MIN-IRENトピックス

2018年11月20日

SDHの視点で医療・介護の現場から社会保障運動を 人権としての社保運動交流集会

 全日本民医連は一〇月六~七日、東京都内で第四三期第一回人権としての社保運動交流集会を開き、三六県連から一三〇人が参加しました。二日間にわたって、民医連がとりくむ社会保障運動とは、人権の尊重という観点から学び、議論しました。
 (丸山聡子記者)

 冒頭にあいさつした藤末衛会長は、「困難をかかえる人が当事者になれる運動をどうつくっていくか、医療・介護の専門家集団として議論を」と呼びかけました。
 沖縄民医連の名嘉共道事務局長が、米軍新基地建設反対を掲げた玉城デニー知事を誕生させた経験を報告。「『一人たりとも取り残さない政治』との玉城さんの訴えが県民の支持を集めた」と紹介し、全国の支援に謝意を述べました。
 長野・健和会病院院長で小児科医の和田浩さんが学習講演「現場からとりくむ子どもの貧困と共同運動」を行いました。
 全日本民医連の山本淑子事務局次長が問題提起。二日目には一〇班に分かれて分散討論。国保問題基礎講座も行いました。

地域から「社保」の運動を6人が指定報告

 一日目の指定報告は六人が行いました。全要旨を紹介します。   

(1)「研修医のSDHの視点での地域レポート」山梨・甲府共立病院 若松宏実さん(医師)

 甲府共立病院では一年目研修医が毎年「地域レポート」を行っており、昨年度のテーマは「SDH」。二四時間営業のスパ施設で七年間生活していた女性が救急搬送された事例から、同じように施設で暮らす「気になるお客さん(気に客)」がいるのではと考え、三施設に聞き取りを試みました。
 二施設では、いずれも「気に客」がおり、飲酒や貧血などで月に数回、救急車を呼び、病院に付き添うこともあると分かりました。医療機関への要望として、健康相談会の実施や無低診のお知らせなどは歓迎との回答も得ました。
 聞き取り不可の施設では実際に一晩を過ごしました。プライバシーもなく、広さや衛生面から熟睡できませんでした。その後、一つの施設では毎月一回の健康相談会が始まり、継続しています。

(2)「金沢市消防局との事例検討」石川・城北病院 嶋本香さん(看護師)

 当院は法人・グループ内のセンター病院であり、急性期機能を持つ病院です。二〇一四年に搬送依頼の実情を把握するのを目的に金沢市消防局と懇談。一五年からは、消防局との症例検討会を年一回開催し、救急搬送の背景にある「生活困窮」「手遅れ死亡事例」などに目を向けてきました。
 簡易宿泊所で長期に生活し生活保護申請時に市役所から救急搬送された症例や、ひとり親世帯で、雪かきの間、幼児を車内に置き、一酸化炭素中毒になった症例などを検討。当院から、無料低額診療事業について、救急の現場から見える健康の社会的決定要因についてミニレクチャーをしました。消防局からは、「救急の現場では直接住まいを見るので、生活背景を見る機会は病院で勤務する人より多い。その人がどういう人生を歩いてきたかという点も考慮すれば、情報の引き出しが増えると感じた」との感想が出されました。
 SDHにつながる発見時情報が発信されるようになり、「社会的処方」が必要な患者への早期のかかわりが可能になりました。

(3)「県連社保学校のとりくみ」千葉・船橋市二和在宅介護支援センター 上野和美さん(SW)

 千葉民医連は二〇一五年から中堅職員を対象に県連社保学校を開始。背景には「民医連職員の中にも自己責任論がある」「平和運動に比べて苦手意識が強く、社保運動への参加が縮小している」ことへの危機感がありました。
 月一回、半年間にわたって学習。フィールドワークも交えながら持ち寄った事例を深め、浮き彫りになった課題をもとに、実際に自治体との懇談を行います。
 参加者からは、「社保活動は苦手だったが、身近な問題だと理解できた」「事例検討で社保の視点が持てたので、現場でいかしたい」などの感想が。卒業後は、現場で気になる患者さん訪問や事例検討を始めたり、自治体交渉に参加する職員も生まれています。

(4)「地域での共同・共闘など、まちづくり」宮城民医連 金田基さん(事務)

 宮城県の県民意識調査では二〇一七年、復興が「進んでいる」「やや進んでいる」を合わせて初めて五〇%を超えました。しかし、被害の大きかった沿岸部では「遅れている」と感じている人が仙台より三倍も多くなっています。
 災害公営住宅入居者調査では、「体調が悪い」「病気がある」「眠れない」「相談相手がいない」などの回答が前年より増加。睡眠障害は六割にのぼり、自主再建や集団移転した人と比べても高いことがわかり、「災害公営住宅に長く住む人ほど体調が悪くなる」と報道されました。同住宅の高齢化率は五二・一%で県平均(二六・九%)を大きく上回っています。
 宮城県は震災後の医療費免除制度を一三年三月に打ち切り、受診数は減少。災害公営住宅の家賃は収入超過者は特例を廃止し、例えば月額一万九三〇〇円から九万九四〇〇円に激増するなど、とても災害公営住宅とは言えません。
 宮城民医連は炊き出し・何でも相談会を五〇回超、災害公営住宅訪問活動にとりくみ、医療費免除復活や介護保険利用料の減免、家賃補助継続などを求めています。

(5)「自治体キャラバンへの職員参加と無低診の学校への周知」沖縄民医連 高崎大史さん(事務)

 沖縄は全国一の貧困問題を抱えています。地域から社保運動を広げようと、全県で地域社保協の結成、再開を重視してとりくんでいます。一七~一八年、五つの地域社保協を結成、三社保協が活動を再開しています。各地で民医連事業所が中心的役割を果たし、自治体キャラバンも重視しています。
 一七年には、学校給食無料化や給付制奨学金に向けて改善回答を得、就学援助の前倒し支給も実施に向けた検討がスタート。無料低額診療事業については県教育庁からの周知・徹底も実現しました。
 こども医療費助成制度の拡充を求める請願署名は、県小児科医会会長や那覇市地区医師会会長なども呼びかけ人になり、全県に広がり、一〇月議会で採択されました。

(6)「介護現場の実態」東京・福祉協同サービス 石田美恵さん(ケアマネジャー)

 一〇月から訪問介護(生活援助中心型)の規定回数を超えるケアプランの適正化が始まりました。七月の社会保障審議会では、経団連の委員が「月一〇〇回を超える生活援助というのは、誰が見ても異様な数字」と発言。これに対し、介護事業出身の委員が「利用者の生活基盤を揺るがし、サービスレベルの低下を招きかねない」と警鐘を鳴らし、認知症の人と家族の会の委員は「月三一回以上と言うのは一日一回。一日一回で一人暮らしの認知症の人が在宅で暮らしていけますか」と発言し、強く反対しました。
 私の事業所では一六〇人の利用者のうち生活援助が規定回数を超える人は一〇人。いずれも認知症で独居などの利用者です。自治体によってはケアプランの提出に加え実地研修もあり得ると、介護事業所を牽制する動きもあります。ケアマネは萎縮し、必要な回数を制限しかねない。利用者の声を代弁するケアマネとして、回数制限の不当性を訴えていきましょう。

(民医連新聞 第1680号 2018年11月19日)

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