医療・看護

2019年2月19日

相談室日誌 連載458 病気で職と住居失った青年 貧困招く非正規雇用(兵庫)

 30代半ばのAさん(男性)は、夜間診療の時間に駆け込んできました。高熱、悪寒、倦怠感、食欲不振があり、インターネットで当院の無料低額診療事業を知ったそうです。来院時は住所不定で、軽自動車で寝起きしていました。肺化膿症で入院しましたが、保険証も所持金もなく生活保護を申請。幸いすぐに生活保護が決定し、受診時にさかのぼって医療扶助が出ました。治療ののち軽快退院となりました。
 Aさんは働き盛りでしたが、派遣会社ではまともな賃金をもらえず、寮費を支払うと生活はぎりぎりの状態でした。身分は非正規雇用。病気になり、数日休んだだけで解雇となり、寮を退去させられ、車中での生活を余儀なくされました。「収入も保険証もなく、医者にかかろうと思ってもかかれなかった」と話しました。
 Aさんの事例から、働き盛りでも病気を機に貧困状態に陥り、命をおとしかねない状況まで転落してしまう青年非正規労働者の実態が浮かび上がりました。いかに若者が社会からこき使われ、貧困に至るのか、考えさせられました。
 Aさんはインターネットの検索で当院の無低診を見つけ、受診につながりました。結果的には生活保護の医療扶助で治療できましたが、無低診の情報から当院につながったため、無低診が命を救ったとも言える事例でした。無低診が広く国民に認知され、医療費を心配する人が安心して受診できるようになることを望みます。
 しかし、退院時に福祉事務所から「住所がなければ生活保護は継続できない」と言われ、住まいを探しましたが、見つかりませんでした。Aさんは自家用車を手放したくなく、「車中泊を続けながら派遣の仕事をする」という意思を示し、生活保護辞退届にサインをしました。こうしたことからも、社会構造を変えなければ、日本の貧困問題は解決しないと思いました。
 Aさんのような事例を出さない社会をつくるため、医療活動のみならず、社保活動、医療生協運動を広げていかなければならないと感じた事例でした。

(民医連新聞 第1686号 2019年2月18日)

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