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2019年2月5日

育ち合う職場づくりと青年職員の育成を交流

 全日本民医連は、昨年11月に青年援助担当者交流集会、今年1月に職場づくり・職場教育実践交流集会を開きました。全国で、青年職員の育成をサポートする活動や、「医療・介護活動の2つの柱()」の実践を通して職員が確信を持ち、民医連運動の担い手として育ちあう経験が広がっています。
 (丸山いぶき記者)

医療・介護活動の2つの柱
(1)貧困と格差、超高齢社会に立ち向かう無差別・平等の医療・介護の実践
(2)安全、倫理、共同のいとなみを軸とした総合的な医療・介護の質の向上

青年援助担当者交流集会 名古屋

 昨年11月19~20日、名古屋市内で青年援助担当者交流集会を開き、35県連から133人が集いました。
 第43回総会方針では「あらゆる活動の中で青年職員の育成の視点を」と、青年職員へのていねいな援助をすすめることを提起しています。本集会には県連や法人、事業所の青年委員や教育委員、JB委員などが参加。学びや討議で全国の経験や教訓を深め、青年職員の活動をサポートする援助者の役割などを確認しました。
 学習講演は「職場で青年とともに育ち合うには」と題し、大阪教育大学教授の白井利明さんが行いました。8本の実践報告(表1)から2本の概要を紹介します。

実践報告 青年の自主性と自発性を育むとりくみ

「岡山県民医連ジャンボリー活動アンケート調査分析から見えてきたものと県連青年育成委員会からの3つの提案」片山聖さん(岡山・県連青年育成委員会)

 岡山では2017年、ジャンボリー(JB)活動のアンケート調査を行いました。きっかけは、県連JB実行委員会との懇談での「自主的活動というのなら、すでに破綻している」という発言。
 対象は(1)35歳以下の職員、(2)副主任以上の役職員、(3)JB実行委員経験者で、1104人が回答。アンケート結果から、職員の半数がJB活動にかかわったことがなく、理由の1位は「興味がない」。実行委員になりたい人はわずか0・4%。一方、役職者の71・6%は「JB活動は民医連にとって必要」と回答しました。
 県連青年委員会では、(1)JBの意義と位置づけを議論し職場内で共通認識をつくる、(2)援助体制を確立し、とりくみやすい状況をつくる、(3)JBを「知っている」「かかわったことがある」職員を増やす、という3つの提案と具体策を示し、県下複数法人で議論が始まり、変化も現れています。

実践報告 日常の医療・介護・職場の中での青年の成長

「リハビリテーション部門での青年育成と社保・平和活動のとりくみ」飯尾智憲さん(北海道・勤医協中央病院リハビリ科技師長)

 当法人は職員数約1600人のうちリハ職員は196人。ここ数年は毎年15人以上の新卒を採用し4割が5年以下の職員です。
 勤医協中央病院はPT46人、OT18人、ST14人の計78人。1997年の「初期研修制度」から「医療変革と民医連運動の担い手となる」と課題を位置づけ、綱領にもとづく人づくりを重視してきました。面接で全員が「民医連運動」の目標を立てます。
 中には情勢や政治を自分のこととして捉えにくい職員もいます。役職者も、効率化や経営的成果を求められ悩んでいます。
 しかし、中堅職員が民医連は他にはない貴重な組織との認識を深め、後輩に語るようになりました。青年職員も反原発集会や辺野古支援連帯行動に参加し、自分の目で見て学び、変化しました。
 大切なのは行動に参加した職員をささえることと、学びを生かせる場づくり。参加=成長ではありません。粘り強く成長を信じ、ささえていきます。


(表1)青年援助担当者交流集会

◆実践報告1「青年の自主性と自発性を育むとりくみ」
(1)「岡山県民医連ジャンボリー活動アンケート調査分析から見えてきたものと県連青年育成委員会からの3つの提案」岡山民医連青年育成委員会
(2)「青年ジャンボリー『自主的活動』から『職員育成の一環』へ~香川民医連のジャンボリー活動~」香川医療生協
(3)「ゆるつど(“ゆるい集い”の略)のとりくみ~青年職員の成長・発達のきっかけになる場を多彩に提供する事を実践してみて~」東京民医連
◆実践報告2「日常の医療・介護・職場の中での青年の成長」
(4)「リハビリテーション部門での青年育成と社保・平和活動のとりくみ」北海道・勤医協中央病院
(5)「全職種症例検討会について~民医連 医療介護活動 青年職員の成長の場として~」長野・南信勤医協地域連携相談センター
(6)「SDHをテーマにした卒後3年目研修のとりくみ」埼玉・浦和民主診療所
◆実践報告3「民医連の歴史の継承と運動の中での青年育成」
(7)「恒常的な青年育成の場―京都民医連平和塾―10年のあゆみとそれから」京都・信和会
(8)「福岡・佐賀民医連50周年パネルディスカッション『過去・現在・未来』を企画して」福岡・佐賀民医連


学習講演 職場で青年とともに育ち合うには

白井利明さん(大阪教育大学教授)

 職場で青年と育ち合うには、(1)説得ではうまくいかないときは、問題を青年と率直に話し合い、共有することです。責任追及だけになってしまうと、青年が離れてしまうことがあります。
 また、「結婚したいですか」と聞かれれば「はい」と答える人でも、「結婚すべきだ」と言われれば反発したくなります。自分の意見の自由が侵されるからです。(2)青年の話をよく聞き、決定の過程に参加してもらうと、青年は当事者意識を持てます。
 そして、(3)青年を変えようとしても変えることができない場合は、援助者・上司の方が変わります。人は自分を認めてくれる人を認めます。青年の言い分をまずこちらが受け入れなければ、こちらの意見も聞いてもらえません。また、青年が相手を変えることができたという有能感を持ちます。この有能感が青年が自ら動こうとする意欲をつくります。
 さらに、(4)職場教育で組織の歴史を語り継ぐことは必要です。「我われはどこから来たのか(過去)、我われは何者か(現在)、我われはどこへ行くのか(未来)」を伝えることは、組織の一員としてのアイデンティティーをつくります。そのアイデンティティーとは職場の方向と自分とが一致していることをいい、共同体感覚ないし居場所感のようなものです。青年に語り直してもらって、青年からも学ぶとさらによいでしょう。

* * *

 現代社会は、少ない椅子を競い合い、座れなかった人を自己責任と切り捨て、椅子が足りないことに目を向けない競争社会です。こうした中で自分を責めてしまう青年もいます。自分たちが引き受けるべきことは何か、逆に引き受けられないことは何なのか、を語り合う関係をつくりたいものです。

職場づくり・職場教育実践交流集会 大阪

 1月10~11日、大阪市内で職場づくり・職場教育実践交流集会を開き、40県連から、県連や法人、事業所の管理者、職員育成責任者など、222人が参加しました。
 第43回総会方針は、「医療・介護活動の2つの柱()」の実践で民医連の諸活動(経営、職員の確保と育成、運動)の好循環をつくることを提起しています。本集会では、職員育成の課題について学び考え、育ち合いの職場づくりや多職種協働、「2つの柱」の実践を通じて職員が成長した経験を持ち寄り、交流しました。
 学習講演は「2つの柱の実践と多職種協働~その中での職員育成」と題し、全日本民医連の山本一視副会長が行いました。6本の実践報告(表2)から1本の概要を紹介します。

実践報告 「産婦人科で考える職員の育成ととりくみ」英岡和香子さん(埼玉協同病院産婦人科看護長)

 当産婦人科では、ある手遅れ事例との出会いから、社会的ハイリスク分娩を断らず、患者をみる視点を強化してきました。しかし、妊婦が置かれている逆境を自己責任と考える職員もいて、同じ方向を向く難しさも痛感。そこで、部門運営の仕組みを考えなおしました。
 部会は参加型(グループワーク)にし、朝会で病棟で起こっていることを発信、「パートナーシップ・ナーシング」のリシャッフル(10~20分程で業務分担変更や残務整理をする時間)を使い、SDHカンファなどを行います。一人で抱え込まない、みんなで考え決める、が病棟の方針です。
 当初は「よくやるわ…」という様子だった、他院からきたベテランも、「お節介でもていねいにかかわりたい」と言ってくれるようになりました。困難事例でも職員があきらめず、患者の権利を考えられる病棟をめざしています。

学習講演 2つの柱の実践と多職種協働~その中での職員育成

全日本民医連・山本一視副会長(千鳥橋病院院長)

 全日本民医連が、第43回総会方針でさらに前進させることを提起している「医療・介護活動の2つの柱」の背景には、貧困と格差の広がりという国民の困難と、超高齢社会における医療・介護の変化があります。
 低所得者の要介護認定や死亡リスクは高所得者の2倍。健康の社会的決定要因(SDH)に挑むことは世界の潮流です。高齢化によるケアニーズの増大は、医学医療を治癒からQOLの向上へ、病院から地域ケアへと劇的に変化させています。その中で多職種協働は不可欠です。
 多職種協働は「2つの柱」の実践の中でも基本要素です。憲法を掲げ無差別・平等の医療・介護をめざす民医連にとって、向上させるべき「医療・介護の質」の根本には人権があります。安全や技術の向上の目的も人権擁護です。多職種協働の質は、人権を保障し尊厳を守る医療の質に大きく影響します。
 多職種協働は、患者の主体的な参加を促す方向での職種間の協働であり、単なる職能の合計ではありません。それ自体として学び、身につけるべき能力です。
 では、どうやって身につけるのか? 多職種協働の理論と実践は現在進行形で発展しています。自分の中にある多職種協働のモデルを疑ってかかる“学びなおし”が必要です。
 地域によって健康ニーズは異なります。多職種協働も各事業所、職場で意識して、その地域や環境に即した実践の中で、磨いていく必要があります。同時に、一人ひとりの医療従事者にとっても意識されたプログラムで学ぶべきものです。
 目標、方略、評価を意識して教育プログラムをつくり、その実践を振り返る中で、多職種協働の質を高めていきましょう。


(表2)職場づくり・職場教育実践交流集会

実践報告から
(1)「SDH視点でのとりくみ・職場の変化」奈良・日の出診療所
(2)「産婦人科で考える職員の育成ととりくみ」埼玉協同病院
(3)「全職員で作成した“職場づくりで大切にしたいこと”」福井・つるが生協在宅総合センター和
(4)「これから始めるリハビリテーションの職場づくり」東京・東葛病院
(5)「平和で優しい未来を 子どもたちへ」長野中央病院
(6)「西淀病院医局と医局事務課の職場づくり」大阪・西淀病院

(民医連新聞 第1685号 2019年2月4日)

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