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2018年12月4日

フォーカス 私たちの実践 認知症への個別対応、個別ケア新潟・特別養護老人ホームあがうら 「何が何だかさっぱりわからない!」に安心を届けたい

 新潟・特別養護老人ホームあがうらでは、認知症患者の日常生活上の「?」に視覚情報を補い、安心して生活できるように、工夫をしました。第一四回看護介護活動研究交流集会での、介護福祉士の長谷川祥代さんの報告です。

 私はユニット型の一〇人体制の職場で働いています。利用者のほとんどは認知症の症状があり、「なぜ私はここにいるんだろう?」「(職員から)何か話しかけられたけど、さっぱりわからない」「トイレに行きたいけど行き方がわからない」「なぜドアの所に私の名前が書いてあるの?」など、日々「?」がいっぱいの生活を送っています。
 そこで、物理的にも心理的にも優しい環境が必要だと考え、視覚情報から認識できることを増やし、安心して過ごせるように工夫しました。

■手作りの工夫でわかりやすく

(事例)Aさん 九〇代 女性
 要介護3、障害者の日常生活自立度(寝たきり度)A2、認知症日常生活自立度IIIb。アルツハイマー型認知症、過活動膀胱で、一日に一五回ほどトイレを利用。歩行は独歩だが、ふらつきが顕著で基本的には職員が付き添う。
 Aさんはトイレを頻回に利用しますが、トイレの場所に迷ったり便器に座る方向がわからず、ななめに座ることがありました。また備品の用途がわからず、特に汚物入れは、「なぜパンツ(オムツ)を捨てるんだ」と取り出してしまうことがありました。
 そこで以下の工夫をしました。
(トイレ)
(1)出入口が視覚的にわかりやすいように表示を変更。
(2)ごみ箱やペーパータオルなど、備品の用途がわかるように説明文をつける。
(3)手すりに色シートを張る。
(4)呼び出しボタンを見やすくする。
(5)便器に座る位置、方向などを足型などでわかりやすくする。
(フロア)
○短期記憶は保てないが、目がよく字はきちんと読めるので、ホワイトボードに用件を記入し示す。
 経過は次の通りです。
(トイレ)
(1)→次第に「お便所はここだろっかね?」と情報を読み取ることが増えた。
(2)→文字を声に出して読みながら理解していることが多くなった。
(3)→手すりはほとんど使用せずそのまま立とうとすることがたびたびあった。「手すりにつかまって、と書いていますね」と言うと理解している様子も見られた。
(4)→目印を大きくしても、呼び出しボタンを使うことはなかった。
(5)→足型のシートは当初、玄関と勘違いして靴を脱いでしまうことがあった。文字説明を加えると、向きや角度を床の目印に沿って理解し、便器に座ることができた。
(フロア)
○不安や帰宅願望が出現する時にホワイトボードを活用。落ち着きが戻ることもあった。

■一人ひとりの個性を大切に

 とりくみを通じ情報量が増えたことでAさんの安心感が増し、それが持続することも増えました。また、精神状態が安定している時は、読解力も上がり、落ち着いていました。身体機能さえあれば一人でもトイレを利用できると思われるほどの改善もありました。
 一方、ユニット内は依然としてAさんにとって「寄り合い所」のような所のようで、「家族はいつ迎えに来るかな?」と不安になる瞬間が一日に何回もあるようです。そうした心理的側面もより深く学べました。
 現在、帰宅願望が強くなる夕暮れ時には、気の合う職員や他の入居者が近くで話し相手になるようにするなど、できる範囲で工夫を続けています。
 人間は一人ひとり、特徴、個性があります。今回の方法もAさん以外の人には当てはまりません。まずはそれを知ろうとすることが、利用者を理解していくうえで大切であると考えます。

(民医連新聞 第1681号 2018年12月3日)

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