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2019年2月19日

これでばっちりニュースな言葉 国民生活に直結する統計不正問題

労働運動総合研究所 事務局次長
こたえる人 斎藤 力さん

 厚生労働省の「毎月勤労統計調査」が長年、誤った手法で行われ、隠蔽(いんぺい)され続けていました。同統計は、国の統計の中でも「基幹統計」と法律で定められた極めて重要なもの。このデータは雇用保険や労災保険の算定をはじめ国民生活の多岐にわたる分野で使われています。労働運動総合研究所事務局次長の斎藤力さんが解説します。

■「身内調査」に批判

 政治的、社会的に大きな問題となっている厚生労働省の毎月勤労統計調査(以下、「毎勤統計」)。厚生労働省の特別監察委員会は1月22日に報告書を公表しましたが、問題の解明が不十分なばかりか、「身内の調査」と批判され、再調査を余儀なくされる始末です。
 毎勤統計では、規模500人以上の事業所は全数調査とすべきところを、2004年から東京都に限って3分の1の抽出調査とし、データ補正もしていなかったために、04~17年の「きまって支給する給与」額が少なく算定されました。その結果、雇用保険や労災保険などの給付が必要額よりも少なくなり、追加給付のために来年度予算案の修正も迫られました。

■800億円近い修正

 問題発覚後に再集計をした結果、雇用保険(失業給付など)約276億円、労災保険約241億円、船員保険約16億円、事業主向け助成金約31億円の追加給付と、加算額約37億円および事務経費約195億円を加えた約795億円もの修正が必要となりました。
 事務経費は今回の問題がなければ不要なものでした。しかも労働者からも保険料を徴収する労働保険特別会計から支出する、ということです。

■結果の利用は広範囲

 毎勤統計は、雇用、賃金、労働時間の変動を明らかにすることを目的に行われています。1923(大正12)年の「職工賃銀毎月調査」「鉱夫賃銀毎月調査」を前身として95年の歴史をもち、統計法にもとづいて国の基幹統計と位置づけられています。
 調査はのように、厚生労働省→都道府県統計主管課→(統計調査員)→調査対象事業所という流れで行われています。
 毎勤統計の結果は広範囲に利用されています。
 労働保険の給付以外にも、未払い賃金の算定、最低賃金や年金、各種白書、月例経済報告・景気動向指数・国民経済計算、人事院勧告、さらにはILOやOECDへの定期的報告、民間調査研究機関などの景気判断や景気予測、民事事件・事故などの補償額の算定など、日本経済や国民生活に直結するものが多くあり、影響は多大です。

■本質に迫る解明を

 なぜ東京都の規模500人以上の事業所で抽出調査が行われるようになったのか、昨年1月分から補正データを使った賃金額が公表されたのはなぜかなど、問題の本質にかかわって解明すべき点が残されています。仮に、「アベノミクス」の成果の強調、消費税10%引き上げへの布石など統計の政治利用があったとしたら、安倍内閣の存立にかかわる重大な問題となります。

■背景に「行革」の影響も

 日本の公的統計部門の体制の脆弱(ぜいじゃく)さも指摘されていますが、その背景には国・地方で吹き荒れた「行政改革」の影響があります。今回の問題は、統計部局や厚生労働省だけの問題にとどめるのではなく、自民党政府がつくり出してきた、統計軽視、統計の意図的利用を含めた構造的な問題として徹底的に追及されるべきものと考えます。

(民医連新聞 第1686号 2019年2月18日)

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