いつでも元気

2006年1月1日

「ダメ」といわない 認知症でも生きいき暮らす グループホーム 千住大川 ~東京・足立区~

 グループホーム千住大川は、〇四年六月にできたばかり。九人 ずつの共同住居(居室は個室)が二つあり、一八人まで住むことができます。「ダメといわない」「徘徊、問題行動などの言葉を使わない」などをモットーに、 利用者の希望・自主性を尊重したケアを実践し、がんばっています。 (多田重正記者)

 

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あたたかい日差しの中で

 朝一〇時、玄関を入ると女性がほうきで掃除をしていました。「おはようございます」とあいさつすると、「あら、ちょっと待っててくださいね」。ボラン ティアさんかと思ったら入居者さんでした。
 広くて明るい食堂では朝食が終わった人もいれば、食事中の人、まだ起きていない人もいます。食事の時間は自由です。
 庭では洗濯物を干していました。干しやすい高さに物干しがつるしてあります。取り込んだ洗濯物を、持ち主を確認しながら仕分けている人もいます。
 「あれ、この服、名前が書いてないよ」。「さっきの服と同じ柄だから…」と職員がヒントを出すと、「あ! ここに名前があった!!」と笑いがおきました。
 昼近くに、職員がいる事務室にお酒が好きな二人がお邪魔してビールで「乾杯」。よくあることだそうです。食材を買いに行く人、昼食をつくって盛りつける 人、職員につきそわれて喫茶店に出かけていく人もいました。
 「どうぞどうぞ、召し上がって」と笑顔でお茶を出してくれたおばあちゃんは、なんと九八歳。足腰も応対もしっかりして、とても認知症にはみえません。

《一人当たりの生活費用》
家賃 月58,000円
光熱費 月約10,000円(実費)
食費 1日1,200円(おやつ・調味料ふくむ)
共益費 月5,500円
介護保険利用料 約25,000円
※利用料は要介護度により変化

認知症のとらえ方大事

 「千住大川」では開設当初から、入居者の行動をいっさい制限していません。その理由について施設長の金澤彩子さんは、「認知症は、脳の一部が萎縮しているだけ。『認知症の人』ととらえるのではなく、認知症も含めたその人全体というとらえ方が大事」と話します。
 認知症になっても全部できなくなったりわからなくなるわけではない、「問題行動」「徘徊」にも、その人なりの理由があるといいます。
 「散らかしているように見えても、本人は片づけるつもりだったとか。尿をもらしてしまっても、途中でトイレがわからなくなって間に合わなかったとか。徘 徊の理由も、買い物にいきたい、仕事にいきたいなどさまざまです」
 入居者が家に帰ろうとすることもよくあることですが、決して否定しません。
 「間違ってはいますが、自分の家ではないとわかっていることが逆に重要で、閉じこめられたら抵抗するのは当然です」

行動には理由が
買い物にいきたい 仕事にいきたい…

希望よくきき、援助に工夫

 職員は見守りつつ援助することが基本。入居者が迷ったり困ったりしていても、最初から「こうしたら」と指示したり答えを出したりするのでなく、その人の希望をよくきくよう徹底しています。
 外出時は職員が付き添うこともありますが「一人で出歩ける」自尊心を保つために、入居者だけで外出したときは、気付かれないように後を追い、見守ります。
 入浴時も体を洗うのを忘れがちな人には、いちばん目につくところに石けんとタオルを置きます。服を着る順序を間違えやすい人には、その人が着る順序に服 を重ねておくなど、工夫しています。「お風呂に入りたくない」という場合も「他人の家でお風呂に入るのは恥ずかしい」など、その人なりの理由があります。 職員から見れば入浴は清潔を保つために必要でも、必ずしも入居者の価値観に一致するわけではありません。

寝たきりが歩けるように

 これらの一人ひとりを尊重にしたケアで、居住者が自分らしい生活を取り戻しています。
 〇五年五月に入居したAさん(84)=女性=は四月に娘が行方不明になり、不安感を訴えて警察や消防署に何度も電話。大声を出すなどしていたため精神安 定剤や睡眠薬を処方されましたが食欲がなくなり、水分も十分とれなくなりました。やがて寝たきりになって褥 創ができ、ヘルパーや看護師も支えきれなくなり入所してきました。
 「千住大川」では、まず精神安定剤などをやめました。そして口を動かしてしゃべること、食べることから開始。すると食欲が戻って意欲も増し、自分で買い 物に出かけたり階段の上り下りまでできるようになりました。いまでは食事も一人でできます。見違えるような変化です。

反対だった地域も変化して

「祭りに出るな」などの注文

 当初、グループホーム開設の説明会を開いたとき、地域からは反対の声が次々。「わけもわからない人たちを つれてくるなという反応でした」と金澤さん。祭りに出るな、外出時は必ず入居者一人に一人の介助者がつけ、などの注文が。地域のヘルパーさんの「何てこと いうのか。誰だって認知症になる可能性はあるのに」とのひとことで、何とかおさまりました。しかし開設前、職員が商店街をまわったところ、「外に出るんで すか」「ボケているんでしょ」などの声がきかれました。
 一カ月ほどしたときのこと。ある高齢者がグループホームを訪ねました。「私も入りたいんですけど」。職員は認知症でないと入居できないことを説明しまし たが、「商店街ではみんな、あそこの人たちはボケていないといっている」との話に、「よし、私たちのやっていることが認められてきたんだと思いましたね」 と金澤さん。
 地域で喫茶店を営む後藤明男さん。当初からグループホーム開設を温かく見守ってきた一人です。
 「自分たちで散歩したり、買い物にいったり、すごくよくやっているね。うちに来るお客さんも、みんな(入居者に)よく来たねっていってくれてるよ。とて も認知症になんて見えない」と笑顔で話してくれました。
 今後の抱負について、金澤さんはこう語ります。
 「このケアが特別だとは思いません。こういう支援の方法があることをわかってほしい。同じ考えで実践してくれる人がふえてくれるといいなと思いますね」

写真・会田法行

■会田さんの写真集に『被爆者 60年目のことば』『バクダッド 路上の少年たち』があります。
■グループホーム 認知症の高齢者が、家庭的な雰囲気の中で心身を落ち着け、残された能力を引き出すことなどを目的にした住居型の施設。

いつでも元気 2006.1 No.171

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