医療・看護

2019年1月8日

ひめは今日も旅に出る(19)「彼らの手を忘れない」

 医学生担当としておつきあいしていた医学生たちとサヨナラしてから約1年後。車椅子で人工呼吸器をつけた私は、少し緊張しながら、卒業試験真っ最中の彼らと再会した。なんだか、彼らがキラキラまぶしく見えた。空白の時間が走馬灯のように思い出された。感慨深くて、切なくて、悔しくて、心中複雑だったが、再会できたうれしさを分かちあえ、笑顔になれた。医師国家試験を控えた彼らのために、富士山五合目の神社で求めた御守りを贈り、激励した。来春また会おう! と握手を交わし、その約束を励みに寒い冬を堪えた。
 正直に白状すると、彼らと再会したいとは思っていなかった。医学生の記憶のなかの私は、元気な頃の私のままでいさせてほしいと願っていたから。でも、彼らとの対話(8回目参照)を通じて、内面も外見も含め、ALSとともに生きるありのままの私を伝えることこそ、自分にできる唯一のことだと気づかされた。ALSは私の人生の全てではなく、一部にすぎないということも。彼らに背中を押され、新しい一歩を踏み出せた。彼らの卒業を見届けたいという気持ちが、いつしか私の目標になった。
 早春の2018年3月、彼らが我が家を訪ねてくれた。一緒にあちこち出かけて学んだこと、ゴハンを囲んでのお悩み相談など、ともに過ごした時間を振り返りながら、卒業をお祝いした。
 驚くことに、彼らも私も一番心に残っているのは、水俣病検診&フィールドワークだった。医療観だけでなく、人間の気高さや生き方、社会のあり方などたくさんのことを投げかけてくれた水俣病をともに学びあえたことは、かけがえのない財産となり、それぞれの胸に深く刻まれていた。
 私の心はじわじわ熱くなった。彼らの卒業を見届けることがかない、医師人生のはじまりをともに祝福できた喜びが身にしみた。すてきな贈り物をありがとう。
 彼らとの出会いは私の大切な宝物。あたたかい、彼らのその手を忘れない。


文●そねともこ。1974年生まれ、岡山県在住。夫・長久啓太、猫2匹と暮らす。2016年、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断をうける。

(民医連新聞 第1683号 2019年1月7日)

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