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2019年1月31日

栄養たっぷり 東葛学食 東葛看護専門学校

文・新井健治(編集部)写真・亀井正樹

 東京民医連の東葛看護専門学校(千葉県流山市)は月に一度、東葛健康友の会ら地域の力を借りて学生食堂「東葛学食」を開いています。
 「頑張っている学生を応援したい」と地域住民。
 「食の大切さが分かる看護師に」と教員。
 栄養たっぷりの学食が、明日の看護師をめざす若者の心も温めます。

 取材したのは昨年11月。正午になると約100人の看護学生が続々と集まります。この日のメニューは麻婆丼、中華スープ、もやしとザーサイの和え物で、たったの100円。
 「100円でこれはでかいね」「すごく助かる」「温かいご飯が食べられるのが嬉しい」「今日はお弁当を作らなくていいから楽」など、トレーを手にしながら口々に。おかわりをする学生もいます。
 学食が始まったのは2017年10月。きっかけはある女子学生の一言でした。
 東葛看護専門学校は教室での学びだけでなく、病院や介護施設での「実習」を重視しています。実習中はレポートを作成するため、夜遅くまで学校に残る学生も。同校は職員室に台所があり、お腹を空かせた学生に教員が食事を作ってあげることもあります。
 ある日、教員の作った味噌汁を飲んだ女子学生がポロポロと泣き出しました。聞けば「母は台所に立ったことがない。バイト先のまかない以外で、温かい味噌汁を食べたことがない」と言いました。
 「貧困の拡大で家庭では“食の崩壊”も起きている。食の大切さを患者さんに伝えられる看護師になるためにも、しっかりした食事をとってほしい」と話すのは同校副校長の山田かおるさん。
 地域住民に相談すると、東葛健康友の会の会員ら5人がボランティアで調理を引き受けてくれることに。とはいえ100食分は大変。2日前に買い出し、前日に仕込み、そして当日は朝から準備をします。「少しでも安い食材を求めて業務用スーパーまで行きます」と話すのは友の会幹事の久保知代恵さん。
 久保さんは同校創立時の元教員。「ふだんはコンビニで済ませている学生に喜んでもらえるよう、おいしくかつ栄養バランスに配慮して作っています」。炊き込みご飯やハンバーグ、中華丼など若者が喜ぶメニューが月替わりで並びます。

学食を準備する東葛健康友の会会員。左から2人目が久保知代恵さん

学食を準備する東葛健康友の会会員。左から2人目が久保知代恵さん

「私が苦しいのは社会の問題」

 医療資源に乏しい地域で住民が署名を集め、1995年に開校した東葛看護専門学校。在校生126人の4分の1が社会人経験者で、奨学金の利用は8割にのぼります。
 「もともと経済的に困っている学生が多かったが、ここ1~2年は入学金の準備さえできないという学生が増えてきた。法人(東京勤労者医療会)から一括で108万円を貸与する制度もできました」と山田副校長。
 生活実態をつかもうと、学生自治会が一昨年に「アルバイト実態調査」を実施。8割の学生がバイトを経験し、使い途は学費や生活費が7割。なかには子どもを寝かせてから、週末の夜中にコンビニで働くシングルマザーもいました。
 「アンケートに救われたのは、私自身です」と話すのは、自治会役員として調査をまとめたAさん(21歳)。Aさんは5人きょうだいの長女で、高校3年生や小学5年生の妹もおり、親を頼れません。奨学金を限度額まで借り、週3~4回は午後11時まで飲食店でバイト。「勉強しなきゃと思っても、授業中にどうしても眠くなってしまう」と言います。
 Aさんは「こんな生活は親のせい」と思っていましたが、調査結果を見て「私が苦しいのは社会的な問題なのだ」と気づきました。
 「実習中は睡眠2時間という友人も。それでもバイトをしないと生活できない」と語る自治会役員もいます。
 自治会は流山市に「給付型奨学金」の制度を求める請願書を提出しました。前自治会長の鄭輝樹さんは「調査をして終わりではなく、少しでも負担を軽減できるよう、自分たちでできることを考えた」と言います。

東葛看護専門学校の前自治会役員。左端が鄭輝樹さん

東葛看護専門学校の前自治会役員。左端が鄭輝樹さん

シングルマザーも入学

 同校にはさまざまな学生がいます。いったん就職した後に、改めて看護師をめざす人。結婚して子どもができてから、夢をあきらめきれなくて入学する人。14歳の子どもがいる30代のシングルマザーもその一人。
 女性はエステの仕事をしていましたが、「人の命にかかわる重い仕事に魅力を感じて」、奨学金や市の給付金を受け30代で新たな道にチャレンジ。「周囲は10歳以上、歳の離れた子ばかり。今考えると、すごい決断をしたなあ、と改めて思う」と言います。
 他にも美容関係で働いていた数人の女性に話を聞きました。「女性一人でも生きていけるよう手に職をつけたい」「安定した収入を得たい」という理由だけではありません。30代の女性は「患者さんの立場に立った看護師に。そこだけは絶対に忘れない」ときっぱり語りました。

「認識が180度変わった」

窪倉みさ江校長

窪倉みさ江校長

 学食が終わると、学生は自主的に片付けお皿を洗います。「ごちそうさまでーす」「おいしかったでーす」と言いながら。
 学生と一緒に学食を食べた同校校長の窪倉みさ江さんは「入学当初は『病気も貧困も個人の責任』と思っている。そんな学生たちが民医連の事業所で実習し、みるみる変わっていく」と指摘します。
 Bさん(23歳)もそんな一人。いったんは銀行に就職しましたが、体を壊して入院。そこで出会った看護師に憧れて転職を決意しました。
 「高校の友人はバイトを経験したことがない子ばかり。調査結果を見て、お金に困っている人が多くてびっくりした。この学校が特殊かなと思ったが、地域フィールドに参加し日本全体の問題と分かった」と振り返ります。
 「今まで見えていなかったことが見えてきた。この学校に入って、世の中の認識が180度変わった。本当に、冗談じゃなくて」とBさん。
 さまざまな生活背景を抱えながら懸命に学ぶ学生たちを、東葛学食は応援しています。


地域フィールド 東葛看護専門学校のカリキュラムのひとつ。社会の実態をフィールドワークを通して学ぶため、町工場や農家、福島原発事故の被災地などを訪問

いつでも元気 2018.2 No.328

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