MIN-IRENトピックス

2018年11月6日

第14回 看護介護活動研究交流集会in宮城 無差別・平等の医療・介護とは 457演題で学び合う

 集会では、一日目の午後と二日目の午前中に一六の分科会とポスターセッションが行われました。人権を守る実践や無差別・平等の地域包括ケア、職場づくりや救急・災害時の看護・介護など九テーマで四五七の演題発表がありました。その一部を紹介します。

教育講演

1 地域で生き、地域で看取る~最期まで人権を守る

宮城・坂総合病院在宅診療科科長/リハビリテーション科医長 佐藤美希さん

 教育講演(1)では、佐藤美希医師が「地域で生き、地域で看取る~最期まで人権を守る」と題して講演しました。
 佐藤さんは、「地域に在宅難民・看取り難民を一人もつくらない」をモットーに、日々の診療現場から学んだことを豊富な事例とともに紹介しました。さまざまな事情で地域から孤立し、支援もほぼ受けずに暮らしている人も少なくありません。字が書けない息子と二人暮らしの女性(八〇代)は要介護4と認定されるも利用に至らず、褥瘡(じょくそう)の治療や訪問服薬指導などを続ける中で、栄養、衛生環境、疼痛などの身体症状の底上げにつながりました。佐藤さんは、「何もアプローチがないように思えても、何かしら始めることで、全体としてよい方向にすすむこともある」と語りました。
 がん終末期の人の在宅療養にもとりくんでいます。終末期の在宅療養の難しさは、「症状の変化が大きい」「ぎりぎりまでADLは自立し、急に変化する」「本人や家族の不安があることが多い」「医療情報が複雑だったり、器具が必要」「介護にあたる人自身が『死』にゆく人を見たことがない恐怖感」だと指摘。「がん終末期では、身体症状は一カ月、介護は二週間が勝負。ここをささえきる」ことだと強調しました。
 最後に、「医師ができることは身体的苦痛を取り除くことぐらい。医師、看護、介護、薬剤師が手をつなぐことで、在宅でもトータルペイン(全人的苦痛)に対処することができ、緩和ケアの核となっている」と強調しました。

2 SDH、社会的処方、そしてまちづくりへ

全日本民医連副会長 根岸京田さん

 根岸さんは、SDH(健康の社会的決定要因)の歴史からひもときました。SDHの研究は、一九六〇年代のロンドンで始まり、冠動脈疾患の死亡率が職位によって違うことが明らかにされました。それはその後、ソリッドファクツ(確かな事実)としてまとめられ、社会的因子が健康に影響することが確認されました。WHOの健康の社会的決定要因委員会は、二〇〇八年の最終報告書で「健康の不公平を軽減することは倫理的緊急事項である」と述べています。根岸さんは、「社会に積極的に働きかけ、健康的な社会を作るのがヘルスプロモーション活動であり、患者、地域、職員を対象にヘルスプロモーションをすすめるのがHPHです。人びとの健康を決定するのは経済的要因だけではありません」と指摘しました。
 人と人とのつながり(ソーシャルキャピタル)も重要な社会的因子です。失職や病気を契機に社会とのかかわりをなくすと人は不健康になります。薬だけでなく人とのつながりを提案できることが「社会的処方」です。「そのためには地域を知らなければなりません。地域に出る活動(アウトリーチ)を通じて地域とかかわり、まちづくりに参加することが求められています」とまとめました。

3 震災後の地域の現状と今後のまちづくりに向けて

東北大学准教授 石井山竜平さん

 東北大学准教授の石井山竜平さん(社会教育学)が「震災後の地域の現状と今後のまちづくりに向けて」をテーマに講演しました。
 石井山さんは「人間は生物の中で最も未熟に生まれ、種の存続に必要なことは社会の中で学ぶ」と、病院なども成人教育の場としての機能をもつと語りました。
 一方、極右政党躍進の危機にフランスで出版された絵本『茶色の朝』を紹介し、「日常に追われ、細かなことに気を配ることは難しいけれど、その結果、社会は暴走する可能性もある」「国民としての力量を高める日常を意識してほしい」と警鐘を鳴らしました。
 その上で、「宮城をはじめ被災地では震災後、いのちをささえるライフラインの向こう側に想像力を働かせたたかっている」と、関西電力が東京に売る電気をつくろうと宮城につくった石炭火力発電所に対する反対運動などを紹介しました。そうした人格をつくる学びの特徴も分析し、さようなら原発集会での福島県民の声から「こうした一人称の言葉を互いに伝え響かせ、“私たちは―”にしていきましょう」と呼びかけました。

4 多職種協働の職員教育

全日本民医連副会長 山本一視さん

 はじめに山本さんは「なぜ多職種協働が必要なのでしょうか?」と問いかけました。高齢者が増え、集中的な治療から時間をかけてケアを行うようになり、医療現場が病院から在宅へと変化していること、また、医療的な問題だけでなく身体機能や暮らし、行政的な問題もあり、そこには多職種でなければ見いだせない問題点とゴール、ゴールに至るまでの道筋がある、と説明しました。
 現場ではしばしば多職種間で情報の共有がうまくできず、患者・家族や利用者、かかわる専門職たちが困ってしまうことがあります。そのような困難を回避したり乗り越えながら、適切なケアを本人や家族といっしょに実践するために「協働のためのコンピテンシー」があります。多職種協働自体を学ぶためのプログラムが必要です。地域の医療健康ニーズから出発し、地域の状況・事情の中で学び、評価を行い、身につけていきます。
 山本さんは、「多職種協働は今後ますます重要になります。その質が人権を保障し尊厳を守る医療の質に大きく影響します。質の高い協働の場で働くことは大きな学びにもなります。『あの人と働きたい』と思ってもらえる職員になるために」と語りました。

分科会

1日目 第2会場

人権を守り、ともにたたかう看護・介護の実践/民医連のめざす看護とその基本となるものの活用と普及 

 二つのテーマで一七の演題が発表されました。前半では、複数の困難を抱えて支援が届きにくく、孤立しがちな人へ粘り強くかかわるとりくみが続きました。岐阜・こがねだ診療所は、四〇代のHIV脳症患者とかかわる際、学習会をして疾病への理解を深め、行政へも働きかけ、介護・障害のサービス併用を実現し、高額な自己負担を軽減しました。和歌山生協病院附属診療所は、経済的困難などから治療を中断する患者五六人を訪問し、三九人が治療再開に結びついたとりくみを報告しました。
 三重・津生協病院からは、無料低額診療を利用する患者の背景をSDHの視点で理解して支援し、職員のやりがいにもつながった経験。埼玉・行田協立診療所は、多職種でのカンファレンスで、看護師だけでは気づけない視点に気づき、困難の解決方法が豊かになった経験を報告しました。

1日目 第3会場

職場づくりと管理運営/看護職・介護職の確保と育成、介護職能としての組織化の課題

 職場づくりや看護・介護職員の確保と育成のとりくみなど一七の演題が報告されました。
 福井・つるが在宅支援センター和では、二人の退職希望を受け、「職場づくりで大切にしたい」五つの柱と二〇の大切を全職員の意見を反映して作成したとりくみ。
 兵庫・尼崎医療生協病院では、看護師増加に伴い連携が取りづらくなったため、ペアリング看護を試行。分業を基盤としながら協働することで残業が減り、コミュニケーションの大切さを学びました。
 東京・中野共立病院では、他院の介護職員がどんなとりくみを行っているか知りたいと要望があり、「病棟介護職交流集会」に参加。看護の補助だけでなく、介護職の専門性が必要と確認しました。

1日目 第4会場

無差別平等の地域包括ケアの実践

 一五の演題が報告されました。福岡・たたらリハビリテーション病院の「認知症ケア」では、センター方式の二四時間シートを導入し、多職種と協働してバリテーションを導入した経験を報告。北海道・訪看STほっとらいんは認知症の利用者の服薬について、看護師といっしょに内服セットを行い、飲み忘れが少なくなった事例報告しました。福井・あじさいは「多職種連携で支える老人保健施設での看取りの事例」について報告しました。

2日目 第2会場

安全・安心、質向上を目指す取り組み

 一四の演題が報告されました。「特養入居者の肺炎防止と口腔ケアへのとりくみ」を報告した沖縄・ゆがふ苑では、訪問歯科介入で、肺炎での入院数や入院期間が減少。課題として、日常的に入居者をケアする介護スタッフのデイリーサポートが必要なことが明らかになりました。大分健生病院は、アセスメントシートを導入した「内服薬自己管理に向けてのとりくみ」について報告。滋賀・陽だまりは「訪問看護の安全対策」で、経鼻経管栄養における胃チューブの定期交換での対応について語り、職場に安全文化を根付かせること、統一した規則や手順、利用者との信頼関係、良好な労働環境の必要性などを指摘しました。

2日目 第4会場

無差別平等の地域包括ケアの実践/救急・災害時の看護・介護

 発表は一四演題。地域や多職種連携のとりくみが多数報告されました。在宅医療で情報集約、調整のハブ機能を果たす訪問診療同行看護師の役割を明確にしたとりくみ(北海道・札幌西区病院)や、ケアマネ支援で通所と地域にささえられどんどん歩ける認知症ひとり暮らしを可能にした事例(高知・生協介護の窓口)では、連携での困難や医療側キーパーソンの看護師の役割が議論されました。
 災害時医療では、千葉・船橋二和病院がチェックリストを使い手術室で実施した防災訓練を、宮城・高齢者福祉施設「宮城野の里」が東日本大震災の経験と課題を報告しました。震災直後に支援に入ったという参加者も、当時を振り返り発言しました。

2日目 第5会場

患者・利用者の立場に立ったチーム医療の実践   

 一四本の演題が報告されました。福岡・千代診療所では、全身が汚れ異臭を伴うネグレクト状態の児童へ、行政と協力して行ったサポートを報告。合同カンファレンスや患児の自宅訪問、自宅の清掃を行政と協力しながら切れ目のない支援を行っています。
 山形・本間病院の通所リハビリは、入浴にこだわり送迎に間に合わないなどの問題がある利用者を、こだわりは「個性」と捉えて支援したとりくみを報告しました。
 大阪・耳原総合病院では、がん末期患者の家族に対してグリーフケアを施行。頼れる人がいないと不安を持つ妻に対し、いっしょに悩み、考える看護を行いました。


参加者の声

●認知症の利用者さんのやりたいことを叶えた岩手のとりくみが心に残りました。自分が働いている老健は規模が大きくて、認知症の方の個別の要求に応えられていないので。民医連で働くようになって、利用者の立場で考えることが増えました。(福岡・下川法香さん、介護福祉士)
●川嶋さんの、戦争のことを語り継がなければ、という使命感が伝わり、私たちも流されてはいけないと思えました。戦争でかり出されるのは、看護師や医師ですから。(大阪・溝口緑さん、看護師)
●在宅の分科会に出ました。みんな、職種を超えて患者さんのためにがんばっていました。これは看護師の仕事じゃないとあきらめず、職場で意思統一して、じゃあ何とかしようとなるのがすごい。団結力を感じました。(大阪・土岸ひとみさん、看護師)
●震災の経験を8分で報告するのは大変でしたが、震災当時、多くの支援を受けたので、その経験を伝えるのが私たちの使命だと思いました。現場は本当に大変です。こういう学びの場でこそ、民医連のすばらしさを感じて帰ってほしいと思いました。(宮城・大内誠さん、宮城野の里施設長)

(民医連新聞 第1679号 2018年11月5日)

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