で約1時間
青梅ICから車で約1時間
連絡先
一般社団法人奥多摩観光協会 0428-83-2152

いつでも元気 2018.11 No.325

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