医療・看護

2019年2月19日

ひめは今日も旅に出る(22)「困っていることはありませんか?」

 2回目の登場、オットの長久です。相方(ひめ)が大きな信頼をおいている訪問リハビリのYさん。相方の個別ニーズをよく把握され、生活の質維持のために尽力いただいています。昨年、たまたま私もいた時のことです。リハビリをひととおり終え、帰る時間も近づいてきた頃、「いま何か困っていることはありませんか?」の問いかけがありました。
 これ、なかなか聞けないんです。個別ニーズをつかむためには必須の言葉ですが、それに対応する責任がうまれます。「何かあれば言ってくださいね」は待ちの言葉ですが、「困っていることはありませんか」はアプローチの言葉です。でも、めんどうくさい話になるかもしれません。単純にいって仕事が増えるわけです。その日も、その言葉を発したがために、あーだこーだの話になり、15分の仕事延長…。
 この言葉には、思い出があります。相方の病気を診断した大学病院では、いちども「何か困っていることはありませんか?」の言葉を医療者から聞けませんでした。相方へのアプローチがなかったのです。困っていることだらけだったのに。
 一方、訪問診療中心でクリニックをされている現在の主治医のところに初めて訪れたとき(2年ほど前)、診察からまもなく「いま一番困っていることは?」の言葉がかけられました。すごく救われた思いを感じたのを、はっきり覚えています。「ああ、患者個人をみてくれている。この言葉を待っていたんだ」と。主治医への信頼はこの言葉で確定しました。
 なにげない、日常の言葉です。「困っていることは?」。でも日本社会から、だんだんとこの言葉が消えているような気がします。このかんの自治体対応でも、この言葉を聴くことはありませんでした。聴くことは、責任をうみますから。聴かなければなにも発生しません。ラクです。だから「困っていることはありませんか?」の言葉を発せられる人を、ぼくはすごいなと思うんです。


文●そねともこ。1974年生まれ、岡山県在住。夫・長久啓太、猫2匹と暮らす。2016年、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断をうける。

(民医連新聞 第1686号 2019年2月18日)

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