民医連新聞

2003年4月5日

私の意見〈6〉 見解「『医療事故』、『事件』と私たち民医連の立場」に

航空労組連絡会議 村中 哲也さん

なぜ“独立した”事故調査機関か

 「民医連の立場」の記述の中に「第三者による医学、医療の専門的な立場からの点検と評価が不可欠」とあり、例として「航空機事故の際の事故調査委員会」があげられていますね。

 日本に航空事故調査委員会が運輸省の中に常設されたのは一九七四年です(昨年四月からは航空鉄道事故調査委員会)。

 独立した航空事故の調査の専門機関を設立することは、それまでの航空労組の長い間の要求でした。私たちはその「生みの親」だと自負しています。

 私たちはさらに、調査委員会が運輸省の内部に設置される場合でも、事故の利害関係者を一切排除し、中立的な立場で調査を行うように要求しました。

 医療事故もそうだと思いますが、事故の原因や遠因には、行政上の制度欠陥からくるものも多いのです。理想を言えば、政府の下部機関でもない、完全な独立機関が望ましいのです。

国際的なルール

基づく事故調査 航空労組が事故調査委員会に現在強く要求しているのは「国際的なルールに基づく事故原因の調査」です。

具体的には、航空法第一条(航空法の目的)にもある「国際民間航空条約(シカゴ条約)」の準拠です。この条約には一八の附属書があり、その第一三附属書が事故調査に関するもので、世界中の航空事故の経験から練り上げ英知を集めたレベルの高い文書です。

 医療の分野でも役立つと思います。みなさんにも参考にしていただきたい。

 附属書や、その下位規程であるマニュアルなどには「事故調査の唯一の目的は再発防止」とし「事故に関わっ た者を刑事的に訴追するのは調査委員会の任務ではない」と宣言し、さらに「国家として設置した事故調査委員会の報告書は刑事裁判に使ってはならない」な ど、重要な記載がたくさんあります。

 それは、再発防止のための真相究明を唯一の目的とする調査委員会では黙秘権が認められておらず、自己に不 利益な事実も明らかにしなければならないからです。日本では必ずしも守られていませんが、曲がりなりにもこの条約に基づいた「航空事故調査委員会設置法」 と「航空事故調査手続法」が定められています。

 政府に独立した事故調査委員会を設置させたり、航空法体系に国際的なルールを盛り込ませたのも航空労働運動の力です。

誰よりも早く事故現場へ
 私たちが運動の中心に安全性の問題を据えたのは、一九六六年三月に民航労連五組合で結成した航空安全推進連絡会議(航空安全会議)結成がきっかけです。

その後、パイロット自らの手で事故原因を究明して再発防止に向け提起をするという運動に発展しました。

 私たちの提言は国内だけでなく、世界のパイロット組合や、航空事故調査関係者からも、高い評価を得ています。

 それをささえているのが専門職集団の「航空労働者自身による科学的な事故原因の調査分析」です。事故発生後、全国各地の仲間がいち早く現場に駆けつけたり、実機による実験で推定原因の裏付けを行います。そのため、仲間がアラスカに渡ったこともあります。

 私たちは「同じ事故を繰り返さず、安全な航行をめざす」ことを掲げ、国民・利用者の支持や理解を基に運動する視点を大切にしています。安全性をめぐっては、医療の分野と共通することも多いと思います。

 日本の航空労働運動の歴史五〇年のうちの大半は「空の安全を守る」たたかいでした。私たちのとりくみが参考になればさいわいです。

(聞き手 汐満忍記者)

(民医連新聞 第1305号 2003年4月5日)

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